3話 来栖怜司。33歳賢王
この世界の魔法には、7つの属性と6つのランクがあるらしい。
属性は火・水・土・気・雷・聖・闇の7つ。
ランクは上の3ランクと下の3ランクに分けて考えた方が良いらしい。
『初級魔法』、『中級魔法』、『上級魔法』が下の3ランクで、これらは俺がイメージした魔法の通りだった。属性は単一で、相性が有る(水は火に強いとか)。
しかし、それより上のランクになると、属性の相性があまり関係なくなるらしい。
第四のランクは、『舞級魔法』。
これは、使った後に操作できる魔法だ。追尾が代表的である。
第五のランクが、『夢級魔法』。
これは、結果を思い浮かべることで、そこへ導くための術式が発生する。という魔法だ。
これには高度な訓練が必要らしく、習得した場合は英雄扱いという話だった。
そして、第六ランクが、『幻級魔法』。
これは、世界を改変する規模の術式で、神の代演をするようなモノだとか。
次は武器の話だ。武器にもランクが有り、国王から貰った武器は、世界に25個しかない伝説武器だという話だ。
一つ目は透明な日本刀?で、名前は『極北の彩色』。
二つ目は虹色の宝石で、名前は『塞の守岩』。
質に出して活動資金の足しにしようとサラに言ったら、品性の欠片も無いと叱られ殴られた。特大ブーメランである。
とまれ、これで一応の準備ができたのだが、今後の方針についてサラから提案が有るらしいので耳を傾ける。
「私達の評価値は高いけど、戦闘経験が少ないわ。だから冒険者ギルドで腕を磨いた方がいいと思うの」
「冒険者ギルドか……。確かにいいと思うけど、この辺りではやれないな」
「それはもちろん分かってるわ。この近くでやると、すぐに私達だってバレるもの」
この近くで活躍しすぎると、やっかい事に巻き込まれるかもしれない。
サラもそう考えたらしく、続けざまに言葉を紡いでいく。
「今私達がいるのは、リヒト王国の中心部なんだけど、南下していって、連合王国に行くべきだと思うわ」
「その心は?」
「連合王国には迷宮が多いから、腕を磨くのにちょうどいいからよ」
「ゆっくり暮らすとか言ってた割には、えらく前のめりな計画を立てるもんだ」
瞬間、サラにギロリと睨まれる。
「勘違いしないでよね。あなたの修行のためですから」
「へいへい」
そう言って、進路を馬車乗り場に変更しようとすると、サラに手をつかまれる。
「何だよ?」
「その前に、職業を決めないといけないわ。職業が決まってないと、クエストが受けられないのよ」
「職業って、何か意味有るのか?」
するとサラが大きく目を見開く。
「だってあなた、職業が決まればクラス補正が得られるじゃない」
言われてみると、ステータスカード発行の際に、職業の存在は示されていたな。
一応納得して、サラの尻を追っかけることにする。しっかり者の尻を追うのが、一番賢い生き方なのだ。
という訳で、隣町のギルドに向かう事となった。職業が決まれば、冒険できると思う……多分。
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ギルドに入って、女性係員にステータスカードを渡す。
瞬間、係員が叫び声を上げようとするが、慌てて彼女の口を塞ぎ、震える耳に短くささやく。
「隠密に頼む。バレたら粛清しなくちゃいけないからな」
出まかせの脅しを口にすると、係員は黙ってこくこくうなずき、職業一覧を俺の前で広げた。
その中で興味のある職業だけを検討していく。
――職業条件――
・勇者
評価値150以上。体力6以上。
・賢者
評価値150以上。知力6以上。
・革命家
評価値200以上。知力8以上。特技分析をB以上で所持。
・天覇将軍
評価値230以上。体力7以上。知力7以上。特技将才をA以上で所持。
・挑戦者
評価値250以上。
・賢王
評価値250以上。知力10、特技将才A以上、分析Sを保持。
・救世主
評価値300以上。
・魔王
評価値300以上。魔力8以上。全ての属性にA以上の適正。
※魔王位への即位には、幻級魔法習得が必要。
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「なぁ、サラ」
「何よ」
呼ぶと、サラは髪を指に巻き付けながら、けだるげに顔を向けてくる。
「勇者って雑魚くないか?」
「それはそうよ。魔王の前に立てれば勇者なんだもの」
「そんなもんなのか」
「そんなものよ。ガチガチに支援してワンチャンスを狙うんだから」
「蛮勇も勇の内ってか。面白くねぇな……」
身も蓋も無い話だが、言われてみればそうかもしれない。サラが言ったように、挑戦者こそが、俺の考えていた勇者の職業なのだろう。
「ここには、条件しか書いてないが、クラス補正はどこで分かるんだ?」
「クラス補正とスキルは、取得するまで分からないのよ。勇者以下の職業なら、過去に取得者が居るから判明してるけど、それ以上になると聞いたことが無いわね。ちなみに勇者のクラス補正は、幸運A付与だったわね」
「分かった。ところでサラの職業は?」
するとサラがステータスカードを取り出し裏返す。
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『暗黒騎士王』
・条件
評価値200以上、闇属性A、特技剣術A、統率C以上。
・職業補正
アンデッドモンスターとの親和性を付与。
勇者や『聖』属性に対する特別攻撃魔法である、闇夢級魔法『邪の陥穽』使用可能。
・職業スキル
暗視B、魔力操作B
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「まるで、勇者と戦う中ボスだな」
感じた事を直接言うと、サラが可憐にはにかむ。
「その通りよ。勇者一行の多くは、暗黒騎士王に殺されるのよ」
……やだ、この子怖い。
震えていると、サラは俺の方に身を乗り出す。肩と肩が触れ合い、吐息が耳にかかる。
「一見、救世主が高い様に見えるけど、賢王が一番なりにくい職業ね。知力10と、特技分析Sっていう条件は難しいわよ。事実、救世主は私の選択肢にも現れたし」
確かに、サラの評価値は302なので、救世主の条件を満たしている。
「サラはどうして、暗黒騎士王を選んだんだ?」
「前例が有ったから、かしら。アンデッドとの衝突が無くなれば大分楽だしね」
数分迷った後に、俺は決断する。一度決めたら変えられない選択かもしれないが、一番気に入ったものを選ぼうと思った。
サラの暗黒騎士王を見て、ガクガク震える係員に決定を告げる。
「決まりました。賢王にします」
すると係員は首を傾げ、震える声で問い掛けてきた。
「よろしいのですか? 一度決めたら取り返しがつきませんよ?」
優しい人だ。俺が脅したというのに、俺の心配をしてくれている。
しかし俺の決定は揺るがない。
「お願いします」
瞬間、閃光が迸り、ギルトが眩く照らされる。
ステータスカードが炎に包まれ、裏面に字が浮かび上がる。サラにも見てほしくて、思わず彼女の腕を引く。
そして……二人で浮かび上がる字を追っていく。
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『賢王』
・条件
評価値250以上、知力10、特技分析S、特技統率A以上を所持。
・職業補正
スキル
以下3つの固有夢級魔法が使用可能。
『賢者の慧眼』――領域内で指定した1属性の魔法を禁止する。
『精神基準』――対象の精神状態をリセットする。効果は術者の精神状態に依存する。
『終焉計画』――対象とする空間から偶発性を取り除き、小規模の改変を行う。精度・威力は術者の知力、知識、感覚器官に依存する。
・職業スキル
陣形把握A
遠隔指令A
禁呪詠唱A
確率操作D