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24話β 勝てそうになかったので、『殺そうとしてすみません』と魔王に謝りました

「死ね」


 それは啓示だった。この世の頂点に君臨する真の強者からの命令だった。


 いつ山車だしから降りた?

 いつ背中に回った?

 どうやってここまで近付いた?


 全ての疑問が『なぜ』の段階で止まっていて、それを考える糸口さえもが見付からない。


 私は考えることを止め、最大出力で全身から魔力を放出する。


 すると不意に首を掴んでいた手が離れ、私は無我夢中で何者から距離を取る。


 そして走り出した瞬間、先ほど殺した騎士王につまづいて無様にコケる。


 体がぐるりと一回転し、顔を上げると、首を掴んでいた手の持ち主が正面に居た。


 その存在は真っ白な仮面を被っていて、黒地に赤の軍服で身を包み、腰には黄金のサーベルを、頭上には鉄の王冠をかぶっている。年齢は定かでないが、身長と体格から男性だということだけ分かった。


 仮面の中から私を貫く紅い眼光と、身にまとう覇気によって直観する。


 天才の中の天才の中の天才。四大魔国の一つに数えられる、ミハエル魔国の王とはコイツのことだと、全身の細胞が理解した。


「北真王座っ!」


「いかにも」


 北真王座は私の叫びに答えると同時に、機敏な動きで手刀しゅとうを振りかざした。


 私は咄嗟に近くの剣を拾い、彼の手刀に合わせ打つ。


 絶対に間に合わないタイミングだったが、生存本能が実力以上の速さを実現した。


 剣が手刀に触れた瞬間、信じられないほどの力が伝わってくる。


 まず感じたのは手首から肩、そして首の骨まで砕けてしまうような衝撃。


 続いてやってきたのは、山が降ってきたような重圧だった。


 持ち上げるとかの次元でなく、どう力を振り絞っても、落下の軌道すらずらせないような圧力である。


 そんな手刀の一撃を、しかし私は弾いて見せた。


 少し前の私なら、一撃で吹き飛ばされていたかもしれないが、竜王ミラと戦闘した経験が思わぬ形で活きたのだ。


 ――化け物だけど、ミラさんの一撃よりは軽い。


 この男よりも強い存在を知っている。戦ったことが有るという事実が、立ち上がる勇気を私に与えた。


 立ち上がり、体に着いたホコリを払っている間、不気味な沈黙が空間を支配する。


 私は目線だけ動かして、エスティアの息が有ることを確認し、ビームスに念話を送った。


「貴方は彼女を連れて離脱。契約の権利も彼女に引き継ぐわ」


 指示を飛ばし、ビームスがエスティアを担ぎ上げるのを見届ける。驚いたことに、彼の邪魔をする魔族は居なかった。


 不思議に思いながら、北真王座に視線を戻すと、彼の目に僅かながら感情が宿っているように見えた。


「みな、驚いている。人間が余の殺意から逃れたという事実に。人間が余を恐れていないということに」


「冗談じゃないわ。私は貴方をとても恐れているわよ。えぇ、とても」

 

 怖いと思っているのは間違いないのだが、私の言葉は否定される。


「真の恐怖を感じた者は、身体の自由を失い、口を開くことさえ叶わない。貴様のそれは真の恐怖ではない」


 そう言いながら、彼は私の顔を見て、心底不思議そうに首を傾げた。


「驚いたことに、殺意も抱いていないようだ。となれば、殺し屋であると考えられるが、貴様の行動は計画殺人にしては粗末すぎる」


 王座は私に話しているようだが、何と返していいか分からない。


 私が沈黙していると、王座は数秒考えて、呆れた様子で口を開く。


「貴様、何かのついでに余を殺そうとしたのか?」


「…………」


 当たっている。当たっているが、ここでどう返すのが正解なのか、私にはさっぱり分からない。


 何か言わなければいけないと思い、口を開いてみたのだが、突いて出た言葉は最悪だった。


「その通りよ。殺そうとしたことについては謝るわ」


 言った瞬間、慌てて口を押さえるがもう遅い。これは取り返しのつかない失言だ……。


 しかし、王座の反応は、私の予想とは少しばかり異なっていた。


 彼は人目をはばかることなく、仮面を付けたまま笑い始めたのだ。


 静寂に支配された空間で、北真王座の笑い声だけが響き渡る。周囲の魔族も人間も、事態を把握できず凍ったように固まった。


「殺そうとしてごめんなさいだと? 余が王座に就いて以来、我が愚妹ぐまい以外にそんな口を利かれたのは初めてだ。実に面白い」


 ひとしきり笑った後、北真王座は軍服の襟を整え、思いがけない一言を口にした。


「余を興じさせた褒美を取らす。貴様の望みを述べるが良い」


「急に言われても、すぐには出てこないわ」


「冗談はよせ。貴様の人生における障害を除く事も、あるいは目標を成就せしめる事すらも、この街に関わるものであれば、それなりの確度で達成するだけの力を余は有している」


 正論過ぎてぐうの音も出ないが、正直に言うかは微妙なところだ。


 ……私達はバラバラになったあの洞窟で、こいつの部下を殺しているのだから。


 私が考え込んでいると、北真王座は部下を呼び、腰に差していた黄金のサーベルを渡した。


「現刻より貴様が指揮を取れ。余は雅さに欠ける街よりも、不敬な人間に興味をそそられた」


 ――こうして、成り行きで北真王座と街を歩くことになった。

βをもう1話投稿します。次回が始まりの終わりって感じです。

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