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23話β 乗り掛かった舟には、勝算無く突撃する勇者が乗っていました

 ビームスとの契約を終えた私は、しばらく休んだのち、お偉いさんの行列を見物することにした。


 話を聞いたところ、ビームスも行列の1人としてお偉いさんの警護をするとのこと。私の奴隷となるのは、その仕事を終えてからと約束したので、どの道それまで何もできない。


 私はエスティアの手を引き、行列の到来を待っている。


 ちなみに、私が立っている場所には、さきほどまで鎖につながれた奴隷が座り込んでいた。


 驚くべきことに、奴隷の扱いはそれほど酷くないらしく、彼らの多くは健康体だったし、傷も見受けられなかった。


 店主が言うには、奴隷を雑に扱うと資産価値が下がるので、良い状態で管理しているとのこと。


 奴隷を虐める商人もいるらしいが、虐待なんていう非効率な経営をしている奴隷商は、メインストリートに店を構えられないそうだ。


 しばらく棒立ちしていると、軽装の魔族がやってきて声を張る。


「道を開けよ。いと尊き方がお通りになる」


 そこまで尊いなら、奴隷市場になんて足を運ぶなと思うのだが、魔族の尊いは、悪の頂点を意味するので、考えるだけムダかもしれない。


 そのまま待っていると、太鼓の音が聞こえてきて、やがて大きな山車だしが見えてくる。


 山車だしの前には、馬に乗った魔族が5人ほどおり、ビームスの姿もそこに有った。


 山車の中には人影が見えるが、簾で隠されていて、姿や形はさっぱりだ。


 別に興味は無いのだが、見えないと悶々とするもので、私は近くの魔族に聞いてみた。


 この何気ない行動が、私の人生最大級のトラブル&転機を呼び込むと知らないまま……。


「ねぇ。アレに乗っている人は何者なの?」


 話し掛けられた魔族は、慎重な口調で、私の質問に答える。


「尊き人だ。本来なら地上に出てくることは無いし、これが知れたら大陸中のニュースになるぞ」


「もったい付けないで、スパっと教えなさいよ」


「世界に数えるほどしか居ない、そしてこの大陸には5人も居ない存在……真王座のお一人だよ」


「嘘でしょ。アレは北真王座ってこと?」


 私はもう一度山車を見る。本当にあの人影が北真王座だとしたら、これは貴重な光景だ。


 この世界には『王座』という言葉が有る。これは種族や国のおさにつく称号で、その中でも『王』を極めた存在には、通称『真王座』の称号が付く。


 真王座になるための条件は沢山有り、代表的なものとしては


・国の法を変えることができる

・その王以外に、王を名乗る者が国内or種族内に存在しない

・他国に承認されている

・直轄領が国土面積の20%以上

 

 などが挙げられる。


 そして、この『真王座』を王宮や王城以外で見ることは、基本的に無い。


 真王座は『格』が高いので、他人と面会する際は、基本的に相手が出向いてくるからだ。


 つまりこの状況は、真王座以上との面会が予定されているか、北真王座自らが出向かなければいけない事件が起きたことを意味する。私も一応は王族なので、この理解に間違いは無いはずだ。


 余談ではあるが、こんな真王座と互角以上の『格』を持つ存在が身近に居る。


 ミラ=エレクト=シャイリンは、王座(雷竜王座=雷竜族の王)と王位(雷極位らいきょくい=雷魔法の第一人者の称号)の二冠なので、外交の場では、真王座と同格扱いになる。


 そして、ミラが怜司の守護獣なので、連鎖的に怜司も真王座と同格になる。


 あの竜を手懐けることの重大さが、改めて理解できるというものだ。


「それが本当だとしたら凄い話ね。北真王座なんて、この先一生拝めないわよ」


 その言葉に魔族も大きくうなずく。


「お前、人間にしては話が分かるな。普通の人間なら、泣いて逃げ出すか、魔王討伐のチャンスと言って突撃するものなんだがな」


「私は逃げも戦いもしないわ。まぁ、正義感の強い人間なら、死ぬ覚悟で突撃……」


 瞬間、ハッと気付く。


 ――私の連れは誰だった?

 

 正義感が強くて、竜王相手にも一人で立ち向かう勇気が有って……その職業は……。


「エスティア!」


 叫んで隣を見た時にはもう、彼女の姿はそこに無かった。


 慌てた私が山車の方に目を向けようとした瞬間、刃物がぶつかり合う鋭い音が飛び込んでくる。


 そして聞こえる。山車だしの近くで叫ぶ澄んだ声。


「覚悟しろ! パパやママ、そして村のみんなの仇! 怜司の仇!」


 叫ぶエスティアの正面には、白い髪を靡かせる優美な魔剣士の姿が見える。


 私には分かってしまった。それが私と同業の暗黒騎士王だと。エスティアの実力では、暗黒騎士王には勝てないということも。


 珍しく、考える前に体が動いた。


 しかし、全速力で走っても、エスティアまでの距離は100メートルほど有って、その一瞬――彼女が殺される一瞬に間に合わない。


 私は大きく息を吸い、契約の発効はっこうを宣言する。約束を破って申し訳ないが、彼の今後より、私の仲間の命が先だ。


「ビームス! 命令よ。その娘を護りなさい!」


 私はビームスの表情を見て、心の中で彼に深々と頭を下げた。


 ビームスは驚き、理解し、そして絶望した。その上で、足を動かして私の命令を遂行する。


 ビームスが暗黒騎士王の剣を弾いた瞬間、これまで静観を保っていた魔族の一行が、泡を喰ったように慌て始めた。


「ビームス何をしている! 主敵は人間の娘であるぞ」


「殿下、私の反逆をお許しください」


 2人の戦闘が始まり、私はその隙にエスティアを連れ戻そうとする。


 連れ戻そうとしたのだが……。


 あのバカは、護衛が釘付けになった隙に、更に前進していたのだ。


 こうなれば、もう前に逃げる・・・・・しかない。


 北真王座に切りかかるエスティアに追従して、一撃離脱する作戦を立てる。


 どの道、もう後ろから逃げることは出来ないのだ。エスティアは私の言うことを聞かないだろう。


 そして前から逃げる場合にも、追っ手を避けるために、一撃喰らわせる必要が有りそうだ。


 北真王座に攻撃すれば、部下連中も私達より、主人の安否を優先するだろう。それで北真王座が傷付こうが死のうが、人間の私には関係ない。


 私は足を速め、まずはビームスと交戦する暗黒騎士王に狙いを定める。後ろから攻撃される可能性は潰しておきたい。


 ビームスに念話で呼び掛ける。


「(ビームス。背中にコインが当たった直後、一瞬の隙を作れ。その騎士王を無力化する)」


「(無理だ。彼は親衛隊所属の暗黒騎士王。評価値にして220の優秀な――)」


「(私の評価値は290よ)」


「(……了解した。俺が隙を見せて大振りを誘おう。その剣が届くまでに、彼の首を落としてくれ)」


「(見上げた忠誠心ね)」


「(故郷に家族がいる。反逆者になった以上、もう逃げるしかない。数が減るのは好都合だ)」


 魔族らしさ溢れる回答に、思わず笑みがこぼれてしまう。


 私は懐から金貨を取り出し、指で弾いて風魔法と闇魔法を使う。


 コインは狙い通りに飛び、私の体は一瞬だけ認知不能になる。


 次の瞬間、コインがビームスの背中に当たり、彼はつまづいて軽くよろめいた。


 わざととは思えない転び方で、ビームスの首が騎士王から見て斬りやすい位置に晒される。


「反逆者ビームスに天誅てんちゅうを下す!」


 暗黒騎士王は喜悦に顔を歪ませ、剣を握り直す。そして、迷うことなくモーションに入った。


 さっきまで仲間だったビームスの首を斬ろうとして、しかも笑っているとは、相当サイコ極まっているが、これから死ぬヤツについて考えるのも無駄なことかな。


 人間らしいことを考えながら、私も抜刀して剣に魔力を込める。


 恨みは無い。憎しみも特には無いが、仲間のために死んでもらおう。


 騎士王が剣を振り下ろす瞬間、その動作が変更できなくなった瞬間を狙って、私は斜め下から剣を突き出した。


 首を斬ろう、なんて思わない。速度重視で、私は彼の目を突いた。


 光速の一撃となった突きが襲い掛かり、しかし騎士王はとっさに回避して、私の突きが空を切る。


「んなっ、避け――」


「死ねぇ。クソアマっ」


 騎士王の剣が軌跡を変え、私の首に襲い掛かる。


 その時だった。死を覚悟したその刹那に、なびいた私の髪の中から、音も無く剣が現れて、そのまま騎士王の眼球を貫いた。


 下手人のビームスは、心底すっきりした顔で凶器を騎士の顔から剣を引き抜く。


 剣が引き抜かれた瞬間、騎士王の目()から血飛沫が上がり、それをバックにしてビームスが小さくサムズアップを決めてきた。

 

 コイツもコイツで、さっきまで仲間だったヤツの眼球突くとかエグいわね。


 ともあれ、これで邪魔者は居なくなったのだ。私は胸を撫で下ろし、再び山車の方を見る。山車の方を見て……。


 私の背筋に悪寒が走った。


 エスティアが前方で倒れていて、整備されていない土の道路に、洒落で済まない量の血が流れているのだ。


 普段ならば、慌てて駆け寄るところだが、今の私にはそれができない。


 私の背後に立っている、尋常ならざる存在感が、その行動を許してくれない。


「死ね」


 背後から聞こえたその言葉には、ひとかけらの殺意も無く、それはソイツが私を殺すために殺意など要らないと考えている証拠だった。

 

 音も無く手が伸びてきて、後ろ首を掴まれる。


「死ね」

次もβ

次の次は主人公回の予定

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