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22話β A「奴隷をどかせ。金は出す」 B「ほな、くれや」 A「現金は無い」

京都旅行に行っていまして、それで投稿間隔が開きました。

 デデカブラが去った後、私はミハエル魔国についての聞き込みをすることにした。


 街には魔族らしき姿もちらほら見受けられるため、それらに直接当たっている。


 当たっているのだが……今のところ収穫は0に近い。


 こちらが人間だと分かった瞬間、魔族達は口を閉ざしてしまうのだ。


 これは一筋縄ではいかないと、ってきた肩を回しつつ、隣を歩く戦力外を見る。


 エスティアは、デデカブラに品定めされたというのに、まだ現実に帰ってきていない。


 歩くさなぎみたいな御姿に、普段であれば大層な現実逃避力だと賞賛を送るところだが、こっちが忙しくしている今、彼女の姿は私の神経を逆撫でどころか、逆引っ掻きくらいの勢いで乱している。


「はぁ……。まぁ余計なことさえしないでくれれば、もうそれでいいわよ」


 必要な時に動かない人間は、必要ない場面で余計なことをするものだ。十分に注意しなければいけないと、私は自分に言い聞かせる。


 と、その時だった。どこからか言い争う声が聞こえてくる。


 それもあからさまな口喧嘩でなく、互いによく自制された口論だった。


 音を頼りに歩いていくと、薄汚れた屋台の中で言い争う、2人の男の姿が見える。


 2人とも商人の恰好をしていて、真ん中のテーブルには湯呑が2つ置かれていた。


 一方の商人は、富裕層特有の余裕を漂わせているが、もう片方の商人は凛々しくも少々鋭すぎる眼光の持ち主だった。


 鋭い眼光の商人が魔族であると、私は瞬時に当たりをつける。


 知性に優れた魔族には、早口だったり目付きが鋭い者が多いという話を、どこかで聞いた覚えが有ったからだ。


 さて、肝心の口論はと言うと、魔族の方が何かを要求しているようだった。


『30分でよいのだ。行列が通り抜けるまでの間、路肩の品物をどけて頂きたいというだけの話である』


『分かっています。しかし、それをタダでやれというのは、あまりに不遜ではありませんか』


『追って謝礼を渡すと言っている。証書の用意も有る』


『しかし、これは国際取引だ。貴国の法律は、王国の法律と全く異なり、あなたはミハエル法で契約すると仰います』


『それの何が問題なのだ?』


『簡単な話ですよ。この契約が破られた場合、私は貴国の裁判所で訴訟そしょうを起こす必要が有る。しかし、人間の私がミハエル魔国に赴き、訴訟を起こすことができるでしょうか?』


『…………』


『つまり、あなたがこの金貨150枚を踏み倒したとして、私は回収手段を持たないのです。お分かりいただけましたか?』


 魔族の男は、なおも言い募ろうとするが、人間の商人に応じる気が無いのは明らかだった。


 静寂の中、人間の商人が茶を飲み干す。それは明確な意思表示だった。


 しかし話は終わらない……終わらせない。これは私にとってもチャンスなのだ。


 魔族の男が立ち上がろうとしたタイミングで、私は堂々と店に乗り込む。


「今の話に、一枚噛ませてもらってもいいかしら?」


 テーブルに手をついて、2人に笑い掛けた瞬間、2人とも心の底から嫌そうな顔をする。


 私はまず、人間の方に金貨5枚を渡した。金貨150枚であれだけ話し込める人間なのだから、効果は抜群のはずだ。


 そして、魔族の方に向き直る。もちろん、コッチには金を渡さない。


 魔族の方に金を渡して、その金で取引が成立するなんてことになれば、それこそ元も子も無いからだ。


 その代わり、魔族の方には話をする。


「4日前、私のフィアンセがミハエル魔国に落ちたわ。彼の救出を手伝ってくれる人を募集中なの」


「……何が言いたい?」


「三角取引しましょう、っとことよ。私は金を出して彼を探す。あなたは私に協力して、路肩の品物をどける。そこのあなたは、品物をどけて金を得る。どう?」


 そう言って2人を見ると、人間の商人は首を振って私に金貨5枚を突き返してきた。


「これ以上の厄介事は御免です。あなたが、そこの魔族と契約を結べばよろしい。三角取引でなく、独立した2つの取引が存在するだけだ」


 魔族の方は、興味無さげに目を反らし、独り言のように小さく呟く。


「俺は無賃労働か」


「あら、あなたは証書を発行した分をピンハネすればいいじゃない。自分の国の裁判所に行くのが怖いなんて、ずいぶんと後ろめたいことが有るのね」


 魔族は私から受け取った金を商人に流し、本来謝礼として渡すはずだった証券を得ることができるはずだ。


 魔族の男とてそれは承知していたようで、特に驚く様子を見せなかった。


「それで、どういう経緯で揉めていたわけ?」


「それはこの契約に関係無いだろう。貴様が知る必要は無い」


「渡した金の使い道を把握したいのよ。邪悪な目的に使われるなら、財布の紐を閉じなければいけないわ」


 そう言うと、魔族の男は人間の商人を見る。


「構いません。後ろめたい事など有りませんから。むしろ私からお話ししましょう」


 商人が順を追って説明し始める。


「本日、この街にミハエル魔国のお偉方がいらっしゃいます。そのお偉方の通り道に、私が店を構えているのです」


「私の店では、商品を道路にはみ出す形で展示しているものですから、それをどけてほしいと依頼された次第です」


「商品をどけるのって、そんなに手間が掛かることなのかしら?」


 私が疑問を口にすると、魔族が割り込んできた。


「コイツの店は最大手の奴隷屋なのだ。鎖に繋がれた人間が数百人。これを収容するためには、それなりの額が掛かる」


 ……商人の言っていた「後ろめたいことなど無い」とは何だったのだろうかと思いつつ、私は一応の納得を得る。


 確かに、お偉いさんの行列が通る道に、奴隷がうじゃうじゃいるというのは考えられない。


「それで、フィアンセを探すという話だが、俺は何をすればいいんだ?」


 今度は魔族から私に対する質問だ。


 そして、単純なこの質問に、私は非常に困ってしまった。


 予定では、情報収集→捜索手段の確保、という流れを取る予定だったのだが、捜索手段の方を先に見付けてしまったのだ。


 この男から情報を得ることも考えられなくはないが、そんなことをしたら足元を見られかねないし、意図的に情報を隠されるリスクも有る。


 困った私は、とりあえず吹っ掛けてみることにした。


「あなたを奴隷として2週間使わせてもらうっていうのはどう?」


「…………2週間? その程度で……金貨150枚だと?」


 あれ、思ったより反応が悪くない。


 嫌がるだろうと思っていたのだが、デデカブラのせいで私の金銭感覚が狂っていたらしい。


「それ以外は何も求めないわ。主従契約を結んだ絶対服従の奴隷として2週間私に付き従う。これで構わないかしら?」


 私が言い終えると、魔族の男は頷いた。


「お前の交渉術は三下だが、それだけ金を出すというなら構わない。この体一つ、2週間使い潰せばいいだろう」


 こうして、取引はまとまった。


 私たちは互いに名乗り(魔族の名前はビームスだった)、私とビームスの間に期限を2週間とする主従契約を結んだ。


 契約が始まるタイミングについては、私に選択権があり、金貨150枚は即金で契約締結前に渡した。


こうして、私は怜司を助ける足掛かりを得ることができたのだった。

中盤の取引の話は、アレです。


人間と魔族の間には法律の壁が有るし、人間が魔族の裁判所に行ったり、魔族が人間の裁判所に行くことは難しい。

トラブルが起きないように、現金決済で商売しようねって話です

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