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21話β 金貨5000枚のエスティアに買い手が現れ、サラ大慌て

 怜司とはぐれてから3日が経ち、ショックから立ち直った私は、連合王国の奴隷市場を訪れていた。


 奴隷売買という背徳に支配される街には、王国の手が入っておらず、道はボロボロ、建物はグラグラだ。


 私は一晩中考え抜いて、怜司を助けるために、ここへ足を運んだ。


**********************


 調べたところ、怜司はミハエル魔国に落ちた可能性が高かった。


 つまり、ミハエル魔国と接触しないことには、怜司救出作戦が始まらないということだ。


 私は具体的な事を考える前に、魔族についての情報を整理した。


 私たち人間が地上に住んでいるのに対して、魔族は地下深くに住んでいる。


 その理由には諸説あるが、神話によると、神が彼らを閉じ込めたことになっている。


 その神話の大まかな内容はこんな感じだ。


①魔族は神が人間を創造する前に作った実験体だった。


 当初、神は性能のみを追求して生命体を作ったが、性能のみを求めた結果、性格に問題を抱えた個体ばかりが誕生しまったそうだ。


②魔族の失敗を踏まえた神は人間の創造に成功するが、今度は魔族をどこに住まわせるかについて大いに悩んだ。


 というのも、純粋な性能(体力・知力etc)に差が有るため、同じ場所に魔族と人間を住まわせると、人間が駆逐されてしまう恐れが有ったからだ。


③神は魔族を地下に閉じ込めることを考えつく。


 そうして閉じ込められた魔族は、何度か地上への侵略作戦を画策するも失敗し、現在も地下で暮らしている。


**********************


 怜司を助けるために、なぜ私が奴隷市場に来たか、というところに話を戻そう。


 それはズバリ、この街で『魔族と人間の貿易が行われている』からである。


 基本的に人間と魔族は敵対しており、連合王国の法律でも魔族との接触は禁止されている。


 しかし、魔族と取引することは、経済的にとてもウマい話であるというのも事実。


 太陽の無い地下に住む魔族は、農作物を欲しがっているため、農作物とその何倍もの価値が有る魔鉱石を交換できてしまうのだ。


 結局、禁止されてはいるものの、隙が有れば交易が発生してしまうというわけで、その隙こそが連合王国のグレーゾーンである奴隷市場ということだ。


 そんな理由で私は、この奴隷市場で魔族と接触することにしたのだが……作戦以前に悩みの種が一つ有った。


 今現在も、悩みの種が隣ですすり泣いている。


「……うぅ……ひっぐ。怜司ぃ……うぅ」


 4日も泣き続けている脳筋勇者を見て、私は思わずため息を吐く。


 あの大穴で、コイツが壁を登ってくれたから私は助かったわけで、その借りも有って一緒に連れてきてやったのだが、面倒くさいことこの上ない。


「あのね。泣いたって怜司は戻ってこないのよ。いい加減泣き止みなさいよ」


「うぅ、だって、だって……」


「アンタが泣いてると、私が奴隷商人でアンタを売りに来たみたいじゃない。さっきから周りの視線が痛いんですけど」


 ちなみに、エスティアには性欲丸出しの視線が注がれている。


 分かりたくはないが、分からなくはない。


 誰かの名前を呼びながら、すすり泣く10代半ばの美少女。どこから見たって、不幸にも売られてしまった村娘である。


 そういう不幸属性が、連中の性欲を刺激するのだろう。


「うぅ……怜司ぃ……」


 しかし、エスティアはそれに気付いていないようだった。


 その様子が酷く不快なので、気付かせてやるために、私は奴隷商人の真似をしてやることにした。


「この上玉が、今なら金貨5000枚でーす。金貨5000枚でこのガキを買う人はいませんかぁ?」


 言った瞬間、周りから笑い声が聞こえてくる。


 さもありなん。金貨5000枚というと、連合王国の一等地に豪邸が建つ。


 奴隷商人の小粋なジョークとして、今の発言は受け止められたはずだ。


 受け止められるはずだったのだが、突然私達の前に大きな人影が現れ、私の考えを打ち砕く。


 その人影を見た瞬間、私は猛烈に後悔した。それはもう猛烈に、藪蛇を踏んだと後悔した。


「ふひひ。ふひひひ。可愛い娘ちゃんですね。ふひひ。金貨5000枚ですか。少し見せてもらっても?」


 現れたのは、豚のような男だった。


 この世全ての性欲が詰まったようなテノールボイスで鳴くソイツは、華美な衣装を身にまとい、従者を数人連れている。


 見せてもらってもいいか、という男の問いに、私は必死に作り笑いを浮かべた。


「売り物ですので、ノータッチでお願いします」


「ふひっ。了解」


 そう言うと、豚はエスティアに顔を近付け、じっくりと見物を始める。


「ふむふむ。これは、なかなかの上玉ですな。ふむふむ。みなぎってきましたぞ。しかし、金貨5000枚はちと高いですな。特別な素質を兼ね備えているのですかな?」


「その娘は、リヒト王国に縁が有る娘なのです」


 ……嘘は言っていない。


「それはしたり。リヒト王国の良家の娘ですか、ふひひひっ、よだれが出てきそうだ。リヒト王国の少女を犯すと興奮するんです。えぇ、えぇ」


 瞬間、豚が笑顔を浮かべる。私は破顔が破顔する瞬間を目撃した。


 豚はエスティアに顔を近付け、首元や腰回りを観察し始める。


 見るに堪えない光景だったが、私は何も言わなかった。エスティアもそろそろ目を覚ますべきなのだ。


 豚がしばらく気色悪いことをしていると、従者が豚に何かを言う。


「デデカブラ様。いけません。今月は5人も性奴隷をお買い上げになられました。もうこれ以上はお控えください」


 なるほど、この豚はデデカブラというのか。いらない記憶が増えてしまった……。


「ふひっ、しかしもう2人も壊れてしまったではないか」


「しかしデデカブラ様。金貨5000枚というのは余りにも……」


「余りにも何だと言うのだ。5000枚など造作もないこと。お前は私に衣食住を控えよと申すのか!」


 デデカブラが顔を真っ赤にして怒鳴どなり散らす。一体エスティアが衣食住のどこに使われるのかは置いておいて、大変不味いことになったものだ。


 ……このデデカブラとやら、金貨5000枚を出せるかもしれない。


 そのデデカブラが私に顔を戻す。


「しかし金貨5000枚というのは、それでもお高い。なぜそうなのかを、説明して頂けますかな?」


 私は必死に頭を回す。そして、まるっと解決できる方法を思い付いた。


 デデカブラの耳元に口を寄せ、他の人に聞こえないよう小さく話す。


「この娘の買い手は、北真王座なのです」


 これの効果は抜群だった。デデカブラはピッと背筋を伸ばし、敬意の籠った眼差しを向けてきた。


「これは失礼いたしました。私はデデカブラ=スレイズと申します」


 デデカブラが名乗った瞬間、従者が称えるように合いの手を打つ。


「スレイズ家は、由緒正しき連合王国の侯爵家でございます」


『デデカブラ』なんて名前を付ける家が由緒正しいとはとても思えないが、私は一応覚えることにした。


 自己紹介をされたので、こちらも名乗るのが筋なのだが、どうにも体が動かない。


 リヒト王国の少女を犯すと興奮する、などと言った男に名乗る気にはなれなかったのだ。


 しかし、私の態度を見たデデカブラは、それをプラスに評価したらしく、いよいよ腰を低くして、私に名刺を渡してきた。


「どうぞお見知りおきを。そして、北真王座によろしくお伝えくださいませ」


 そう言うと、デデカブラは従者を引き連れてノシノシと去っていく。


 そのまま延々と歩いていてほしい。一生私に背中を向けていてほしいと切に願った。


「デデカブラ=スレイズねぇ……」


 デデカブラと別れた後、私は受け取った名刺を見る。


 よく見ると、その名刺はデデカブラの脂でところどころが光っていた。


「ダメだこりゃ。ケツを拭くのにも使えないや」


 ビリビリに破いて魔法で燃やす。脂のせいか、紙とは思えないほど良く燃えた。

章を分けると告知しましたが、私が間違えそうなので、サラ達の話にはβと付けることにしました。

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