表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
18/25

17話 有能ロリって浪漫だよね。分かります?

 浮遊感に包まれた瞬間、俺は反射的に一番近くの――サラの手を取っていた。


 そしてもう1人に手を伸ばす。


「エスティアぁああ」


「怜司っ」


 呼び合い、お互いに手を伸ばす。俺は雷魔法を使って、磁力でエスティアを手繰り寄せる。


 しかし、あと少しで手が触れようとしたその時、大空間に突風が吹いた。


 床が抜けてなお続く戦闘の余波だ。ミラは百を超えようかという幻獣の群れ相手に、大立ち回りしているが、俺達を気遣う余裕までは無いらしい。


 そして、無情な突風によって、エスティアとの距離が絶望的に開こうとする。


 ――このままではエスティアが危ない。


 そう直感した俺は、サラの手をぐっと引いて、そのままエスティアへ投げつけた。


「ちょっ、怜司なにす――――」


 サラの言葉は風の音にかき消され、激突した2人の少女は、突風に巻き込まれて消えていく。


 頭上は絵本の世界を思わせる魔獣大戦。眼下では奈落が口を開けている。


 俺は死を覚悟して目を閉じた。


 しかし、衝撃は中々やってこない。


 果たして、どれほどの深さを誇る穴なのか?


 人生最後の雑学を得るべく、俺はカウントを開始する。人間の自由落下の最高速度は200キロメートルと言われている。

 

 つまり、落下にかかる時間が分かれば、穴の深さを概算できるというわけだ。


 1分……2分……3分…………10分……。


 しかし、俺の願いは叶わなかった。あまりに穴が深すぎて、途中で寝落ちしてしまったのである。


―――――――――――――――――――――――――――


 覚醒は突然に訪れる。目を開けると、墓石色の天井が俺をのぞきこんでいた。


 拳を握ると、ざらついた床が指にかすれる。


 ――生きてるのか?


 そう考えた瞬間、鼓膜に音が飛び込んできた。


「生きてるわよ。私に感謝しなさい」


「私って誰だよ、名無しの貴方様」


 声のした方に顔を向けると、ちっこい女の子が腕を組んで俺を見下ろしてた。


 黒髪ロングに紅の瞳。年齢は10歳ほど。


「……で、誰?」


 女の子は憮然とした顔で、静かに名乗る。


「ステラよ。魔法使い」


 自己紹介を聞きながら、俺はステラと名乗った少女を改めて観察する。


 年齢は小4か小5くらいに見える。瞳は血よりも紅く、綺麗な黒髪が腰まで伸びていた。


 黒いドレスを着た彼女の首からは、赤いスカーフが垂れていて、同じく赤いブローチが光っている。


 正直言って可愛い。ノーマル性癖を自認する俺ですら、ロリコンの才能を開花させられてしまいそうな可愛さがある。


 まず服装。華美でないゴスロリ調のドレスは、彼女の貧相な体を十分に補完していた。


 成熟した女性の肉感を味わいたいという欲望、つまり性欲は刺激されないが、ふわふわを抱きしめたい衝動が喚起される。


 名前を付けるとすれば、ふわもふロリといったところだろうか。


 次にほっぺた。幼女特有のもちっとした頬が、鋭い目つきとのコントラストで魅力的に映ってしまう。


 総括すると、非常に愛くるしい少女なのである。


 しかし、ここまで褒めておいて何だが、可愛さだけの少女ではないことにも察しがついた。


 落ち着いた声に、油断ならない眼差しと凛々しい立ち姿。


 この世界で会った誰よりも『強キャラ』臭がする。


 これがソシャゲだったら、課金ガチャから出る最高レアリティのロリ枠って感じだ。


 ステラが放つ存在感に押されつつ、俺は彼女に礼を言う。


「まずは礼を。お前のお陰で助かった」

 

 しかし、ステラは俺の謝意に対して、くだらない物を振り払うように手を動かす。


「いいえ。助けたのは貴方が連れていた小ドラゴンよ。殺さなかったのは私だけどね」


「そ、そうか。その小ドラゴンはどこにいるんだ?」

 

「隣の部屋で休んでるわ」


 ステラはそう言うと、膝を抱えて、俺の横でつま先座りをする。


 そして、不思議そうにコテンと首を傾げた。


「あなたは反逆者?」


「反逆者とは?」


 瞬間、ステラが苦笑いを浮かべる。


「国語辞典でも貸してあげましょうか?」


「いや、語義は承知してる。対象の話だ」


「そんなの決まっているじゃない。北真王座だけど」


 もう一度首を傾げると、ステラは処置無しと言って両手を振った。やれやれ系ロリである。


 さて、ステラが呆れた顔をしたその時だった。部屋の隅の扉が開いて、もふもふドラゴンが入ってくる。


 我が守護獣ミラは、目をショボショボさせながらトテトテとこちらに近付いてきた。


「うにゅう。どうにも力が抜けて参るのう。これは、体操をする他あるまいて」


 そう言って、竜王ミラ=エレクト=シャイリンは、小さな翼をパタパタさせて、その場でぴょんぴょんジャンプする。


 その様子を見たステラの顔がわずかに緩み、彼女はミラの頭をポンポン撫でた。


「よく眠れた?」


「うむ。我は古の大戦を生き抜いた古強者なれば、地獄の炎であろうとも、眠りを阻むことは有るまいて」


 ミラは俺の様子を見て言葉を続けた。


「うむうむ。ステラよ。お主の献身的な看病、誠に大儀である。我を撫でるがよい」


「これが献身的な看病なのか。石の上に直寝だぞ」


 そう言って、ステラの様子を盗み見ると、彼女はちょっと嫌そうな顔をして、自分の肩を抱く。


 露骨に警戒されてガックリくるが、こういう仕草も可愛いちゃ可愛い。


 ふと目が合い、年齢不相応の鋭い視線に当てられる。ステラは目を逸らし、不機嫌そうに床を蹴った。


 ツンツンツン~。そんな効果音が聞こえてきそうな顔を浮かべるステラ。


 しかし、その不機嫌な顔と愛くるしい見た目のギャップが堪らない。ぐぬぬ……なんだこの可愛い生き物は。


 さて、俺達が動かなくなると、ミラがぴょっと立ち上がった。


「うむ。では、僭越ながら我がこの場を仕切るとしよう。怜司とステラの事を知る誠実な介添え人としてのう」


 誠実な介添え人となっている時点で、主人である俺に対する背信行為に近いのだが、ミラにそれを気にする素振りは無い。


 まぁいいや。誠実な介添え人ヅラをしてくれるなら、好都合であるのだから。


 ミラの説明は単純だった。


 まず、この世界には俺達が暮らす地上の他に、2つの世界が有るらしい。


 1つは神界、1つは魔界と呼ばれるそうだ。


 神界は空にあり、魔界は地中深くに存在する。そして、現在位置は間違いなく魔界という事だった。


 そして、俺が気絶していた間に、ミラはこの牢獄を一通り調べ、地獄の門以外の出口がない事を把握しているという。


 ミラが一通りの説明を終えると、ステラは彼の頭を撫でた。撫でて体をモフモフする。


「子どもドラゴンの割には詳しいじゃない」


「うむうむ。お主のナデナデは実に結構な指捌きじゃ。もっと我を撫でるがよい」


 ミラの顔がだらしなくゆがみ、ステラも満更でもない顔で撫で続ける。


 そうしてしばらく撫でられ続け…………。


「うにゅう……。ステラよ。子細は任せたぞ……」


 うわ、コイツ寝やがった。


 スヤスヤと寝息を立てるミラ。ミラには優しいステラも、これは流石に目に余るらしく、こめかみを押さえて低く唸る。


「説明したくないわね」


 そう言うと、彼女は俺を縛った縄を持ち、そのまま部屋の隅に引っ張っていく。


 部屋の隅には禍々しい彫刻が施された扉が有った。ステラは迷いなくそれに手を掛け、


 次の瞬間、おどろおどろしい光景が広がる。誰に教えられるわけでもなく、これが地獄だと直感できた。


 扉の向こうは中空だった。黄昏色の空。赤銅色の海。地上では無数の痩せこけた人間と、異形の獄卒が歩いている。


 ステラはギリギリ落ちない所に俺を置き、縄を扉に噛ませた。


「これが地獄。説明は以上よ」


 ナンパお断り、みたいな口調で説明を終えるステラ。これがたわむれの軽口なら笑えるが、全くもってそうとは思えない。


「おい、説明になってないぞ。語義に即した行動をだな」


「うーん、そう言われても、私にメリットが……」


 視線が交錯し、その時間がしばらく続いたところで、彼女は根負けした様子で溜息を吐いた。


「しょうがないわね。まぁ、私も暇なのだから、あまり意地悪しても仕方ないか」


 ステラは持ってきた椅子に座って足を組み、虚空を見上げて考え込む。そして、数秒考えた後、はきはきした口調で話し始めた。


 なお、うつぶせ芋虫状態の俺は、懸命に首の筋肉を使って床から彼女を見上げている。


 成人男性として、およそ考え得る最大限の羞恥プレイと言っても過言でない状態だ。


「まずは、魔界・ミハエル魔国・地獄という場所についての説明よ。魔界は地下に広がる世界。ミハエル魔国は、魔界の北部に位置する国で、魔界五大国の一国よ」


 この世界では常識なのかもしれないが、こういう情報が有りがたいのだ。俺は懸命にうなずいて、ステラに続きをうながす。


「そして、魔界五大国は神から役割を与えられているの。それが罪を犯した魂の管理よ。各国はそのために、地獄を運営しているわ」


「地獄は魂の管理以外に、練兵所や要塞の役割も果たしているの。安全保障を目的に、ミハエル魔国は本国を地獄で囲っているのよ」


「つまり、俺が地表へ上がるには、ミハエル魔国経由が一番手っ取り早くて、そのミハエル魔国に行くためには、地獄を通り抜ける必要が有ると?」


「そういうことになるわね。ミハエル魔国の地獄は、12種有って、どれも地下100層構造になっているわ。人を苦しめるために作られた高度な迷宮(ダンジョン)という理解で問題無いと思うけど」


「2つ質問だ。その100層を一層一層進んでいく必要が有るのか? そもそも、どうして100層なんだ?」


「えぇ、一層一層進んでいく必要が有るわ。100層の理由は分からないけど、管理しやすいからじゃないかしら。12種×100層の1200の地獄で、あらゆる罪を犯した人間に対応してるんじゃない。知らないけど」


「具体的な地獄の内容は?」


「私はミハエル魔国の人間だけど、地獄について学んでいた訳じゃないの。残念ながら力になれないわ」


 ステラは予想以上に情報を持っていなかった。


 まぁ、ガキだから仕方ないか。ガキだから。


「……ちょっと、失礼なこと考えたでしょ?」


 そう言ってステラが、蹴りの予備動作をする。


「いやいや、全然全く。これっぽっちも」


「まぁとにかく、これで説明は終わりよ。私の気が済むまで、大人しく縛られててちょうだい」


 そう言ってプイっと横を向くステラ。その横顔を見ながら、俺はどうしようもなく溜息を吐く。


 頭のおかしな魔導士に絡まれて、牢獄に落下。


 脱出のためには地獄を通らなきゃいけないとは、つくづく大変なことになったもんだ。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ