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15話 戦争とは、己に相手を従わせるための暴力行為である

 異様な光景だった。


 洞穴の底は、無数の骨で埋め尽くされていて、漆黒のローブに身を包んだ男が、こっちに向けて恭しく頭を下げている。


「ようこそ、おいでくださいました。私はミハエル魔国が君主、北真王座四世より、この地を預かる暗黒魔法師。エルと申します」


 そう言って、彼は手に持った長い杖をこちらに向け、冷酷な目線を向けてきた。


「いかなる目的で、この地に足を踏み入れたのですか?」


 見知らぬ土地。夢級を使う魔法使い。そして足元の骨。正直言って、できれば敵対したくない。


「何が目的と言われてもな。俺達は知らない場所に夢を求める冒険者。目的もなにも、全てが行き当たりばったりなんだ。強いて言えば、ここから出ることなんだけど」


「そうですか。しかし、ここはミハエル魔国の領域です。ミハエル魔国の法律をご教授いたしましょうか?」


「貴国の法律に興味は有るが、ここは連合王国の領地じゃないのか?」


 瞬間、エルの顔が憤怒に燃える。どうやら地雷を踏んだようだ。


「ここが……私が立つこの場所が、連合王国の領域であると? よろしい。ならば戦争だ。戦争をしましょう。あぁ、私と貴方は意見を対立させている。私と貴方は戦力を保持している。そして、私は貴方に暴力を振るいたい」


 俺達が呆気に取られている内に、エルは懐から本を取り出し、飛び退いて俺達から距離を取る。


 そして、両手を広げ、空を見て絶叫した。


「さぁ、始めましょう。私は貴方に宣戦布告します。貴方の意志を砕き、私の要求を通すための暴力行為を開始します。召喚サモン:スケルトン」


 瞬間、スケルトン――一番弱い骸骨のモンスターが現れた。


 しかし、そのスケルトンは、召喚された直後にバラバラ砕け散る。


 それと同時に、エルの本がスケルトンの魔力を吸い取り、その魔力で再び召喚が行われる。


「召喚:スケルトンロード」


 一連の動作を見て、俺の背筋に寒気が走る。


 スケルトンロードも一瞬で砕け散り、その魔力が本に吸収される。そして、それは無限に続き、数秒後には明らかに強力なモンスターが召喚されることとなった。


「召喚:サイクロプス」


 体長5メートルほどの、槍を持った隻眼の巨人が現れる。巨人は隻眼を光らせ、俺に向けて槍を突き出してくる。


 飛び退いてそれを避けると、エスティアが俺の前に躍り出て、巨人の腕を斬りつけた。


 腕から噴き出た血を見た巨人は、空を見て咆哮を上げる。


「ヴォオオオー!」


 サイクロプスはエスティアを睨みつけ、槍のラッシュを繰り出してくる。


 エスティアはこれを避け、あるいは受け流し、全てを見事に捌き切って見せた。


「みんな。こいつは僕1人で相手できるから、エルをやって!」


 確かに、サイクロプスはエスティア1人に任せて良さそうだった。サラとうなずき合い、エルへと駆ける。


「気を付けるのじゃ怜司よ。ヤツは召喚ループの使い手じゃぞ」


「召喚ループだと?」


 聞き返すと、ミラはうむと頷いて説明を始めた。


「召喚術は、魔力を大量に使う術なれば、連続で使うことは難しい。じゃが、魔力が無限に有れば、無限回の召喚が可能となる」


「エルが持っておる魔導書まどうしょには、魔獣から魔力を奪う性質が有るようじゃ。そして、召喚獣から魔力を限界まで奪ったとき、奪った魔力量は召喚に使った魔力量よりも多くなる」


「最終的にどうなるんだ?」


「なに、簡単なことじゃ。やつの最大魔力量で呼べる召喚獣が、やつに制御できる範囲で、無限に並ぶことになる」


「それってチートじゃね?」


「普通はそうでもないのじゃ。ループの途中に使われるモンスターは、死ぬためだけに呼ばれるからのう」


「意志を持たない下級アンデット。もしくは絶対的な上下関係のあるモンスターしか使えないと?」


「まぁ、そういうことじゃな」


 しかし、それを言っても気休めにしかならない。エルは既に、サイクロプスという上位モンスターを召喚しているのだ。


 エルを見ると、サイクロプスが苦戦しているというのに、両手を広げて喜んでいた。


「素晴らしい。素晴らしい少女ですね。評価値140相当のサイクロプスを単独で相手取るとは!」


 そして、本――魔導書を開き、嬉々とした表情で口を開く。


「召喚:霜の巨人フロストジャイアント


 現れたのはサイクロプスより、遥かに大きな氷の巨人だった。巨人は斧をサラに向けて振り下ろす。


 巨体に似つかわしくない素早さに、サラは一瞬目を見開く。


 しかし、評価値300近い戦闘職は、そんなことでひるまなかった。


 サラが抜刀し、巨人の斧を受け止める。


 瞬間、彼女の足元の骨が砕け、両足がぐっと沈む。


「――んっ。重すぎでしょ!」


 霜の巨人は強敵と言えたが、サラの表情には余裕が有る。


 俺は巨人をサラに任せ、俺はエルに向かって走る。


 そして雷魔法の射程圏内に入った瞬間、鋭い雷撃をお見舞いした。


 しかし、初級魔法ながらも高威力であるはずの雷撃に対して、エルは避ける素振りを全く見せない。


 エルは魔導書を開き、狂乱の笑みを浮かべる。


「スケルトンから霜の巨人に至るループは証明しました。召喚:霜の巨人」


 その刹那、魔導書が光り、2体目の霜の巨人が現れる。


「くそっ、ずっこいぞ」


 思わず悪態をつくと、エルが魔導書を振りかざして得意気な顔をする。


「我が魔導書は、一度証明したループを何度も実演しろとは申しません」


 現れた巨人が雷魔法を弾き、猛然と斧を振り下ろしてくる。


 その斧を前に交わした瞬間、新たな霜の巨人が現れる。


 3体。4体と増えていき、気付いた時には10体以上の巨人が俺達を囲んでいた。


 その様子を見たミラが、張り詰めた声を上げる。


「いかん。エルとやら中々やりおるわい。この数の巨人を使役するとはのう。ここは魔導書の方を処理するのが賢明じゃろうて。エルを守る巨人を何とかしてくれぬか?」


 瞬間、俺が声を上げる前に、サラが叫んでいた。


「承知したわ。守りの巨人を何とかすればいいのね」


 最初に現れた霜の巨人と鍔迫つばぜり合いをしていたサラは、そう言うと、その場で華麗に一回転する。


 瞬間、勢い余った巨人の斧が地面に刺さったのを見逃さず、サラは巨人の腕を駆け上がり肩を蹴って大きくジャンプした。


地獄炎ヘルファイヤ!」


 宙に舞った彼女は、左手で魔法を発動し、巨人の顔面を焼く。


 それと同時に、噴射した炎の反作用を利用して、ジェット機のような速度で別の巨人に突撃する。


 巨人の斧がサラに振り下ろされる。サラがそれを避けると、もう一度振り下ろされる。


 そして3度目が振り下ろされた瞬間、サラは気合とともに剣を振り、斧に真横から叩きつける。


 巨人のバランスが僅かに崩れた刹那、サラは両手で剣を持ち直し、巨人に全力の正面斬りを放った。


 斧で剣戟を受けた巨人は勢いよく吹き飛び、後ろの巨人を数体巻き込んで地面に倒れる。


 気付けば、エルを守る巨人は残り一体となっていた。


「今よっ」


 サラが放った言葉は、俺・ミラ・エスティアの3人に向けられていた。


 ミラが俺の肩から飛び立ち、俺は『終焉計画』を発動する。


 ミラがエルに肉薄する瞬間、彼の攻撃が霜の巨人に妨害されないように世界を予定する。


 そして、ミラの前に最後の巨人が立ちふさがった瞬間、エスティアが大きく叫んだ。


「いざ尋常に、勝負せよ!」


 勇者の職業スキル『一騎打ち』。これで巨人はエスティア以外を攻撃できなくなる。


 ミラを邪魔する存在はこれで居なくなった。


 しかし……ミラがエルに向けてブレスを吐こうとしたその時だった。エルの顔が狂喜に歪む。


 一連の流れは一瞬で行われ、俺達は新たな巨人を召喚する暇すらエルに与えなかった。


 それなのに彼は笑っていた。笑いながら、左手を懐に突っ込み、突っ込んで……。


 ――2冊目の魔導書を取り出した。


「ふひひ。コピー本では厳しいようですね」


 2冊目の魔導書から溢れる光は1冊目の比ではなく……。


 現れたモンスターは、明らかに霜の巨人より遥かに強大だった。


 ヒュドラ、フェンリル、ケルベロスなど、人間の評価値で測れない幻獣達が10体以上。


 居並んだ獣達は、すぐさま俺達を敵だと認識した。或る者は、脚に力を貯め、或る者は口を開きブレスの予備動作をする。


 そんな中、ミラの攻撃は巨大な蛇に阻まれる。彼はヘビの尻尾に薙ぎ払われて、俺の方に吹き飛ばされてきた。


 それを正面から受け止めると、俺の腕の中でミラが悪態をつく。


「あれは、六十六魔具が一つ。獣帝詔勅じゅうていしょうちょくか」


「何だそれ」


「七神器、六魔具、十二法具で構成される伝説武器に次ぐランクの宝物じゃ。魔獣の始祖が作った六魔具――天帝詔勅てんていしょうちょくを模して、初代北真王座が制作した魔導書じゃよ」


「歴史の勉強はいいんだ。効果は?」


「なに、簡単じゃ。王座を除く全ての獣・・・・を数分間使役できる」


「全ての獣?」


「然り。術者の集中力に許される範囲で、全ての獣と縁を繋げるのじゃ」


 そう言うと、ミラは深々と溜息を吐く。


天帝詔勅てんていしょうちょくと違い、獣帝詔勅には時間制限がある。本来であれば、逃亡が正着なのじゃが……」


 ここは迷宮の中の閉ざされた洞穴。逃げることは叶わない。


「鍛錬を積めば分からぬが、今のお主らに幻獣十体を相手取る力量は無い」


 そう言うと、ミラがふーっと溜息を吐く。


「しからば、我が力を以て、屈服させる必要が有るじゃろうて」


 そう言って、ミラは俺を見た。許可を求めているのだ。


 そして、俺にそれを拒否する理由はない。腕の中のミラを地面に降ろし、軽く頭を撫でてやる。


「分かった。存分に暴れてくれ」


「うむうむ。幻獣の長として、力の何たるかを見せてやるわい」


 そう言うと、ミラはよちよちと歩んでいく。その可愛らしい姿に、エルの幻獣たちは鼻白んだ様子だった。


 そんな様子を意に介せず、ミラはよちよち進んでいき、先頭のフェンリルの前に立つ。


「王者を害さんとせん者達よ。即刻首を垂れるならば、寛恕を賜す」


 小さな竜の言葉を聞いたフェンリルは、ミラを嘲り笑う。


「子ドラゴンが生意気な口を利くか。我が位階は獣伯爵であるぞ。地に伏すがよい」


 フェンリルが言った瞬間、フェンリルを称える声が獣たちから上がる。しかし、ミラは全く動じなかった。


「ふむふむ。我は極位・王座であるが?」


「戯言を。極位・王座の称号を持つものが、己が住処を離れるものか」


「場合によっては離れるじゃろう。主の立つ地こそ、我が住処よ。それで、首を垂れぬのか?」


 フェンリルの答えはもちろん否。それ以前に、エルがそれを許すはずが無い。


 そのエルが、フェンリル達に命令する。


「何をしている? 速やかに撃滅するのです!」


 その言葉にフェンリルは肩をすくめ、ミラに向けて口を開く。


「そういう訳だ。坊主には悪いが、俺に勝つには1000年早い。大人しく退くんだな」


 そう言って、フェンリルはミラの横を通り過ぎようとする。その時だった。


 ミラの体が雷を纏い、急速に成長していく。


「ふふふ愉快愉快。俺に勝つには1000年早い。そんな言葉を受けたのは、何千年前じゃろうか。遥か昔、神王や魔天に吐かれた記憶が有るが……ふふふ愉快愉快」


 言い終わったときには、ミラは10メートルを超える巨体になっていた。


 それを見た幻獣たちは、度肝を抜かれたように立ち止まる。


「まさか……雷極シャイリン」


「いかにも。雷竜王ミラ=エレクト=シャイリンである。雷極と併せて極位・王座であるぞ。さぁ、どこからでも掛かってこい」


 幻獣とミラの戦いが始まった。

インフルつれぇ

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