9話 このパーティ。特別快速地獄行き
「先頭を釣り上げて、後はこっちに回せ。魔法で一気に焼く」
「分かったよ。サラッ」
「言われなくても分かってるわよ」
階段に一歩踏み入れた途端、冗談じゃない程に強いモンスターが、多数襲ってきたのだ。
しかしサラとエスティアの動きが、格段に良くなっており、今の所は問題ない。
パースは治療に集中し、俺は後衛を務めつつ、全体に指示を出している。
職業スキルである『陣形把握』によって、俺は敵味方の位置を正確に把握できていた。
「次の曲がり角を抜けたら、右壁沿いに何体かいる」
「分かった」
「了解よ」
エスティアが先行し、直感でモンスターをなぎはらう。続いて抜け出たサラが、魔法を使って残りを掃討する。
エスティアは前衛として使い勝手がいい。直感を活かして切り込み、特技『陣頭指揮』でパーティーに支援を与える。
「やっぱり勇者は優秀だな……」
「そうかねぇ……暗黒騎士王の方がよっぽど凶悪だと思うぞ。今は怜司さんがいるから、エスティアが活きてるんだ」
「俺は何もしてないよ。敵の位置を伝えて、打ち漏らしを雷で焼いてるだけだ」
パースがあきれたように笑う。
「それが、魔法使いと指揮官の二役なんだけどな」
サラとエスティアの快速ラッシュは、とどまる気配を見せず、少人数なのでパースのヒールも行き届く。
…………気付けば、最下層まで到達していた。
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目の前には、荘厳な雰囲気を纏った大きな扉が佇んでおり、腰を落ち着ける場所が有った。
これがボス部屋で間違いない。
「さて、ここまでは順調だけど、ここからどうなるのかな?」
「俺に訊かれても分からんぞ。迷宮初めてだし」
「というか、ここまでは順調じゃなきゃ困るぜ。道中は平均能力が大事だからな」
「ボスは総合力が大事なのね?」
「それは当たり前だろ。ローテーション組む――」
「バカ怜司は黙ってて。何も知らないんでしょ」
パースが手をパチンとたたく。
「とにかく、ボスについては見ないと分からない。出来る限りの準備をするべきだ」
全員がうなずき、サラが俺の肩をたたく。
「どうした?」
「使うわよ」
言われて、サラに刀を差しだす。
伝家の宝刀――――神具『極北の彩色』だ。
サラが巻かれた包帯を取り払うと、純光が照り、光を浴びた壁や天井が淡く光る。
もう何度目か分からないが、パースとエスティアが目を丸くする。
呆然とする二人をよそに、サラは目を瞑って刀を抱く。刀身が徐々に黒くなり、サラが俺に返した時には、黒水晶のように重みのある色となっていた。
「夢級魔法を込めたわ。撃てば勝てると思う」
「ありがとな」
礼を言うと、サラが人差し指を立てる。
「夢級魔法には発動条件が有るわ。撃てば決まる状況じゃなきゃ撃てないのよ」
「その判断が付かないんだが……」
「その心配は無用ね。それは神具だから、使い手を援けてくれるはず」
「そんなものか」
「そんなものよ」
俺は『極北の彩色』を腰に差し、普段使いの曲刀を壁に立てかける。神具が折れるわけも無いし、日本刀が有っても邪魔なだけだ。
すると、パースがおそるおそる話し掛けてきた。
「もしかして、それって極北の――」
「そうだな」
「……マジかよ。いや、もう驚かねぇ。お二人は勝手にやってくれ」
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全員で作戦を組んだ結果、パースと俺が後衛、サラとエスティアが前衛となった。本来なら魔法騎士であるパースは後衛でないが、前二人の能力が高いので、道中同様治癒に専念してもらう。
刀を構え、大きな扉に手を掛ける。期待に浮かされた手と冷たい扉が重なり、手汗がざらついた石に吸い込まれる。
「開けるぞ」
「応っ」
「早くしなさいよ」
「みんなで頑張ろう」
全員の表情を確認し、高鳴る心音に身を任せる。
――ギギィ……ギィー、ガチャン。
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体長は20メートル程だろうか、細長いソレは鋭い鉤爪と、雄々しく広がる翼を持っていた。
ソレは金色の鱗を纏い、体中がビリビリと電気を帯びている。
――ドラゴンだ。
――ギー、ガチャン。
瞬間、竜の目がギョロリと回り、鋼鉄の視線が俺達を射抜く。
その眼差しは、俺達に叡智を感じさせ、力を雄弁に語りそして……。
俺達の運命を示しているみたいだった。
「人の子よ。何故、我が身を狙う?」
深く凄味のある声に気が引けるが、俺は挑戦的な目を竜に向ける。
「俺は冒険者だぞ?」