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25.在りし日と、あったかもしれない世界で

更新遅くなり申し訳ありません<(_ _)>

今回はアルバート視点です。

女装騒ぎのその後(*'ω'*)



不思議な疲労感に包まれ、アルバートは施設内の割り当てられている部屋───一応自室ということにしておく───に入ると、ソファーに長身を沈み込ませた。

何というか、戦闘時よりも疲れた。

生きるか死ぬかの瀬戸際で神経を張り詰めていて、それが切れたときの疲労とはまた別種であるが。


目を閉じると、在りし日の光景がよみがえってきた。

辛く苦しい悪夢(かこ)ではなく、何も知らずにあれた幸せな日々。

オレンジ色の光が、瞼の裏にちらつく。

胸にわき上がるのは、もはやどうしようも無い郷愁の念。

少しなら、浸ってみてもいいだろうか。

最愛の人が、懐かしい記憶を呼び起こしてくれた今日ぐらいは。




───カレン曰く、アルバートは『可愛らしい』顔をしていたらしい。今でこそ鋭い印象を見るものに与える顔立ちであるが、幼少期は会う人々に「女の子みたい」と言われたものだ。よくは分からないが。

そんな『美少年』であったアルバートはことあるごとにカレンより「女装させたい」と言われ、その度に躱してきた。が、それもそろそろ限界らしく、ついには「アルバートと勝負して、私が勝ったら」というところまで発展してしまった。

勝負とは、当時ハマっていた双六(すごろく)のことだ。カレンとの約束を知る由もないレオ達は面白そうに眺めていたが。

アルバートは見事に負けた。カレンはサイコロを操るのが上手く、狙った目を次から次へと出してくるのだ。負けて悔しい思いをしたアルバートがそれから暇なときにサイコロを振りまくって練習したのは余談である。

ともあれ、負けは負け。アルバートはカレンの家に連れ込まれ、無理矢理ドレスを着せられた。

カレンの家は服屋としてこの近辺では有名で、大量の子供用ドレスを引っ張り出しては着せ、引っ張り出しては着せを繰り返した。

幸い、カレンは女装姿のアルバートをレオやルナサに見せようとはしなかった。何故かとおそるおそる聞いてみると顔を背けられてしまう。最初は怒ってしまったのかと思ったが、しばらくして違うことに気付いた。

───顔を背けたカレンは、耳まで真っ赤に染めていたのだ。

そのあたり妙に察しの良いアルバートは、これまでカレンが何だかんだ言いつつもやけに自分にこだわってきた真意に気が付いてしまった。そして、それが事実であるということにも。

理解して、納得してなお、アルバートは何も言わない。

───いつか、ちゃんとカレンの口から聞きたいと、思って。

受け入れるにせよ断るにせよ、先回りしてしまうのではなく、カレンが伝えたいと思ってくれたときに、と。


───結局、カレンから伝えられることはなかったけれど。




瞼を、持ち上げる。

カレンの姿は消え、揺らいだ天井が徐々に輪郭をはっきりとさせていく。



もしも。

皆が魔獣の森に行くのを止められた世界があったとしたら。

───友を、父を失わず、騎士になることもなかった『アルバート』がいたとしたら。


自分は、ジュリアとカレンのどちらを選んでいただろうか。


ジュリアと出会えなかったかもしれない。

でも、それでも。

どちらを、自分は───。



「…そのような世界は、どこにもない。───だから、どちらを選ぶのか、僕にも分からない」


これが、答え。

アルバートが生きている世界にはカレンはいない。どれほど喚こうが、その事実が変わることはない。


今、アルバートの傍にいてくれるのはジュリアだ。

別の世界では、カレンとともに暮らす『今』もあったかもしれない。

だけど、アルバートが選び、ときにはあらがいようもなく曲がらされ、進んできたこの道に寄り添ってくれるのは、ジュリアただ一人。


それでいい。


カレン達を忘れずに、そっと胸の内にとどめて置ければ、それで。


アルバートは再び、今度は過去を辿るためではなく目を瞑った。

押し寄せてきた眠りの波は、穏やかで、ほっとするもので。


夢の中を彷徨いながら、アルバートはぼんやりと自分以外の温もりを感じた。

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