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17.馬鹿の所業と灰色の視線



「ヴァンス。───毒を盛った者とナイフを投じた者は別だ」


アルバートの台詞に絶句しかけ、まぁそうだろうなぁと思い直す。

《穢れた者》が巫になるので忠誠を誓ってくださいと言われて誰がはいそーですかと頷くだろう。反対意見が出るのは当然で、ステラやヴァンス達を殺害しようとするのも想像にかたくない。

ただ、ひとつ気になることが───


「俺の、飲んだ水に入ってた毒は…即効性のものだった……。そんなの…毒を入れましたと言っているようなもんだろ…?普通は遅効性の毒を、使わないか……?」


遅効性の毒なら、どこに混ざっていたかなど分かりようもない。毒だと分からない可能性もある。


「全員が…ちゃんと飲むかも分からないのに、分が悪すぎる。なのに、何で……」


ヴァンスの疑問に答えたのは、ステラだった。


「簡単。馬鹿だから」


「同感だ」


「お前ら…息ぴったりだな……」


ステラの答えにアルバートが同意する。仲間はずれ感を味わいながら、乾いた唇をしめらせると再び口を開いた。


「俺達を殺そうとしたやつが、馬鹿だってことは分かったけど……毒とナイフは別っていうのは、どこから…?」


「ナイフに毒は塗られていなかったのと…ダスティンが口を割った」


───ダスティンの話はこうだ。

ステラを殺害しろという命を受け、ダスティンは《穢れた者》が巫になることに反感を持つ騎士達に毒を盛るよう指示した。

誰の命かは最後まで言わなかったらしいが、ナイフを投げた者についてははっきり否定したのだそうだ。


「ナイフも気になるけど…いったい、誰がそんな命令を…」


「───確かに、ダスティンは自ら口にすることはなかった。だが」


「ダスティンの思考を『()た』から、誰かは分かるの」


ステラは何気なく言ったが、いろいろ聞き逃せない。

彼女の『力』が、『視る』能力であることはおぼろげに察していた。ヴァンスの中の竜の力や、失われた(ページ)を視たように。

それはあくまでも、物質やエネルギーだけだと思っていたのだが。


「相手に触れて、内面を視ようとすると映像が流れ込んでくるんだけど…映像の中で、ダスティンは女性と喋っているの。……白髪と、赤い目を持った人」


「それって……」


「───その人は、先々代の巫……エリス、っていう名前らしい」


先々代の巫。先代がシエルだから、彼女の前ということになるか。


「シエルはともかく…先々代って、生きてたのか……?」


「───。騎士団以外には伏せられていたか。巫は、二十歳を過ぎると引き継ぎが行えるようになるんだ。後継者が見つからないと、亡くなる間際までつとめることもあるが……エリス様は二十でシエルに代わられた」


「なるほどな…」


「エリスはダスティンに、『これから言うことを聞いてくれれば、私はあなたのものになる』って言ってた」


ステラの言葉を聞き、ヴァンスは目を閉じた。ひとつ頷き、言う。


「馬鹿だな」


ひねりもない誘い文句を言うほうも言うほうだが、それに釣られるのも馬鹿としか言いようがない。大物感が強かったダスティンだが、頭を振るとからからと音がするのではなかろうか。

音は冗談だが、真剣に騎士団の行く末が恐ろしくなってきた。


「で…馬鹿騎士長どのは、どうしたんだ?」


「監禁したいところだが…急に牢にいれてはさらに騎士達の反感を買うことになるだろう。だから、これでもかというほど脅して、監視も付けておいた。ずっとは無理だろうが、ヴァンスが回復するまでなら何とかなるはずだ」


「監視…?」


「騎士達の中でも、信頼できる相手がいるということさ」


アルバートの隣でステラが何度も頷いており、ヴァンスは吐息した。


「…悪いな……いろんなことやってもらって。予定してた滞在日数は、過ぎてるよな…」


「それは大丈夫だ。すでに施設に手紙を出している。どこで誰に見られるか分からないから、何があったかは説明できなかったが…」


「助かる。……遅くなったけど、ありがとう。意識が朦朧としてたから、あんまり覚えてないけどさ」


礼を言うと、ステラがぱんと手を打った。

彼女はアルバートのほうを向くと、


「そう、それ。気になってたんだけど、アルバートはいつも薬草の小瓶を持ち歩いてるの?知識もあったし、驚いちゃった」


「ああ…前に、毒や効果のある薬草について調べていたんだ。持ち歩いていたのは、必要なときに助けられるようにするためだよ。……後悔は、したくないから」


彼の友人達と父親は、魔獣の毒で亡くなったと聞いた。本人には言えないが、そういう過去があったからこそ今回ヴァンスは助かったと言える。


「早く、もとにもどさないと……自力で起きれるかな、俺」


「あ、ヴァンス⁉まだ無理は……」


ベッドのシーツを握りしめ、ゆっくりと体を起こす。どうにか座ることに成功し、思わず声を上げた。


「い、いけるいける!これなら………いってぇ……」


「ほら、言わんこっちゃない!」


調子に乗って叫んだのもつかの間、殴られたかのような頭痛が襲ってきて、ステラに半ば強引に寝かされた。ぼふん、と面白い音がしたが笑えない。…しばらくは枕や布団と仲良くするしかなさそうだ。


「うう…いけたと思ったのになぁ……やっぱ駄目か……」


「当たり前よ。…今はゆっくり休んで、それから」


至極もっともな意見を受けて、ヴァンスは毛布を引き上げた。


「大人しく寝てるよ。……そうだ、聞き忘れたけど、ナイフ投げてきたやつのほうは、特徴とか…なんかなかったのか?」


ステラとアルバートが部屋を出て行こうとするのを呼び止める。振り返ったステラは、思い出すように瞳を彷徨わせると、


「───灰色の視線」


「───」


「ナイフが投げられる直前に、灰色の線が見えたの。…それだけ」


ヴァンスは口の中で「灰色…はいいろか……」と呟くと、


「…いや、まさか…な……」


もしそうだったらどうしたものかと、ヴァンスはため息をついた。

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