7.依存
竜が飛んでいくのを見送り、ヴァンスは長く息をはいた。
「はぁ……。無事、目的は達成した…」
「目的?」
ベスティアの森の近くには竜が住んでいて、会うためにも毎日通っていたのだとヴァンスは語った。
ローランド国において、竜とは神聖な生き物だ。
その強大な力を求め、多くの人々が竜を探してさまよっているらしい。
会えることは稀なため、実際に力を得た話は聞いたことがなかったのだが…
人類史上初であろうことを成し遂げたのが、目の前にいる兄なのだ。
「生きてる間に、ドラゴン様に会えるなんて想像してなかったよ、お兄ちゃん…」
呟きながらヴァンスの方を向くと───
「ん?」
ヴァンスは何かを咥えていた。
いや、何かではない。ガラスの小瓶だ。
「お兄ちゃん、それ…」
飲んでいるのは黄緑色の液体。───どこからどう見ても回復薬だ。
睡眠と食事を削るために回復薬を使っていたことは聞いた。だが、今はちゃんと寝ているし、少しずつだがご飯も食べている。怪我をしているわけでもない。
ヴァンスは小瓶から口を離すと、
「なんか気が付くと飲んでるんだよ」
「それって依存してるんじゃ…」
「いや、流石にそこまでじゃないと思う。ただ飲んでないと落ち着かないっていうか……」
「完全に回復薬に依存してる」
…ジュリアは真剣に兄は大丈夫なのだろうかと思った。
夕方までヴァンスは魔獣と戦い、宿に戻ってきた。
二人向かい合わせのテーブルの前に座り、夕飯を食べる。
「…この魚、美味いな」
焼き魚を食べながら言うと、ジュリアは嬉しそうに笑った。
かつてよりは少なめな夕食を食べ終えると、喉の渇きを感じた。
右手が勝手に動き、ポーチへと───
「…お兄ちゃん、やっぱり依存してるって」
「…そうかな」
回復薬の小瓶を咥えたヴァンスは、呆れたような表情のジュリアから目を逸らしたのだった。