6.強欲
「お願いがございます。───私に、貴方様のお力を分けて頂けませんか」
竜はヴァンスの願いを鼻で笑い、
『はっ!力と名声を得ようとする輩はこれまで何度となく見てきた。貴様も同じような口であろう?』
「───」
『まあ、貴様に言っても仕方あるまい。忌まわしい慣習に盲目的に従う貴様らには分からぬだろう』
何か、説得できる言葉はないかと探していたヴァンスは、顔を上げた。
今、竜は確かに───
「忌まわしい慣習、と仰いましたか」
『貴様も知っているだろう?《穢れた者》達に穢れを宿らせ海に突き落とすという慣習のことだ。───許せん』
竜は憤懣やるかたないといった様子で吐き捨てる。
無意識に、ヴァンスは口を開いていた。
「───ドラゴン様。私は、《穢れた者》などと呼ばれている人々を助けたいのです」
「見た目だけで判断され、自分ではどうにも出来ない部分で忌避される。その上、人生まで歪められて。…私の幼馴染みも、銀髪青瞳です」
竜が目を見開いた。竜の驚いた表情など珍しいはずだが、それすら意識にのぼってこない。
───ヴァンスの頭にあるのは、ステラが最後に浮かべた微笑みだけだ。
「連れ去られた彼女を…彼女達を、俺は助けたい。でも、俺は無力で…だから」
一人称が『俺』に戻ったことにも気付かず、ヴァンスは言葉を紡ぐ。
「だから、力を求めました。ですが、本来力は自分で努力して得るものです。俺は助けたいと望むあまり、重要なことを忘れていました」
「話をお聞き下さったこと、感謝申し上げ……」
途中で、ヴァンスの声は轟音にかき消されてしまう。何かいけないことを言って怒らせたかと焦り、竜を見上げると───
竜は怒っていたわけではない。───笑っているのだ。
地面が振動するほどの声を上げて、竜は大笑いしていた。
笑われた理由が分からないヴァンスが首をひねっていると、
『面白い。───貴様に力を与える』
一瞬、何を言われたのか理解できなかった。
唖然としたまま動けないヴァンスに、
『自分の欲を満たすためではなく、他者のため、か。これほど欲のない人間は初めてだ。───貴様の想いに免じて、力を分けてやろう』
竜の前足あたりに白い光の塊が生み出される。
光はある大きさになると、ゆっくり降下を始めた。
引き寄せられるように両手を伸ばし、ヴァンスは力を受け入れた。
ヴァンスの体が発光し、光は完全に内へと取り込まれる。
『力を思い通りに出来るかは、貴様次第だ。…努力すれば、いずれ己のものとなる』
「───ありがとうございます、ドラゴン様」
礼を述べてから、ふと思ったことを口にする。
「俺は、欲張りですよ。───ステラだけじゃなく、他の銀髪青瞳の人達も助けようとしてるんですから」
ステラだけでも手が届くか分からないのに、それ以外にまで手をのばすなんて。
───ヴァンス以上に強欲な人間が、他にいるものか。
竜はふっと笑うと、
『貴様…貴殿の健闘を祈る』
そう言って、飛び去っていった。