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3.無自覚故の残酷



「…ヴァンス、ヴァンスってば」


ステラに肩をゆすられ、ヴァンスはようやく我に返った。

見れば、いつの間にか竜はいなくなっている。ステラだけではなくジュリアやアルバートも顔をのぞきこんでいて、思わず身を引いた。


「…近いな」


「声をかけても反応がなかったからだ。…大丈夫か?」


「……その言葉、そっくりそのまま返してやるよ」


お前が言うな、と言ってやりたい衝動にかられるがそれはなんとか自重する。むず痒いが、ヴァンスを心配してくれているのは事実だろうから。むず痒いが。

ヴァンスは暫し迷った末、切り出した。


「アルバート。───帰ったら、話があるんだ」





森から帰ると、すでに日が傾いていた。

ヴァンスの目が覚めたのが昼だったのだから仕方ない。ジュリアはすぐに夕飯の支度を始めた。


「サラ、手伝いしてるのか。偉いな」


食器を運ぶサラの頭を優しく撫でてやると、少女は嬉しそうに笑った。

調理場をのぞくと、ステラとジュリア、レティシアの三人が仲良く料理をしている。どんな話をしているかは分からないが、見ていて微笑ましい。


扉が開く音がして、ヴァンスは振り返った。

───立っていたのはシエル。彼女は気まずそうにしつつもヴァンスのもとへやってきた。


「私も手伝いたいのですが…その…料理をしたことがないのです」


「…なるほどな。……教えようかって言いたいところだけど、全くもって残念なことに俺は料理ができない」


「…自信満々に言うことではないと思うが……」


そばを通りがかったアルバートがぼそりと呟くが、あえてスルーする。話が進まなくなるのだ。


「料理は今すぐは無理みたいだから、別のことでなんかないか……洗濯とか?」


ジュリアが前に洗濯物が多くて大変だと言っていた気がする。名案だと思ったのだが、シエルの顔は晴れず、彼女は困ったように言った。


「非常に言いにくいのですが……家事を教わる前に、家を出たので…」


───言われてみれば、儀式の時に幼いころ連れてこられたと話していたはずだ。


「安心してくれていいぜ。───俺も家事全般できないから」


「…安心できる要素は欠片もないが」


「ちょっと外野は黙ってろ!さっきからちょいちょい気になるんだよ!」


いちいち反応してくるアルバートに叫び、ヴァンスはシエルに笑いかけた。


「俺の方からジュリアに聞いてみるよ。色々大変だろうけど、可能な限り手助けするからさ」


そう言うと、シエルは驚いたように目を瞬かせた。紅玉(ルビー)の瞳を揺らめかせ、白い頬がさっと紅潮していくのを見て、ヴァンスは何かおかしなことを言ったかと言動を振り返る。


「自覚がないとは罪だな…」


「アルバート、お前それ自分にも跳ね返ってくるって分かって言ってるか?」


ブーメラン発言に苦言を呈すると、アルバートは分かっていない顔で眉をひそめた。


自覚のなさは罪、とはよく言ったものだ。

自覚がないことによる罪。───無自覚(ゆえ)の残酷さ。


夕飯を食べ終わったら、と話してはいたが。

ヴァンスは説明に頭を悩ませつつ、席についた。




階段を上り、屋上のドアを開ける。

街の中心部から離れたここは周囲に明かりが少なく、星が煌めいている。天の川も肉眼ではっきり見え、幻想的な空間に呼吸も忘れて見入ってしまいそうになる。が、今は星空を眺めるために屋上にきたわけではない。

ヴァンスは手すりに寄りかかると、風に揺れる黒髪をそっと手で押さえて立つアルバートを見た。彼の姿を絵になると評価し、ヴァンスは口を開く。


「…これまで俺は、お前が話してくれるのを待とうって思ってた。だけど、今日竜の言葉を聞いて……残酷だって聞いて、考えが変わった」


「───」


「遠まわしな言い方は得意じゃない。だから、傷付けるの覚悟で率直に言うぜ。───過去に、何があったんだ?」


───暗闇でも分かるほどに表情を固くし、アルバートは凝然とヴァンスを見つめた。

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