49.再会
夜空に煌めく星々が、徐々にうすれていく。東の空が白み始め、ステラは檻から出された。
数時間ぶりに座ったままの姿勢から解放されたが、強張った体をほぐす間もなく騎士達に押さえ込まれ、片足に鎖を巻き付けられてしまう。鎖の先には鉄球がついていた。
ずっしりと重い鉄球を引きずって崖のギリギリのあたりまで歩かされる。
少し呼吸を乱したステラの後ろで、音がした。
振り返ると、馬車から一人の少女が降りてくるところだった。
一切の不純物を感じさせない真っ白な髪。顔はヴェールで覆われているが、ステラには切れ長の赤い目がはっきりと見えた。
巫女服姿の少女に、護衛の騎士達は膝をつき、最敬礼をする。
神聖な色とされる、白と赤の二色だけで彩られた少女。───彼女が、巫。
少女は岩の上に立ち、歌うように祓詞を紡いでいく。
「───世界を見守りし神々よ、この世に在る穢れを祓い、清め給え───…」
澄んだ鈴の音のような美しい響きを残して、祝詞が終わる。直後、騎士二人がステラの体を、何の躊躇いもなく前に押し出した。
ドガァァァン、という凄まじい音と悲鳴、怒号が背後で聞こえるが、落とされるほうが早い。音の発生源を確かめる余裕もなく、ステラの足は地面を離れていた。
風が強い。空気に顔面を叩かれ、上手く息を吸えない。海面が近付く。くすんだ青色が、近付く。たとえようのない恐怖が全身を駆け巡り、ステラはぎゅっと目を瞑った。
「ヴァンス……っ」
悲鳴を上げそうになり、ステラは助けにくると言った少年の名を呼んで───
ふわりと、温もりが全身を包んだ。
衝撃でも、水の冷たさでもない。安心感をもたらす、温かさ。
期待を込めて、ゆっくり瞼を持ち上げ───
最初に目に入ったのは、薄暗い中でも目立つ金髪。ずっと、ステラの隣にあった輝き。
次いで緑の双眸が、ステラを見た。
「ヴァン、ス……?」
「───ステラ」
彼───ヴァンスは、記憶にあるよりも少し低い声で、屈託のない笑みを浮かべ、ステラの名前をはっきりと呼んだ。