42.取引
「無事、三日間の休みが貰えたよ。先週無断で欠勤したことを叱責されてしまったが」
───早くも一週間がたち、ふたたびアルバートは施設へやってきた。
街で待ち合わせようと提案していたが、アルバートがどうしてもと聞かなかったのだ。
…わざわざ施設に顔を出そうとする理由もうっすらと分かってきたが。
「ところで、君は何で帰るつもりなんだ?」
アルバートのように馬に乗れないヴァンスは必然的に馬車が必要になる。
「それはこれから」
「……」
アルバートは何か言おうと息を吸い込んだ。だが、言葉は出ずに空気は吐息に変わる。
「ま、ついてくれば分かるさ」
そう言って、歩き出したヴァンスが向かったのはロイドの店だった。
「ヴァンスか、今日は何を……」
「───馬車を貸してくれ」
ロイドの言葉を遮り、開口一番ヴァンスは要求を口にする。要求というと印象が悪いが、これは取引なのだ。
「馬車を貸してくれるなら、俺はこれをただであんたに渡す。どうだ?」
言いながら右手で小袋を取り出す。見た目より重いそれの口を開け、ロイドが目を見開いた。
小袋の中身は魔石だ。それも、魔石の中でも純度の高いもの。
ぎっしりとつまった魔石をじっと見て、
「本当に、いいのか?」
「頼んでるのはこっちだからな」
「分かった。───馬車を貸してやる。御者は…」
「御者ならここにいる。……できる、よな?」
話している途中で不安になり、少し後ろに立っていた騎士をちらりと見る。
手で示されたアルバートはため息をつくと、
「君の行き当たりばったりさには驚かされるよ」
「───一番肝心なところが行き当たりばったりにならないようにするために、これから行くんだよ。その過程は…気にしないでくれ」
「……」
───そんなこんなで、ヴァンスとアルバートは街へ出発したのだった。
…余談ではあるが、
「そういや、お前なんで三日も休み取ったんだ?二日間で楽々行って帰ってこれるだろ?」
荷台から顔を出し、馬を操っているアルバートに問いかける。途端に馬車が揺れ、慌ててヴァンスは倒れないように体を支えた。
「二日だけでは、ジュリアとゆっくり話す時間がないだろう……」
「……もう付き合えばいいじゃん…」
───道中、このような会話があったことを付け加えておく。
ありがとうございました(*^-^*)
続けてもう一話投稿します。