40.和解
ヴァンスが一階の広いダイニングに顔をだすと、皆喋るのをやめ、急に静かになった。気まずい思いをしていると、椅子に座っていたレティシアが近付いてくる。
「レティ……レティシア、ごめんな」
「───」
「俺は、レティシアを見て…ステラを思い出してた」
レティシアを傷つけるだろうということは、分かっていた。でも、はっきり言わなきゃいけない気がした。
「レティシアの想いに……俺は応えられない。……ごめん」
これ以上言うべき言葉を見つけられず、ヴァンスは口を閉じた。
不意に、ずっと沈黙していたレティシアが問いかけた。
「……ステラさんは、」
「ステラさんは私に、似ていましたか……?」
ヴァンスは迷い、躊躇ってから、本心を口にする。
「似てたよ」
「───」
「見た目もそうだし……雰囲気も、似てた」
それを聞いたレティシアは、目を伏せ───
「───ありがとう、ございます」
「……え?」
耳を疑い、レティシアを見た。周囲も、驚いたように目を見開く。
レティシアは微笑みすら浮かべて、ヴァンスを見つめていた。
「はっきり言ってくれて、似ているって思ってくれて───初めて会ったとき、いじめられてた私を助けてくれて、ありがとう」
桜色の唇から、感謝が紡ぎ出される。
「……俺も、」
自然と、声がこぼれた。
「俺なんかを想ってくれて───ありがとな」
レティシアの青い瞳が潤み、堪えきれずに溢れた涙が白い頬を伝い落ちて、儚く煌めいた。
「…それじゃ、無事仲直りしたことだし、朝ご飯食べよう!」
ジュリアが手を叩き、それぞれ自分の席につく。アルバートはヴァンスとジュリアの間に座っているのだが───
「……顔赤いな」
「───。僕…いや私は騎士だ。常に泰然としていなければならない。心を揺らすなど、そう、あってはいけないんだ」
「相当動揺してるんだな。お前が『僕』とか言うの初めて聞いた」
寝起きの件も含め、アルバートの新たな一面を見た気がする。なんか意外だった。
「あ、そうだジュリア」
「なあに?」
「───来週、俺とアルバートで家に行ってくるよ」