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37.予感



───アルバートは何不自由なく育ち、遊び仲間もたくさんいた。


「おーい、アルバート!こっち来いよー!」


大きな声でアルバートを呼ぶのは、亜麻色の髪にオレンジの目をもった少年───レオだ。

レオの父親は毎日魔獣の群生地に行き、とってきた魔石を売って暮らしている。その父親の手ほどきを受けているレオは遊び仲間の中でも運動神経が良い。


「このときにこう足を……」


レオに教えてもらいながら、木の棒を振り回して遊ぶ。


「あ……」


振った棒が近くにいた桃髪の少女に当たりそうになり、アルバートは声を漏らした。幸いかすめただけですんだが、少女───ルナサは硬直してしまっている。それを見つけた別の女の子が、びしっと鼻先に棒を突きつけてきた。


「気をつけなさいよ!」


「ご、ごめん、ルナサ。……カレンも」


ルナサに謝ると、カレンと呼ばれた少女は肩にかかる橙色の髪をさっとはらい、隣に立つ桃髪の女の子に向きなおった。


「ルナサ、このバカにはちゃんと言ったほうがいいわよ」


「え……でも、どこも怪我してないから……。私も、注意不足だったし」


ルナサが少し恥ずかしげに呟いた。責めようとしないルナサにカレンがため息をつく。


「カレンは言い方キツイと思うけど……」


思わず口に出すと、カレンがじろりとアルバートを睨んだ。赤い目で睨まれると迫力があって怖い。


「何か言った?」


「……何も言ってません」


「じゃあ繰り返して、『二度とカレンの悪口はいいません』って」


「二度とカレンの悪口はいいませんカレンの悪口はいいませんカレンの悪口はいいません」


三回繰り返すとカレンは満足げに笑った。

アルバートとカレンのやり取りをレオが「うへえ」と言いたげな顔つきで眺めている。その隣には、レオの弟であるルイが立っていた。


レオにいいように使われているルイとはあまり喋ったことがない。

もともと無口で兄の言葉に盲目的に従うルイに、良い印象はなかった。




喉が乾き、近所の店で飲み物を買おうと並んでいると、数人の男達が笑いながら入ってきた。並んでいるアルバート達の前に割り込んで、商品を買おうとする。


「あの、並んでたんですけど」


カレンが男達に文句を言った。途端、笑い声が止む。

こちらを見る男達に、カレンも一歩下がった。


「───子供(ガキ)のくせに、生意気だな」


店員は割り込んだ男達にへらへらした笑みを向け、アルバート達をわきに押しやる。そのはずみでルナサが握っていた硬貨が地面に落ちた。

転がったコインは男達の足元で止まる。竦み上がって拾いにも行けないルナサ。

アルバートがかわりに拾うために、近付こうとし───


「───ぁ」


コインが男の靴に蹴飛ばされ、店内の商品に紛れてしまった。

ルナサが泣きそうな顔で俯く。あのお小遣いは、彼女が家の手伝いを頑張って、それで得たお金なのに。

怒りに顔が熱くなる感覚。つかみかかろうとしたが、足が震えて動かない。


───そのまま、男達が店を出て行くのを見送るしかなかった。




弾き飛ばされたコインを苦労して回収し、何も買わずに店を出た。


「何なのよ、あいつら……」


カレンが悪態をつく。アルバートも同感だった。

友達のために声すらあげられなかったことが悔しくて、アルバートは唇を噛む。

力も、何もかも男達には敵わないのだ。


前を歩いていたカレンが突然足を止めた。


「カレン?」


「あいつらに子供だって馬鹿にするなって言ってやるには、大人でも難しいことを、私達がやってみせればいい!」


何を言い出したのだろうと、全員がカレンを見る。

カレンは良いことを思いついたという表情でまくしたてた。


「魔獣と戦って、魔石を持って帰るのよ。そうすれば、子供のくせになんて、言えなくなるわ!」


「おお、いいなそれ!」


レオは乗り気だが、アルバートは頷けなかった。


「……なんだよ、アルバート」


「魔獣は危険だから、遊びに行くなって言われてたはずだよ」


「───遊びなんかじゃないわ」


「そうだぜ、友達のためにやるんだから、遊びじゃない!」


「お兄ちゃんがそう言うなら、僕も賛成」


レオに続いてルイも行こうとするが、譲らない。譲ってはいけない。


「何と言おうとだめだよ!」


頑として意見を変えないアルバートに、カレンがため息混じりに、


「……分かったわよ」


何か言いたげなレオの口を塞ぎ、カレンはあっさりと引いた。

そこで一旦昼ご飯を食べるために解散し、アルバートは家に帰った。このとき、アルバートは自分の意見に賛成してくれたのだと(つゆ)ほども疑っていなかった。


───後に、奥歯を欠くほどに悔やむことになるとは知らずに。




自宅の扉が叩かれたのは、それから一時間もたっていなかった。食事していたアルバートは誰だろうと思い、扉を開ける。

立っていたのは、ルナサだった。


「ルナサ、どう───」


「───大変なの‼」


叫んだところなど見たことがないルナサの表情に不穏なものを感じる。


当たってほしくなかった。

こんな予感、当たってほしくなかったのに───。




「皆が…皆が!魔獣の群生地に……‼」



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