36.透徹
外で音がして、ジュリアは顔をあげた。立ち上がって扉を開ける。
───アルバートがぐったりとしたヴァンスを背負って立っていた。
「お兄ちゃん⁉」
「眠っているだけだ。怪我はしていない。……詳しい話は、後で」
無表情で言ったアルバート、彼の様子に違和感を覚え、口にしかけてやめた。本人が後でと言っているのだ、今ここでする話ではないのだろう。
アルバートをヴァンスの部屋に案内しようとし、ジュリアは動きをとめた。
───うずくまっていたレティシアが、背負われているヴァンスの左手をとっていた。アルバートもそれに気付き、少しかがむ。
レティシアはヴァンスの手に頬を押し付け、
「……良かった」
「ヴァンスが無事に帰ってきて、良かったぁ……っ」
不安がなくなって安堵したのだろう、声をあげて泣くレティシアの頭をそっと撫でる。
───レティシアが落ち着くまで、撫で続けていた。
レティシアが泣き止むのを待って、ヴァンスをベッドに寝かせた。
皆には残り物のご飯を食べてもらった。申し訳ないが、作っている時間がなかったのだ。
今は皆自室に引っ込んでいるので施設内は静かだ。
ジュリアは椅子を二脚ベッドの側に引っ張ってくると、片方をアルバートにすすめ、腰をおろした。
何があったのかと問うと、アルバートは森でのことを話した。
「……あとは、君が知っているとおりだよ」
そう話を締めくくると、騎士はジュリアに頭を下げた。
「…すまない」
「どうして謝るの?…お兄ちゃんを止めてくれて、私は感謝してる。……それよりも」
ヴァンスを連れて帰ってきたときも、こうして喋っているときも、違和感が拭えない。
彼の表情に、取り繕ったようなぎこちなさがあって。
「アルバート。───なにかあった?」
はっきりと、動揺が見て取れる。ジュリアは考えが確信に変わるのを感じた。
「……なにか、とは」
「どこがどうってわけじゃないの。ただ、いつもと違うなって思って」
アルバートはジュリアを凝視していたが、やがて吐息を零し、
「ジュリアには敵わないな」
諦めたような笑みを浮かべ、アルバートは語り始めた。
ここではないどこかを見ているような、透徹した瞳で───。
ありがとうございました(*^-^*)
できれば今日中にもう一話投稿したいと考えておりますので、よろしくお願い致します。頑張ります。