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29.宝物



翌日には倦怠感も消えていて、ヴァンスはほっとした。時間を無駄にしてしまった感は否めないが、久しぶりに自室でゆっくりできたのだから良いとしよう。


───変わったな、俺も。


ジュリアがくるまであれだけ時間をいかに有効利用するか考えていたのに。


少し、精神的に余裕ができたのだろうか。

だとすれば、それはジュリアのおかげだ。リビングでレティシアと喋っているジュリアに、


「───ありがとな」


そっと呟いた。彼女は気付いていないが、これでいい。

自分がしっかり分かっていれば、いい。


キッチンで洗い物をしていた母が顔を出し、


「今日は商店街でお祭りがあるみたいよ」


と言った。その瞬間、ジュリアとレティシアの目が輝く。

大人びてきたジュリアも、まだまだ子供なのだ。ヴァンスだって人のことは言えないが。


「行くか」


───帰る前に、思い出を作るのもいいだろう。







「わあっ!お兄ちゃん、これ美味しそう!あ、あれも食べてみたい!」


あちこちに興味をしめすジュリアは興奮していて、微笑ましい。


「レティよりもはしゃいでどうするんだよ」


苦笑混じりにそうこぼすと、


「だって、楽しいんだもん……」


ジュリアは頬を膨らませた。───可愛い。


「あ」


歩いていると、騎士の一団とすれ違った。見回りだろうか、白地に赤の装束に身を包む者達の中に、見知った顔を見つけた。


黒髪の騎士───アルバートとヴァンスの視線が交錯する。

アルバートはすぐに紫紺の瞳をそらし、前をむいた。

ジュリアも騎士達も、気付いた様子はなかった。


人ごみをかきわけて、右手でジュリアの手を握りしめ、服の裾をレティシアが掴んでいることを確認しながら進んでいく。


「───」


「……?どうした、レティ?」


レティシアの足がとまり、ヴァンスは彼女の視線を辿る。


───レティシアが見ていたのは、アクセサリーショップだった。

ジュリアとレティシアが仲良く指輪やブレスレットを見ているのを眺め、何とはなしにヴァンスも商品に目を向けた。


息を、のむ。


きらきらと光る装飾の中のひとつを手にとった。何の変哲もない、ペンダントだ。

正方形で空洞になっているガラスの中に、シングルカットにされた石が沢山入っている。石は金色の光を放っていた。革紐が通されているだけのペンダントは見た目よりも重い。

綺麗だから、手に取ったわけではない。

───かつて見たことがあって、思い出が蘇ったから、手にとった。


あれは、いつのことだったか。



ヴァンスはステラとジュリアの三人で祭りに行こうと約束していたのだが、ジュリアが風邪をひいてこれなくなったのだ。

ジュリアを心配し、行くのをやめようかとステラと話していたのだが、母に行ってきなさいと追い出され、二人で見てまわっていた。

そのとき、ステラがあるものに目をとめたのだ。


それが、このペンダント。


食い入るようにペンダントを見つめるステラを見て、ヴァンスは自分のお小遣いで彼女にプレゼントした。

代金を払い、タグをとってフードの上から首にかけてあげると、ステラは───


「ありがとう、ヴァンス。……大切にするね」


輝くような笑顔で、そう言った。

嬉しくて、ヴァンスも笑った。


「何で欲しいと思ったの?」


「……教えない」


「えー……」


二人で色々なものを食べて、色々な遊びをして。

───ペンダントをじっと見ていた理由は、頑なに答えてくれなかったけれど。




「……これ、ください」


ヴァンスはかつてと同じようにペンダントを買った。さすがに恥ずかしいので、服の内側にさげる。


安いペンダントだが、そこには値段以上の価値があるとヴァンスは思う。ヴァンスにとって、そして───ひょっとしたらステラにとっては、宝物にも匹敵する。


───思い出という名の、宝物だ。


ヴァンスは服の上からそっとペンダントを押さえ、ジュリア達のほうへ歩いていった。

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