20.再起
ヴァンスはまず、身の回りのことを自分でできるようにすることから始めた。
片手だけでは何をするのも大変だ。食事をとるのも、何度器をひっくり返したことか。
ジュリアが見かねて食べさせようか、と言ってくれたが、ヴァンスはそれを拒んだ。
手伝ってくれれば『今』食事するのは楽になる。───でも、『いつか』は自分でやらねばならない。
そう口にするヴァンスに、ジュリアはどこか嬉しそうに笑った。
動かない腕で器を押さえ、どうにかこぼさずに食事を終えたときは、自分のことのように喜んでくれた。
だから、だろうか。
どれだけ失敗しても、やってみようと思えるのは。
自分は、今も昔もジュリアに───否、沢山の人々に支えられていたのだ。
ヴァンスが片腕の生活に慣れてきた頃、ジュリアがある提案をした。
「私、仕事をしようと思うの」
これまで、二人はヴァンスが倒した魔獣の中にある魔石を売って暮らしていた。だが、しばらく森に行けない以上、どこかで働いて稼ぐしかない。
「……悪い」
「もう。どうせなら、ありがとうって言ってよ」
ジュリアは頬を膨らませた。その頬を軽くつつき、
「ああ、そうだな。…ありがとう」
ジュリアはヴァンスの暮らす宿で働くことになった。
意外だったのが、ジュリアが宿の人間に気に入られていたことだ。
誰に対しても微笑みを絶やさず、優しく接してくれるジュリアは本人とヴァンスの知らぬ間に人気者になっていたのだった。
宿で働くようになってから、一か月。
…気のせいか、男性客が増えている気がした。
時々ジュリアにちょっかいを出す連中がいるが、それについては問題ない。
口で言って済めばそれでいいし、もし駄目でもシメればいいだけだ。
───結論を言おう。
体が鈍りつつあるヴァンスにとって、良い運動になった。
……あとは、まあ、察してくれ。