18.絶望
泥沼の中から、意識が浮上してくる。
「ぅ、ぁ……」
眠っていた時も感じていた鈍い痛みが鮮烈なものに変わり、ヴァンスは呻いた。
だんだんと覚醒してくるにつれて、何があったのか思い出してきた。
虎の魔獣と戦い、剣で貫いたところまでは覚えているのだが、その後はどうなったのか。
そろそろと首の向きを変え、左腕を見る。ヴァンスのベッドに顔を埋めて眠るジュリアの姿が目に入ったが、それよりも───。
ぐるぐる巻きの包帯をほどくと、己の左腕が露わになり、ヴァンスは息をつめた。
上腕三頭筋のあたりの肉がごっそりともげ、骨が見えそうになってしまっている。
左手を動かそうとしてみたが、ぴくりとも動かなかった。
視線がさまよい、右手が腰を探る。ポーチは外されていた。
回復薬を。回復薬を飲めば、きっと動くようになる。
そんな希望に縋り、ヴァンスは痛みを堪えて起き上がり、ゆっくりと立ち上がった。
危なっかしい足取りでテーブルに歩み寄り、ポーチをつかむ。
脳を激しい痛みが殴りつけるが、かまわない。
瓶を片手で苦労して開け、喉に流し込んだ。
回復薬は、『体を健康な状態』に近づけるもの。
だから、治る。治るはずで、治るはずなのに───
「なんで……っ!治れ、治れよぉ……っ‼」
痛みは消えない。───傷は、癒えない。
ヴァンスはその場に崩れ落ちた。
手から小瓶がこぼれ、ささやかな音を立てて砕ける。
ガラスの破片の上に、手を叩きつけた。
───何度も、何度も。
「お兄ちゃん、やめて‼」
音によって目を覚ましたジュリアが悲鳴を上げ、自傷行為をやめさせようとする。
どこからか、獣のような声が聞こえる。胸を掻き毟られるその声が、自身のものだとヴァンスは気付けない。
叫んで、叫んで、叫び続けて。
どんなに嘆こうと、願おうと、治らないのだと、そう理解して。
───ヴァンスは、絶望した。