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34.追跡開始

昨日投稿した『34.追跡開始』ですが、大幅な加筆修正があったため、改稿ではなく差し替えさせていただきました。

これが、修正した34話です。

よろしくお願いいたします<(_ _)>



 ステラを連れて行くと決めてからのヴァンス達の行動は素早かった。

 まず、モフリアの位置を地図に書きおこす。

書きおこすといっても、作業は言葉ほど簡単ではないのだが、ここでももふもふ灰色毛玉ことノアが大活躍した。


「ん…リアとの距離はおよそ四十キロメートルで、方角はほぼ真北ね。地図で言えば、このあたり」


 ノアは感覚として伝わってくるモフリアとの距離と方向を教えてくれるだけでなく、地図の縮尺を使って瞬時に計算し、地図上のどのあたりにモフリアがいるのか示してくれる。ヴァンスの仕事と言えば、ノアの指した位置に赤いインクで印をつけていくことぐらいだ。

 ノアによれば、モフリアとの距離は一定の速度で離れていっているらしい。つまり、モフリア───エドガー達はまだ馬車で移動しているのだ。

 常に変化し続ける位置を追い、点を線で結んで見えてきたのは───、


「ここを通って……なら、目的地は」


「この進路であれば、『ボヌール』に向かっていると考えるのが妥当だろう」


 ボヌールとは、北にある街だ。エドガー達の故郷の街であるセヴェルからほど近いところにある。施設から結構距離はあるが、行って行けないほどではない。

問題があるとすれば、


「アルバート、ボヌールに行ったことってあるか?」


「……いや、無い。街の名称を聞いたのも、今が初めてだ」


「だよな」


 地図をよく見なければ見逃してしまいそうなほど小さな文字で、街の名前がかいてあるのだ。知らなくても致し方ない。


「クロード、俺達はボヌールっていう街を目指して行ってみる。目的地が違ったら……」


「…違ったら?」


「そのときはそのとき」


 ヴァンスの言葉に、クロードは瞠目した。

ステラやアルバートもやれやれといった表情を浮かべているのを意図的に無視し、ヴァンスは返答を待つ。

 やがてクロードは嘆息すると、


「……ああ、分かったよ。───くれぐれも、気を付けて」


───そう、理解の意を示したのだった。



***



 クロードには来たばかりで申し訳ないが、シュティアまで騎士を呼びに行ってもらい、ヴァンスとアルバートはエドガー達を追いかけるための馬車を準備していた。


「お兄ちゃん、私は……ここにいたほうがいいよね」


 ジュリアが半ば自分に言いきかせるように聞いてきて、ヴァンスは頷いた。


「ああ。アルバートが心配なのは分かるけど、ここで待っていてくれ。……レティとシエルも落ち込んでるから、二人を頼むよ」


 レティシアとシエルは、エドガー達から目を離してしまったことに責任を感じている。できることなら慰めてやりたいが、時間がないのだ。だから、その役目はジュリアに任せる。

 ジュリアは顎を引き、僅かに迷ってからヴァンスの左手に触れた。


「こっちのことは、任せて。……気を、つけてね」


 ヴァンスは右手を持ち上げると、どことなく不安げな妹の頭を撫でた。

───こうして、ジュリアの頭を撫でるなどいつぶりだろう。

 兄妹の触れ合いは数秒で、名残惜しそうなジュリアから手を離すと、ヴァンスは少し離れたところに立つ両親に目を向けた。

───話し合いの場にいなかった施設の皆にも、エドガーとバレンティアが誘拐されたことを簡単に伝えた。当然、両親もヴァンス達がこれから何をしにいくのか知っている。


「父さんと母さんは、ジュリアを見ててくれ。なるべく早く戻ってくるようにするけど、こればっかりはどうなるか分からないからさ」


「……本当に、行くのね」


 ヴァンスの言葉に、母が微かに目を伏せた。両親にしてみれば、ヴァンス達が無事に帰ってくるか気が気でないのだろう。

 正直に言おう、ヴァンスだって怖い。失うことが怖くて、今も足が震えている。自分の選択のせいで大切な誰かが傷付いたらと思うと、恐ろしくて堪らない。

 故に───、


「───行くよ」


「───」


「守れないことが、何より怖いから」


 誰に何と言われようが、ヴァンスの決意は揺らがない。

失う哀しみを、恐怖を知っているからこそ、手の届く範囲で助けてやりたい。

───ヴァンスの手が、全員を包めるほど長くも大きくもないことは分かっているけれど、それでも。


「……本当に、大きくなったわね」


「いつの間にこんなに成長してたんだか、な」


 両親の感慨深げな言葉に、ヴァンスは首をひねった。

成長期などとうに終わっているし、目に見える変化はないはずなのだが。


「……身長はとっくに止まってるけどな」


 そう言うと、両親はやれやれと嘆息した。どうやら呆れられてしまったようだが、分からないものは仕方がない。


「───ヴァンス、いつでも行ける」


 ついつい馬車の準備をアルバートに任せっきりにしてしまっていたらしい。ヴァンスは首をすくめると、腰に剣があることを確かめた。

魔石や回復薬などの小物類は、ステラに預けてある。というのも、持ち物が多ければ多いほど戦闘時の動きが制限されるからだ。

最後にノアと地図を回収し、


「んじゃ、行くか」


 施設の皆に見送られながら、ヴァンスはステラとともに馬車に乗り込んだ。アルバートは本人の自薦もあり、御者台にいる。

───ヴァンスとステラが常時エドガー達の現在地を追い、連絡用の小窓からアルバートに指示を出す。これが大まかな作戦だ。

 固く握りしめた拳を、隣に座るステラが両手で包み込んだ。温もりに強張りは解け、ヴァンスは自分が思いのほか緊張していたことに気付く。

 がたがたと音を立てて馬車が動き出して、ヴァンスは地図に視線を落とした。


「アルバート、とりあえず北上してくれ」


「了解した」


 手元にあるのは街の位置が書かれた地図。当然のことながら、細かい道など書かれていない。

───これは思った以上に時間がかかりそうだと、ヴァンスは唇を噛む。


「待ってろよ。───エドガー、ティア」


 ヴァンスは遠ざかる施設を振り返り、決意の滲む声で呟いた。

ただただ、二人の無事を祈りながら───。



ありがとうございました(*^-^*)

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