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32.祭りの日



「───それじゃ、行ってきます」


「ん、気を付けてな。楽しんで来いよ」


───翌日の昼過ぎ、ヴァンスは祭りに行くエドガー達を見送るため、いつも稽古をしているあたりに立っていた。

レティシアとシエルに先導されながら楽しげに歩いて行く様子は見ていて微笑ましい。


「リアってば、あんなにはしゃいで。子供より子供みたい」


 肩の上のノアが、四人を見送りながら拗ねたように零した。ノアの言う『リア』というのは、モフリアのことだ。

 モフリアは今日の朝から───否、昨夜からテンションが異常に高く、それに付き合わされたヴァンス達の疲労感は凄まじい。

今も、レティシアの頭の上で飛び跳ねて、転げ落ちそうになったところをバレンティアにキャッチされているのが遠目に見える。


「本当に良かったのか?…行きたかったんだろ?」


「……。リアと、一緒にしないでよね。力を与えられて生み出されたあたしたちは使い魔みたいなもので、使い魔は主人に仕えるもの。………リアに、その自覚があるんだか」


 どこか言い聞かせるような響きのあるノアの声に何か返す前に、鍛えられたヴァンスの目はそれを捉えた。


「あれは……クロードか。来るの早いな」


 馬に乗ってこちらへやってくる胡桃色の髪の騎士に見覚えがあり、ヴァンスは呟く。

クロード・フォーサイス───先々代の巫であるエリスの企みを粉砕した際に、協力してくれた騎士のうちのひとりだ。


「さてと……俺達は儀式の相談を頑張りますか」


 そう零して、ヴァンスはクロードが来たと伝えるために施設のほうに歩き出したのだった。



***



 クロードを空き部屋に案内し、ヴァンスとステラ、アルバートの三人は椅子に腰を下ろした。


「どうぞ」


 ジュリアが紅茶の入ったカップをそれぞれの前に置き、部屋を出ていくと、クロードが面白がるような口調でアルバートに話しかけた。


「《豊作の儀》の際にも言ったが……まさかこの(・・)アルバートにあんな綺麗な彼女がいるとは思わなかった」


「……。出会った当初の態度が悪かったのは、すまなかったと言っているだろう……」


───本人から聞いた話だが、『黒狂剣士』と呼ばれていたころのアルバートは、誰とも口を利かずにひたすら剣を振っていたらしい。

そんなアルバートしか知らなければ、呪いが解けてジュリアが目覚めたときに見せた彼の姿と、騎士としての普段の姿は確かに重ならないだろう。

 気まずそうに目を逸らすアルバートを見て笑ってから、クロードは表情を改めると、


「ステラ様、お変わり無きようで何よりかと存じます」


「ありがとう、クロード……で良い?」


「は。身に余る光栄です」


 敬語を使われることに慣れていないステラは少々戸惑いつつも、表情には出さない。付き合いの長いヴァンスだから分かる、小さな違いだ。


「それで、儀式についてだけど……」


 打ち合わせというより、ほとんど儀式の内容の確認だ。

行われるのは豊作を感謝する儀であり、人々にとって欠かせない儀式である。

衣装の準備等も進んでいるとのことで、さほど経たずに話し合いは終わった。

 まるで話が終わるのを見計らっていたかのようにジュリアが焼き菓子を運んできて、空気がほっと緩む。

 紅茶のカップを傾けたクロードが何かを思い出した表情になり、


「ひとつ忘れていた。ヴァンス殿を正式な……」


「───ヴァンス‼」


 クロードの言葉を遮ったのは、勢いよく開けられたドアの音とそれに勝る大声。

───祭りへ行ったはずのレティシアとシエルが、息を切らして立っていた。

二人は客人(クロード)を見て怯んだようだったが、それも一瞬のことで、すぐにこちらに駆け寄ってくる。


「どうした?」


「ヴァンス、エドガー君達が‼」


ただならぬ様子に短く問いかけると、レティシアは息を整えながら言った。



「───エドガー君とティアが、連れ去られたんです‼」



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