18.『青』
翌日、ヴァンス達は竜に会いに森へ向かった。
傷自体は魔石のおかげで治っていたのだが、アルバートの『無理をするな』発言につい頷いてしまったが故に、一日休養日となったのだ。
「お兄ちゃんって何だかんだ言っても約束守るよね」
感覚を頼りに歩いていく途中、ジュリアが苦笑しながらそう零した。
「約束は大事だからな。……約束、か」
「ヴァンス?」
ため息をついたヴァンスに、隣を歩くステラが心配そうに声をかける。
「……約束って言葉に、何かが引っかかってさ」
「…確か、一昨日の夜も……」
ステラが何か言いかけたが、それより目的地に到着したほうが早かった。
日の光が遮られ、地上に巨大な影が落ちる。
竜はまるで、ヴァンス達がやってくることが分かっていたかのようにホバリングした。
『思いの外、早く来たのだな。我も、記憶の整理はついたが……』
「───えっとさ、一昨日俺がここに来たと思うんだけど……なに話したのか、教えてくれないか?」
『……は』
苦笑いしたヴァンスの言葉に、竜は絶句したのだった。
***
『───そうか。それで、我に会いに来たというのだな』
記憶が抜け落ちたヴァンス以外の面々の説明に、竜は得心がいった顔で頷いた。
そのあとの竜の説明によると、結界について聞きにきていたらしい。
「結界について……でもそれで、何で俺の様子がおかしくなったんだ……?」
『ならば、もう一度言おう。幸いにして、此度は貴殿を引き止める者達がいる』
竜はステラとジュリア、アルバートに目を向けてから、そのひと言を口にした。
『結界がつくられた際、貴殿の───ウォレスの姿があったはずだ』
ウォレス。
そう呼ばれた瞬間、胸がちり、と疼いた。
──懐かしい、名前だ。
懐かしくて、呼んでもらえることが嬉しくて───ひどく、哀しくなる。
立っていることさえできなくなってしまいそうな切なさの、源は。
「エストレイア……」
呟く。声になっていないだけで、心の中で何度も叫んでいる。
───煌めく銀髪と蒼穹を映した瞳が特徴的な、少女の名前を。
すとんと、何かがあるべきところに収まったような気がした。
それと同時に、胸中に渦巻いていた複雑な感情の嵐が鎮まった。
───引き裂かれるような、胸の痛みを残したまま。
いつの間にか、膝を屈していたことに気付き、ヴァンスはゆっくりと立ち上がった。
「ヴァンス………」
間近で、青い瞳が不安に揺れている。ヴァンスは胸の痛みを押し殺し、安心させるように頷いてから言った。
「───思い出したよ、ステラ」
───澄み渡る青が滲み、熱い雫が頬を伝うのを感じながら。