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11.蒼穹



───ステラは今、何をしているのだろう。

冷たく暗い窂の中で、膝を抱えているのか。

それとも、ヴァンスやジュリアを思い出す暇もないほど、辛く苦しい毎日を送っているのか。

二年たってきっと身長も伸びているはずだ。


───前よりもっと美しくなっているはずで。

傍にいられないことが悔しい。悔しくて、会いたくて、たまらないから。


「無意味な犠牲の上に成り立つ安寧を守ることを、『正義』だなんて言わせない」


この場にいない、ヴァンスと敵対する立場にある黒髪の騎士に言い放つ。


「───強くなって、助け出してみせる。…ステラ」


暗い夜空に瞬く星々の煌めきを目に焼き付け、ヴァンスは瞼を閉じた。







───アルバートは階段を下りていた。

カツ、カツという靴音が反響し、思いのほか大きな音になる。

アルバートが足をとめたのは、光が届かない地下だった。

燭台に火をつけると、あたりがぼんやりと照らし出される。アルバートは夜目がきくので燭台などいらないのだが、わざわざ明るくしたのは相手に気付かせるためだ。


「ん……」


小さく声をあげ、檻の中の銀髪青瞳の少女───ステラは身を起こす。


「なに、か…用?」


いくら《穢れた者》といっても、最低限身を綺麗にする行為は許されている。

だから、彼女の煌めく銀髪や滑らかな肌はここにきたときから変わっていない。

《穢れた者》用の黒いワンピースを纏い、憂いを帯びた表情でアルバートを見上げるステラ。


特に何か理由があってここにきたわけではない。アルバートは迷った末、口を開いた。


「私は昨日(さくじつ)、とある街へ足を運んだのだが」


本来なら《穢れた者》と話すことは禁じられている。ステラが驚くのがわかった。


「そこで───ヴァンスに会った」


ステラは青い目をまるくし、立ち上がる。

檻を両手で掴み、


「ヴァンスは…ヴァンスは元気だった?」


彼女の反応に少しばかり動揺しながらアルバートは答える。


「ああ。───君を絶対に助け出すと、そう言っていたよ」



「ねぇ、もっと…ヴァンスの話を聞かせて」


ステラは瞳を潤ませ、縋るように頼んでくる。それが自分の思い通りにするための演技ではなく、彼女の本心が見せた素の表情だったから。

アルバートは頷いていた。

途端、ステラの目が輝き、息をのむ。


短いヴァンスとのやり取りを話すと、ステラは嬉しそうに笑った。

その笑顔が綺麗で、また見たいと思ってしまって。


「…毎週同じ日に、私は街へ行くことになっている」


アルバートの言葉の意味を悟り、ステラの表情が明るくなる。


「また、聞かせて。…そうすれば私、きっと頑張れるから。それと」



「ヴァンスに会ったら、私は元気だって、助けに来てくれることを信じてるって言ってたって伝えて」


無茶なお願いをしてくるステラにため息をつき、首を縦に振った。


「ありがとう」


燭台の火を吹き消し、アルバートは階段を上り始めた。


何故、自分は彼女にヴァンスのことを話したのだろうか。

戻るなら、今のうちだ。騎士として、『正しいこと』を重んじるのであれば、二度とここにはこないで───


『───見かけだけで十二の少女を連れて行ったお前が、『正義』を語るな』


怒りを滲ませた声が、直前の思考を否定する。

正しいこととは、なんなのだろう。

今、自分が重要なことを考えている気がして、アルバートは腰の剣に触れる。


───ステラの蒼穹の瞳が目の奥にちらついていた。

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