12.瞳の色
「───」
───目覚めて最初に味わったのは、ふかふかとした布団の感触だった。
これまで経験したことがないくらいの心地よさに、少年は違和感を抱いた。
空腹と、寝不足による疲労感に視界がゆらいだのは覚えている。ならば、体を包み込むのは湿った草であるはずで───、
「───目、覚めたか」
知らない男性の声が聞こえて、少年は瞼を持ち上げた。視界に入ったのはこちらをのぞき込んでいる金髪の青年と───長い銀髪をひとつに纏め、蒼穹を映したかのような美しい瞳をもつ女性だった。
***
目覚めた少年に冷えた水の入ったコップを手渡し、ヴァンスは吐息した。
倒れていた二人を抱え、帰ってきたのがついさっき。施設の空き部屋に寝かせてさほどたたずに、少年は意識を取り戻した。
水を飲んだ少年の顔色が少し良くなったのを見て、ヴァンスは問いかける。
「どうして森で倒れてたのか、話せるか?」
少年はコップをヴァンスに返すと、質問に答える前に頭を下げた。
「…助けていただいて、ありがとうございます。僕は、エドガーと言います。…あの、ティア……じゃなくて、僕と一緒にいた子は……」
「エドガーか。───君と一緒にいた少女は、隣の部屋で休ませてるから、安心してくれていい」
言い終わると同時に、部屋のドアが開いた。入ってきたのはアルバートとジュリアだ。二人には、少女の様子をみてもらっていたのだ。
少女のほうも無事目覚めてくれたとのことで、ヴァンスはエドガーをちらりと見ると、
「せっかくだから、二人そろったところで話をしよう。…歩けそうか?」
エドガーは頷くと、ふらつきながらも立ち上がった。
隣室に入ると、起き上がっていた少女が声を上げた。
「エディ!」
なるほど、エドガーはエディと呼ばれているのか。
ヴァンスも少女にならってエディと呼ぼうかとも思ったが、二人だけの呼び名なのかもしれないと考えを改めた。
エドガーをベッドに座らせ、自分達も椅子に座ると、ヴァンスはまず自己紹介をした。
「俺はヴァンス。隣にいるのがアルバートで、こっちは妹のジュリアだよ。そんで……」
最後にステラの方を向き、一拍置いてから言った。
「彼女がステラ。───今代の、巫だ」
エドガーも少女も、驚愕に目を見開く。それを見て、ヴァンスはかすかに息をつめた。
間違いない───銀髪の少女の瞳の色は、深い青だった。
「本当、だったんだ」
ぽつりと、エドガーが呟いた。少年の目には、年不相応に複雑な感情が渦巻いている。中でも色濃いのは───安堵、だろうか。
ヴァンスは、今までのことを二人に話してきかせた。自慢することでもないが、二人には───特に、銀髪に青い目を持つ少女には必要なことかもしれないと思ったからだ。
エドガーは、アルバートが騎士だというくだりで体を強張らせたが、話を聞くうちに力は抜けていった。
「……という感じだから、二人が俺達を警戒する必要はないよ」
話し終えると、二人は明らかにほっとした顔をした。
エドガーと少女が顔を見合わせ、安堵の吐息を零すのを見て、ヴァンスは昔の自分達を思い出した。
「───僕とティア……バレンティアは、ここよりずっと北のほうから来たんです」
エドガーはバレンティアという名前らしき少女とともに、ゆっくりとここに至るまでの経緯を語り始めた。
短編を投稿しました。ここ数日更新がなかったのはそのせいです。
タイトルは『———聴かせて、君の音を。』です。
ピアノをテーマにした物語なので、お時間のある際にでもよろしくお願い致します<(_ _)>
ありがとうございました(*^-^*)