7.哀歌 ~幕間~
ジュリア視点。今回はただのほのぼの回です。
ステラに休憩を。
その夜、夕飯の片付けを終え、シャワーを浴びたジュリアは自室に行かず、屋上に置いてある木のベンチに腰掛け、壁に背をあずけて涼んでいた。
春をだいぶ過ぎ夏がやってこようとしているが、今日は風が強いのもあって気温が低い。風邪を引く前に戻らないとと思いつつ、星空に見入ってしまってなかなか動けなかった。
周囲に家がないのもあって、施設の屋上は星見には絶好の場所だ。今度皆で星見会でも開いたら楽しくなるだろう。
「ふぁ……」
アルバートが待っているだろうなぁと考えているうちに、ジュリアはいつの間にか眠っていた。
***
「……リア、ジュリア」
肩を揺すられ、ジュリアは瞼を持ち上げた。
ぼやけた視界に入ったのは、紫の瞳。───至近距離でアルバートに見つめられていたのだ。一気に意識が覚醒し、ジュリアはきょろきょろと周囲を見回した。
屋上、それは変わっていない。が、体は毛布にくるまれているし、背中には腕が回されている。
「戻ってこないから、あちこち探し回ったんだ」
「う……ごめん。ちょっとだけ涼もうと思ったら、寝ちゃってた」
湯上がりで温まった体は冷えていて、ジュリアは毛布を引き寄せた。
その様子に気付いたアルバートが、毛布ごとジュリアを抱き上げてしまう。
昼間のステラと同じようにお姫様抱っこされる形になって、恥ずかしくもあるが嬉しい。
少しだけ、彼に甘えてみることにして、ジュリアはアルバートの胸板に頬を押し付けた。互いの体が密着し、アルバートは驚いたように肩を跳ねさせたが、すぐに力を抜く。
「あったかい……」
じんわりと伝わる熱が心地良くて、ジュリアは唇を綻ばせる。ちらりと斜め上を向くと、アルバートの頬が星明かりの下でも分かるくらいに赤くなっていた。
強くて頼りになる彼と、こうして照れている姿のギャップが凄い。
何というか、時折見せる弱さがこう、母性本能を刺激するのだ。
もう少しからかってみることにして、ジュリアは夜空を見上げ、言った。
「───月、綺麗だね」
生憎満月ではなく三日月だが、そこはどうでもいい。反応を見ようとちらりと横顔を窺うと、
「───ジュリアと見ているからだな」
淡い微笑とともにそう返されて、頬が熱くなるのを感じた。じと目で見つめるも、アルバートからは楽しげな視線を向けられるのみ。
自身の敗北を悟り、ジュリアは唇をとがらせた。
せめてもの仕返しとして、毛布から手を出すとアルバートの首に腕をまわした。これで、さらに触れあう面積が増えた。
誰も見ていないのを良いことに、ジュリアは他の誰にも見せない甘えた表情を見せる。アルバートは何も言わないまま、首を動かしてジュリアの唇に自分の唇を触れさせた。
───温もりを共有しながら、二人は長いこと夜空を見上げていた。