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3.事実と挑戦



───朝食後、ヴァンス達は話し合いの場所を変えた。恒例のヴァンスの部屋での座談会だ。


結局質問に答えてもらえなかったサラはレティシアに引っ付いてふくれていた。ヴァンスは「十年後、誰かから教えてもらってくれ」と言ってはみたものの、どこまで納得を引き出せたか怪しい。


ともあれ、シエルとサラのじと目から逃げるように部屋に引っ込んだヴァンスとステラ、アルバートとジュリアは可能性について考えていた。


「巫達にそういう概念がないなら、誰がそんなこと言い出したんだ?」


考えられるとすれば初代巫だが、なおのことわけが分からない。

だって、結婚を禁じるなど自分で自分の自由を奪うことと同義だ。初代巫の人間性など分かり合えそうにないが、それでも道理に合わない。


「あとは…穢れることによって力を消失してしまう等の可能性だ。だが…事の真偽は確かめようがないな。もしこの想像があっていた場合、あまりにも致命的すぎる」


ヴァンスの脳裏に、ロイドの姿が蘇る。ステラの力も生まれつきだ。力を失うなどしたら、彼女は普通の生活を送ることすら不可能になるだろう。

誰か、力について詳しい人間はいないものか───、


「あ」


「何か分かったの?」


顔を上げたヴァンスに、ステラが反応する。

アルバートやジュリアの顔を見渡してから、ヴァンスは言った。


「知ってそうな相手に、聞きに行ってみるか」



***



『───それで、我に聞きにきたと?』


ヴァンスの言う『知ってそうな相手』に選ばれた竜は、薄青の翼をばさりと羽ばたかせた。


「そういうことだ。…巫は結婚してはいけないなんて言われるようになったのは、ちゃんとした根拠があることなのか、それとも別の理由だったのか……知りたいんだ」


───久しぶりにベスティアの森にやってきたヴァンスは、感覚を頼りに竜を探し当てた。

何度か魔獣と遭遇することもあったが、かつてより鋭敏になった気がする五感と第六感により、不意打ちをくらうことなく退けた。

アルバート達もついて来ると言ったが、例の離脱症状によっていつになく不安定な彼だ、精神的な負担を考えて施設に残るように説き伏せた。

───ジュリアやステラにアルバートを任せて、ヴァンスはひとり竜と向かい合っている、というわけだ。


『穢れることによる力の消失はない。それは確実だ。我にも子はいるのでな』


「そりゃ良かった。……ん?でも、それは理由にならないんじゃないか?だって竜が産んだわけじゃないだろ?」


あくまでも穢れるというのは、女性が貞操を失うことであるはずだ。ならば、雄である目の前の竜に子供がいる、というのは根拠にならないはずで───、


『何を勘違いしておるのだ。我が産んだ(・・・・・)に決まっているであろう』


「……は?」


それは、つまり、こういうことか。

ヴァンスがこれまで同性だと思っていたこの竜は、実は雄ではなく───、


「雌だったのか──────⁉」


…魔獣の蔓延る森で思い切り叫んでしまうほどには、衝撃の事実であった。



***



衝撃の事実を含め、情報を持ち帰ってきたヴァンスに対する三人の反応はさまざまだった。


「え、ヴァンスはずっと雄だと思ってたの?」


ステラに驚いた目でみられ、ヴァンスはだってなあ、とジュリアを見る。


「私も何となく、ね」


まさかのジュリアも気付いていた件。ならばとアルバートのほうを向くと、幸いなことに彼はヴァンスと同じように雄だと思っていたらしく、瞠目していた。

気付けなかった男同士、拳をこつんとぶつけ合う。


「やっぱり、持つべきは仲間だ……‼」


ヴァンスの感慨は置いておいて、もうひとつの事実の話題に移る。


「大丈夫っていうことは分かったけど、むしろ謎が深まっちゃったね……」


ジュリアの言葉に吐息し、ヴァンスはぐしゃぐしゃと己の髪をかき混ぜた。


「過去に戻れれば苦労しないのになぁ……」


ヴァンスは椅子から立ち上がると、ベッドに倒れ込んだ。


「過去に、戻る……?」


天井を見上げるヴァンスの耳に、かすかな声が届く。

ステラは何やら思いついたように瞳を輝かせると、


「巫達に所縁のあるものに触れれば、映像として過去をみることができるかもしれない……!」


ヴァンスは一瞬名案かと思ったが、すぐに難しい顔になる。それはアルバート達も同様で、ステラは訝しげに眉をひそめた。


「…それだと、ステラの負担がとんでもないことになるだろ。ステラだけにそんな無理は……」


「───ヴァンス。私は、私のできることをやりたいの。…ヴァンスとちゃんと結婚して夫婦になりたいから」


ステラの言葉に、ヴァンスは息をつめた。

彼女の気持ちは分かる。分かるけれど、ステラが辛い思いをするのは嫌なのだ。

でも、知るためにはこの方法くらいしか思いつかなくて。


「…無理は、するなよ?」


ステラが頷くのを確かめて、ヴァンスは嘆息した。

あとは、巫たちに関係のあるものをどう見つけるかだが───


「実はね、もう…手元にあるものなの」


「手元に……?」


驚くヴァンス達の前で、ステラはワンピースのポケットから白い布の包みを取り出した。

布をめくり、中から現れたのは赤い宝石が豪華にあしらわれたペンダントだ。

───引き継ぎ式の際、シエルの手によってステラの首にかけられたペンダント。


「───その宝石は、初代巫の代から継がれてきたと言われるものだ。確かにそれなら、過去を視ることができるかもしれない」


アルバートの説明によって、ヴァンスやジュリアも納得する。


「───やってみるね」


三人の視線をあびながら、ステラは宝石に触れ───


目を閉じたステラの顔が、下から照らされる。

銀色の光の粒子がちらちらと宙を舞い、幻想的な雰囲気を醸しだしていた。


ヴァンスは何もできない自分に歯噛みしながら、少しでも助けになればとステラの右手にそっと触れた。

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