1.誓い
※11月15日に推敲しました。
──ここ、ローランド国では、銀髪青瞳の者は《穢れた者》と呼ばれ、災いの象徴とされている。
一種の差別とでも言うべきならわしだが、真に忌むべきはその事実ではない。
この国は、二十歳を過ぎた《穢れた者》達の身に世の穢れを宿らせるなどという儀式を行い、最終的には海に沈めるのだ。これを闇と呼ばずしてなんと呼ぼう。
――一番の問題は国民が不信感を抱くどころか、それを信じ切っていることだろうが。
ともかく、見つかり次第騎士団に連れて行かれてしまうので、彼らはひっそりと身を隠して暮らしている。
俺──ヴァンスの幼馴染み、ステラもそのひとりだ。両親は茶髪なのに、ステラは色が違った。
遠い先祖に《穢れた者》の特徴をもつ者がいたのかもしれないが、今となっては分からない。
そんなステラの事情を理解していても、ヴァンスは彼女を避けるようなことはせず、よく一緒に遊んでいた。ひそかに淡い想いさえ抱いていたほどだ。
当時のヴァンスは自分とステラ、それから妹であるジュリアの三人で過ごす日々がいつまでも続くと、信じて疑っていなかった。
──だが。
あれは、ステラが十二歳、ヴァンスが十三歳のときだ。
「やめろ…離せ!離せよぉ――!」
ステラは見つかってしまった。
強い風がふき、深く被っていたフードが外れたときに、たまたま通りがかった騎士達に見られていたのだ。
ヴァンスは必死で抵抗したが、子供の力で大人の、それも鍛えている騎士に敵うはずもなく、押さえ込まれて身動きもできないまま、連れて行かれそうになっているステラを見ていることしかできなかった。
何もできない自分が歯痒くて、悔しくて、どうしようもなかったから――ヴァンスはせめてこれだけはと、騎士団の本部とも言える建物に入っていくステラに届くように声を上げた。
「ステラ…待ってろ!」
だいぶ離れていたが、声が届いたのは振り返った彼女を見れば明らかだ。
ステラの美しい碧眼が、ヴァンスを見た。――彼女は気丈に唇を引き結んでいたが、堪え切れない不安に瞳が揺れているのが分かる。
不安を、恐怖を少しでも取り払ってやりたくて、ヴァンスは叫んだ。
「いつか、君を助けにくる!俺が──必ず!」
ステラは驚いたように目を見開き、それから微かに微笑んでみせた。その表情を最後に、彼女は完全に見えなくなる。
押さえていた黒髪の騎士がいなくなり、ヴァンスは砂を払って立ち上がった。
《穢れた者》のステラが連れて行かれるのに抵抗したヴァンスに民衆の忌まわしいものを見るような視線が突き刺さるが、別にどうもしない。人々も見ているだけで、近付いてこようとはしなかった。
──強く、強くならなければならない。
ステラに誓ったのだ。助けにくると、待っていろと。絶望なんか、している暇はない。
もう一度、今度はずっと一緒にいるために。
――強い決意を緑色の瞳に宿し、ステラへの誓いを抱いて、ヴァンス・シュテルンは歩き出した。