プロローグ①
俺の名前はヨシ34歳。売れないミュージシャンをしていた。
なぜ過去形かって?
そう。俺が最低のクズ野郎だからだ。
ミュージシャンなんて言ってもCDも売れない俺には全く収入源がない。
実家からは追い出され、とりあえず彼女の家に転がり込んでヒモニートをしていた。
だが俺は俺の夢を信じてくれた彼女の思いを無視して昼間はゲーム、夜はクラブやライブハウスで酒漬けの毎日。
後は想像に難くない。
愛想を尽かした彼女に追い出されたってわけだ。
しかも頭に血の上った彼女はあろう事か俺のギターをバッキバキに.....
「はぁ.....これからどうしようかなぁ」
◇
「しらっしゃい。ってお前かよ」
「お前かよってなんだよー。」
「どうせまた彼女に怒られて家出でもしてきたんだろ?」
「.....いや」
「ん?なんかあったのか?」
コイツは昔一緒にバンドを組んでいた時のメンバーで小学校からの悪友の圭。
バンドが解散した後は俺達がよくLIVEで使っていたライブハウスの近くにBARをオープンさせたしっかりとした大人だ。
彼女に追い出された俺は逃げ込むように圭のBARに来てあった事を話した。
「なるほど。とうとう愛想尽かされたわけか。」
「ああ。」
「で、どうすんだよ?」
「どうするって言われても.....」
「金もなし。家もなし。おまけにギターも失くしたってんなら、諦めて普通の社会人になるしかねぇだろ」
「でも、俺には音楽が.....」
「なに言ってんだよ。お前、もうほとんど諦めながら音楽してただろ?ちょうど良かったじゃねぇか。」
図星だった。
音楽を始めた頃はただ楽しくて楽しくて、自分には無限の可能性があると思っていた。
でも何枚か出したCDは全然売れず、LIVEをしても俺の出番を見に来る客なんてほとんどいない。
ここ数年は音楽以外なにも出来ない自分の言い訳に音楽を使っていた。
「なぁ、ヨシ。お前がホントに普通の生活を目指すって言うなら俺は協力するつもりだ。家が見つかるまで俺のとこに来ればいいし、彼女との仲介にもなってやる。」
「圭.....」
「ただお前がもう一度音楽をやりたいってんなら、このギター持って出ていきな。音楽を選ぶ以上甘やかす気はねー。」
「お前.....このギター!」
そう言って圭が渡してきたのは圭が亡くなった親父さんから唯一受け継いだ1本のギターだった。
「バカ。やるわけじゃねーぞ!それでストリートに立って金貯めてギター買ってこいって言ってんだよ。それはちゃんと返せよ!」
「圭.....ありがとう!おれちゃんと音楽と向き合うわ」
「分かったらささっと行ってこい。金も使わねー奴が席に座ってんじゃねーよ。仕事の邪魔だ!」
「お、おう。悪かったな!行ってくるわ!」
圭から借りたギターを手に俺は店を飛び出した。
これでまた音楽が出来る!
さっきまでの暗い空が嘘のように今の俺の上には音楽を始めたあの日と同じキラキラした夜空が広がっていた。
人生初の小説です。
暇つぶし感覚で見て頂けると幸いです。