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城から戻ってきてから2日が過ぎ、勇者召喚の日が近付く。
「……輩、先輩!聞いてますか?」
「わっ、アンナ!大声出してどうしたの?」
「どうしたのって何度呼んでも返事しないからです。何かあったんですか?」
「えっ!?な、何も、な、ないよ!」
明らかに動揺して目が泳ぐ。
「不自然なくらい目が泳いでますけど。何があったのかは分かりませんが、しっかりしてくださいよ。」
「う、うん。ごめんね。気を付けるよ。」
アンナが離れていくと溜め息を吐いて窓の外を見ていた。
「副長、先輩の様子がおかしいんですけど、何かあったんですか?」
「さぁ、俺にも分からん。隊長が城まで用事を頼んだんだが、帰って来たらあんな感じだ。」
「そうですか、先輩があんな様子だとこっちの調子が狂います。見てくださいよ。見た目ぼーっとしてるように見えて手元の書類を片付けてるんですよ?普段なら、怒られないとやらないのに。」
「アンナ、オットーの事を良く見てるな。俺は気づかなかったぞ?でも、書類に間違いとか多いんじゃないか?」
アンナは首を振り、オットーが処理した書類をデイーチに見せる。
「よーく見てください。どこも間違ってないんですよ!あの先輩が間違えずに仕事をしてるんですよ!これは絶対おかしいですよ!」
「う~ん、オットーが間違えずに自ら進んで、やるのは良い事なんだが、確かに不気味だな。」
普段、仕事をちゃんとやらないオットーがやった仕事が間違えずに出来ている事に二人は困惑する。
「アンナ、オットーと見廻り行ってこい。」
「普段の先輩じゃないみたいで、余計に気持ち悪いから嫌ですよ!私以外にも人はいるじゃないですか!何で私が!」
「俺はアンナに言われるまで、この異常に気付かなかった。ここにアンナ以上にオットーの事を見てる奴は居ないからな。」
「な、な、何言ってりゅんですか!そ、そんにゃにみ、見てなゃいです!」
顔真っ赤に染めたアンナは噛みながら否定をする。
慌てた様子を見て周りの隊員からクスクスっと笑い声が聞こえて、笑った隊員を睨むアンナ。
「そんな訳だ。頼んだぞ?これは副長命令だからな。」
アンナの肩を叩いて命令を伝えるとディーチはこの場を足早に去っていく。後でアンナが叫んでいたが、後はアンナが何とかしてくれるだろうと思い、隊長の元に報告書を持って行った。
「もう、後で覚えてなさいよ!ほら、先輩。見廻りに行きますよ!」
「えっ、アンナ。何?ぐぇ!ちょ、ま、待ってアンナ。く、首が………」
オットーの襟を掴み引きずりながら、詰所を出て行く。その様子を聞いたディーチは顔色を悪くして、その日は早退するのであった。
詰所から引きずって街まで来ると、人々の視線がオットーに向く。
「衛兵さん、衛兵さん。」
「はい、何かありましたか?」
「何かありましか?じゃなくて、その引きずってる人の……顔が真っ青なんだけど。」
街の人に言われてオットーを見ると顔が真っ青になって襟元を引っ張っていた。
「きゃ、ごめんなさい!先輩!」
襟を離すと、オットーは大きくいきを吸って咳き込んでいた。
「あ〰️、死ぬかと思った!」
「本当にごめんなさい!」
頭を深く下げて謝罪をするアンナを見て思わず笑ってしまう。
笑っているオットーを恨めしく見上げるアンナは、オットーが笑っている事で、どこかホッとする。
「アンナ、別に気にしなくてもいいよ。綺麗な花が咲き誇っている川を見れたから。」
「えっ!?それってもしかして、三途の川だったんじゃ?」
「そういえば、川の向こうで父上がまだこっちに来るなって言ってたっけ。」
「いや、先輩のお父様は生きてますよね?」
「あれ?そうだったっけ?まぁ、細かい事は気にしない、気にしない。」
冗談を混ぜながら喋るオットーをアンナが怒ると何時ものように、ごめんね、アンナ。と行って何時もの態度に戻る。それを見て、どこかホッとする。
「全く、くだらない事行ってないで、見廻りをしますよ。」
「はは、そうだね。行こうか。」
二人は何時もの様に並んで見廻りをしていく。
アンナに怒られつつ、街を見廻るとアンナが助けた少女が声を掛けてくる。
「あの時はありがとうございました。」
「あの時の、いいのよ。気にしないで。」
「でも、お礼に何かさせてください。」
「では、お嬢さん。私と一緒に食事でもいかがですか?」
いつの間にか少女横に移動し、肩に手を回して食事に誘う。
「えっ、あの?」
困惑する少女はアンナに助けを請う視線を送る。
その視線に気付いたアンナはオットーを止める為に武力行使を行う。
「どうですか?ぐはぁ、な、何でアンナ?」
「困ってる人を助けるのが私の仕事ですから。行きますよ!貴女も気を付けてね。」
「アンナ、首、また首がしまっ………」
詰所を出た時と同じ様にオットーを引っ張って見廻りに戻っていく。
後からは少女が「ありがとう。」と言う声が聞こえた。
そのままオットーを引っ張って見廻りを続け、詰所に帰る。
「アンナ。ちょっといいか?」
アンナを見て隊長のトロワが声を掛けてくる。
「何ですか?隊長。」
「アンナが引っ張っているのは?」
「先輩です。仕事中にナンパをしたので、引きずりながら見廻りをしてきた所です。」
「そ、そうか。アンナ、そろそろ離してやらないと、オットーがヤバイぞ?」
頭に血が昇っていたアンナはトロワの言葉を受けて見ると、先程よりもぐったりと動かないオットー。
「きゃ、せ、先輩。し、しっかりしてください!」
「ア、アンナ、俺はもう、駄目だ。最期にお別れのキスを。」
アンナに抱き抱えられたオットーはアンナにキスを頼んで、顔近付ける。
その際にオットーの手はアンナの尻を撫でていた。
触られたアンナの体が震えているのに気付いたトロワは直ぐにその場から離れていく。
「どこが!最期なんですか!この変態が‼️」
アンナの鉄拳が飛び、吹っ飛ばされたオットーはアンナを揶揄うのは命がけだと思い、そのまま気を失うのだった。
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