5
アンナに曲がってはイケナイ所まで曲げられたオットーはふらつきながら、自分の机に戻って来た。
「うぅ、腕が取れるかと思った。」
「お前が馬鹿な事を言うから悪いんだ。アンナが素直に謝っていたのに。」
涙目を腕を擦るオットーにディーチが話し掛ける。
「あ~、副長。逃げないで助けてくださいよ!大事な部下の腕が取れたら、どうするですか!」
「バカヤロ、そんな怖い事できるわけ無いだろ!俺はお前より自分が大事だ。」
「え~、副長がそんな事言っていいんですか!部下を大事にしましょうよ!」
「確かに部下は大事だが、オットーを助けようとは思わん!」
二人で揉めていると後から声が掛かる。
「副長、何が怖いんですか?」
冷えた声が聞こえて振り向くと、恐ろしく冷たい目で二人を見るアンナが居た。
「アンナ、副長が酷いんだよ!俺よりも自分が大事って言うんだ。酷いよね?こんな可愛い部下にそんな事を言うなんて。」
「先輩?「はい‼️」自分で可愛い部下って言うのは、どうかと思いますよ?頭は大丈夫ですか?もう一度奥でお話しましょうか?」
「大丈夫です‼️あっ!そう言えば、隊長に呼ばれてたんだった。じ、じゃあ、アンナゆっくり休んでね。」
言い残すとその場を離れていく。
「それで副長、何が怖いんですか?教えてもらえますよね?」
「いや、あ~と、そのなんだ。」
「副長も隊長に呼ばれてたでしょ?ほら、行きますよ!本当にごめんね、アンナ。」
戻って来たオットーに背中を押されて二人して離れていく。
「まったく、私の何処が怖いんですか!」
他の衛兵は皆、仕事に集中して顔を合わせない様にしている。
一方、アンナから離脱する事に成功した二人は隊長の部屋に逃げ込んでいた。
「どうした、何かあったのか?」
「隊長、少しでいいから匿って下さい!」
「はぁ?意味が解らんのだが?」
「実はですね。………」
ディーチが今の状況になるまでの過程を説明する。
「ぶっははは、それでお前達はアンナから逃げてきたのか。」
「笑い事じゃないですよ!副長もアンナにビビってるし、感謝してくださいよ?俺が助けなかったら…………」
途中で言葉を止められ、ディーチの恐怖心が煽られる。
「助けなかったら………なんだ?俺は何をされるんだ?」
「副長すいません、俺の口からとても言えないです。」
「おい、言えよ!気になるだろうが!」
状況を見かねてトロワが話し掛ける。
「はぁ、それぐらいにしとけよ?オットー、ここに来たついでだ、この書類を王城に居るドゥーエ殿に渡してきてくれ。」
「え~、俺ですか?俺よりも副長の方が良いと思いますけど?」
「俺とディーチは此から会議で手を外せないんだよ。それにお前はドゥーエ殿に気に入られていただろ?」
「あのじいさんですか?あの頭を見てるとイライラするんですけど?」
「いいから、さっさと行かんか!」
中々行くと言わないオットーに痺れを切らして、ディーチが怒鳴る。
「ひっ!わ、分かりましたよ。行けばいいんでしょ。行けば!」
「おう、頼んだぞ。ドゥーエ殿によろしく言っといてくれ。」
書類を持ち、部屋を出て王城を目指す。
「はぁ〰️、ドゥーエのじいさんと会うのヤだな~。そうだ!俺が直接渡さなくても、誰かに渡してもらえばいいんだ。うん、そうしよう。」
その様子をドアから覗いていたディーチ。
「隊長、宜しいんですか?あんな事言ってますが?」
「最初からオットーに持ってかせるつもりだっからな。ドゥーエ殿には話してあるから、大丈夫だ。」
「そうですか。それなら大丈夫ですね。」
オットーは城でドゥーエが待ち構えてる事を知るよしもなかった。
城の門に着き、兵士に用件を伝えて中に入れてもらう。
門を抜けると様々な花を咲かした花壇が来た者の目を楽しませる。花を楽しむ余裕が無いので、城へと歩き出す。
「本当に門から城まで長いよな。毎日通ってる人は大変だ。」
城までの道を眺めて呟いた言葉に反応し、返事をする人影。
「そうじゃろ?この歳になると辛くてのぅ。待っとったぞ?オットー。」
「げっ!じいさん。なんでここに居るんだよ?」
「トロワ殿に聞いていたのでな、迎えに来てやったのじゃ。」
「隊長が?あっ!騙された!偶々俺に頼んだじゃなくて、最初っから俺に行かせるつもりだったんだな!」
トロワの考えが分かって地団駄を踏み、悔しがる。
その様子を楽しそうに笑って、見ているドゥーエ。
「何笑ってるんだ!その残り少ない髪を引っこ抜くぞ!」
「や、止めんか!儂のトレードマークを引っこ抜くでない!」
「何がトレードマークだ。三本だけ残ってるだけだろ。俺が全部引っこ抜いてやる!」
騙された事もあり、苛立ったオットーはドゥーエの残り少ない髪を抜く為にじりじりと迫っていく。ドゥーエは抜かれて堪るものかと距離を取る。
端から見て怪しい二人に呆れて声を掛けてくる人が。
「お前達は何をやっているのだ?」
二人で振り向くと、ユーシリア王国の王太子であるウィリアムが此方を見ていた。
「こ、これは、殿下!見苦しいもの見せました!」
「見苦しいのは、じいさんの頭だろ?殿下、お久し振りでございます。」
「誰の頭が見苦しいか!はっ!す、すみませぬ、殿下。」
「ドゥーエ、別に気にするな。久し振りだな、オットー。学園を卒業して以来だから、五年か。」
ここユーシリア王国では、12歳になると3年間学園で様々な事を学ぶ事ができる。平民、貴族を問わず、皆に学ぶ機会を与えられている。
「はい、もう五年が経ちますね。それで殿下は何故、城の外に居るのですか?」
「ちょっと街中を散策しに行ったのだ。オットー、お前とは学生からの付き合いだし、あの頃と同じ様に話してくれて構わんぞ?」
「畏れ多くて、出来かねます。」
「王太子である俺が言ってるのだから、言う事を聞け。」
「はぁ、分かりましたよ。殿下。あの頃と同じ様に話させて貰いますよ。」
オットーの返事に満足し、訊ねる。
「それで良い。で、オットーは何をしていたのだ?」
「え~と、トロワ隊長に頼まれてドゥーエのじいさんに書類を持って来たんですよ。」
「そうか、その頼まれ事は終わったと見て良いのか?」
「はい、書類は受け取りましたので、用件は終わりですな。」
ウィリアムは考えて、ドゥーエにオットーを少し借りると言ってオットーの腕を引っ張って中庭の庭園に行く。
「ここまで引っ張って来て、何かありました?」
「オットーには言っておこうと思ってな。近々、勇者召喚を行う事になった。」
「はぁ〰️、そう言う事ですか。あの事は殿下には話してましたね。」
「それでな、勇者の教育係として、お前を推薦しておいたからな。やり易いだろ?頑張ってくれ。」
「俺を推薦しても無理なんじゃ?」
「父上にもお前の事は話してあるし、天啓でもお前が名指しされたという方向で進めてあるから、大丈夫だ。」
オットーはウィリアムの発言を聞いて頭を抱えて座り込んでしまう。
監視はしやすくなるが、衛兵の仕事はどうするかを考えると頭が痛くなって来る。勇者召喚まで後5日、なる様にしかならないと考えて気持ちを落ち着かせる。
「どんな勇者が来るのやら、面倒な事にならなければいいけど。」
1人空に向かって呟く。
面白いとら評価とブックマークをお願いします。