12
王宮に入り、ウィリアムが待つ部屋に案内していた。
その間、アンナからオットーに話し掛けない。焦ったオットーがアンナに話し掛けるが素っ気ない返事が返ってくるだけで益々焦る。
何かアンナの興味を引く話題はないか案内をしながら必死に考えていると、ウィリアムが待つ部屋に着いてしまった。
「あっ、ここだよ。ここでウィリアム殿下が待ってるから」
と言ってドアをノックしてアンナを連れてきた事を告げると入室の許可を貰い二人で部屋に入っていくと椅子に座っていたウィリアムが立ち上がる。
「急に配属を替えて悪かったな」
部屋に入ってオットーとアンナが喋る前にウィリアムから頭を下げて謝罪されて慌てる。
「いえ、ウィリアム殿下が頭を下げる必要はございません。どうかお止め下さい」
「そ、そうですよ。ほら、殿下が頭を下げるもんだから、アンナが引いてるじゃないですか」
「しかしな、此方の都合で急に配置を替えたのだから、いくら王族だからと謝罪しなくてもいいとはならんだろ」
「大丈夫です。王族の方に謝罪させてしまう事の方が恐れ多いです」
このままでは話が進まないのでこの話題を止めてアンナに勇者の世話役をしてもらう説明をしていく。
「勇者様が二人いて、その内のサエコ様の世話役をすればよろしいのですか?」
「そうだ、ケイゴ殿はオットーが担当するからサエコ殿はアンナに担当して貰いたいのだ」
「世話役とは一体どんな事をすればいいのでしょうか?」
「何、世話役と言っても身の回りの世話はメイドがやるからそこら辺は心配しなくてもいい、知らない世界に呼ばれて不安だろうから近くで接して貰いたいのだ、そしてサエコ殿が不安に思っている事が分かったら教えてほしい。その不安等を取り除く手助けをしたいと考えてる。どんな小さな事でもいい。」
話を聞いて身の回りの世話をしなくてもいいと言われてホッとするアンナ。
「分かりました。何かあればウィリアム殿下に報告すればいいのですね?」
「あぁ、そうしてくれると助かる。それとアンナには部屋を用意してあるので、そこに住んで世話を頼む」
「私の部屋を用意してあるのですか? 自分の家から通うのではなく?」
「サエコ殿の近くにいて貰いたいのでな。嫌か?」
「い、いえ。私が王宮の部屋に泊まるのが恐れ多くて驚いただけです」
「うん、うん。だよね、驚くよね。普通は泊まれないから、アンナの気持ちはよく分かるよ。でもね、ここで部屋に泊まると食費がタダだよ。ご飯も凄く美味しいんだよ」
頷きながら話し掛けて来たオットーを見て本当にそう思っているのか疑問が浮かぶ。
しかも、ウィリアムの前でする話し方ではないのでこの人の頭は大丈夫だろうかと不安になってくる。
「先輩、殿下の前ですよ。その喋り方を止めなさい。」
アンナに言われてキョトンとするオットー。
「気にするな。私とオットーは学友でな。二人でいる時はその話し方を許している」
ウィリアムが喋ると今度はアンナがキョトンとしてオットーを見る。
「そう言えばアンナには言ってなかったね。俺、殿下と仲がいいんだよ。凄いでしょ。他の人が居る時はちゃんとしてるから安心してよ」
胸を張って言ってくるオットーを見て頭が痛くなるアンナ。
オットーの何処を見れば安心出来ると言うのだろうか?と疑問に思うアンナだった。
「今日はこのまま泊まって貰う部屋に案内するから休んでくれ。明日、ケイゴ殿とサエコ殿に紹介するから、そのつもりでいてくれ」
「はい、分かりました」
勇者には明日紹介すると伝えて部屋を出て行くウィリアム。残されたアンナは緊張から解放されて少し落ち着く。
「やっぱり殿下の前だと緊張するよね~。アンナが泊まる部屋は俺が案内するからね」
「先輩緊張何かしてませんよね? 普段通りに見えたんですけど、寧ろ先輩の普段通りの態度のせいで要らぬ緊張を強いられましたよ」
「はっはは、ごめんね。でもね、殿下と俺とアンナの前では普段通りにしていればいいと言ってくれたから大丈夫だよ」
「はぁ~、そうですか。でも先輩、どうすれば先輩が殿下と仲良くなるんですか? 私はそっちが気になるんですけど」
オットーとウィリアムがどういった経緯で親密に馴れたのか不思議に感じて思い切って聞いてみた。
「う~ん、何でだろうね? 俺にも分からないや。何時の間にか仲良くしてもらってるんだよね」
自分でもよく分からないと言われてはどうしようもないのでさっさと部屋に案内してもらう事にする。
「ここがアンナが泊まる部屋だよ」
ドアを開けて中に入ると自分が住んでいる部屋よりも広くて落ち着いた雰囲気の部屋に驚くアンナを椅子に誘導して座らせる。
オットーはそのまま部屋に入り、淹れた紅茶を座らせたアンナに出す。
「ビックリするよね。こんな大きな部屋に泊まっていいなんて」
「そうですね。私がこの部屋に泊まっていいものなのか考えさせられますね。所で何時まで私の部屋に居るんですか?」
紅茶に口を付けてから、オットーに訊ねる。
「知らない場所でアンナだって寂しいでしょ? だからここは頼れる先輩の俺が一緒に「結構です」……」
言葉を遮りドアを指差して退室を促す。トボトボとドアに向かうオットー。時折、振り返ってアンナを見るが手を振って出て行く様にされると諦めて部屋から出るがドアを閉める際にアンナに一言告げる。
「そうそう。俺はアンナの隣の部屋に居るから、寂しかったら呼んでね」
「な、何で隣に先輩が泊まるんですか!」
部屋を出て行こうとするオットーを捕まえようとドアに向かうが閉められて逃げられる。直ぐ様ドアを開けるがオットーは見当たらなかった。
「もう、隣ってどっちの部屋なのよ!」
オットーがどちらに居るか分からずにイライラしたまま部屋に戻る。
「ふぅ、危ない危ない。アンナに捕まったら何をされるか分からないからな」
部屋に入って寛ごうとするとそこに勇者サエコがいた。
「あっ、すみません。間違えました」
アンナから逃げるのに慌てて入ったので部屋を間違えたオットー。
早く部屋を出ようとするオットーに声が掛けられる。
「別に気にしてないから、そんなに慌てて出て行かなくてもいいですよ。暇なんで話し相手になってください」
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