遭遇
「なるほど……」
ギルドで何があったかを説明すると流石のイディアも苦笑いだった。
街に到着して1日目から、絡まれて問題を起こすなんて思ってなかったのだろう。しかも俺が斬り裂いたテーブルの弁償で銀貨2枚も無駄に使ってしまったのだ。
「俺だって最初は我慢しようとしたんだぜ?」
「それで?結局我慢できずにテーブルごとゴルドって奴に斬りかかったのか?」
……
「まぁ、結果的にはそうなったけど…」
「わ、私も我慢しようとしたんだよ!?」
何を言ってんだアンリのやつ、最初にキレて斬りかかったのはアンリだろ!
「まぁ、いいか…2人とも怪我が無くて良かったよ。でも今度からは不用意に街で武器を抜くなよ。どんな問題に発展するかわかったもんじゃないからな」
「ああ、今度からは気をつけるよ」
「私も…ごめんなさい」
「おう」
「ところで…」とイディアが俺たちの反対側に座るジール達の方を見る。
イディアが合流した後、俺たちは騒動を止めてくれたジール達に礼をするため晩飯をご馳走する事にした。今は精霊の宿り木に移動して、一階のテーブルに腰をかけている。
「あんた達が止めてくれたんだってな。俺からも礼を言うよ。ありがとな」
「いやいや、本来なら騒動が大きくなる前に止められた。止めに入るのが遅れてすまなかったと思っているよ。ところであなたもシュン達のパーティ仲間なのか?」
ジールがイディアをまじまじと見ながら言う。
「自己紹介が遅れたな。俺はイディアだ。シュンのパーティメンバーの1人だ」
「俺はジール、そしてこの2人が…」
「私はミィって言います」
「オイラはガットだ」
「そうかよろしくな。ジールにミィにガット」
一通り挨拶を交わしたところでエルフの店員さんが料理を運んできてくれた。ちなみにジール達の分は追加料金を払う事で作ってもらっている。
運ばれてきたのはパンとサラダとスープ、メインには大皿に山盛りにされた唐揚げのような肉だった。
香ばしいいい香りが鼻をくすぐる。
街であんなに買い食いしたのにまた腹が減ってきた。
「話はその辺にして温かいうちにいただこうぜ。ジール達も遠慮せずに食ってくれ」
「ああ、それじゃあ遠慮なくいただこう」
とりあえず唐揚げから頂くか。前世の記憶がある分、食に関してはなかなか厳しくなっているからな。
唐揚げにかぶりつく。瞬間、口の中に鳥の肉の風味が広がり、肉汁が噛めば噛むほど溢れ出てくる。味付けもいい感じの塩加減で絶品だった。
パンもサラダもスープもどれも美味しく、あっという間に俺たちは食事を終えた。
「ふぅ、食った食った!ここの宿の料理は美味いな!」
ジール達にも満足してもらえたようで何よりだ。
食後の飲み物に紅茶をいただき、一息ついたところで俺はジールに話しかけた。
「ところでジール、あのゴルドって奴ら一体なんなんだ?」
またいつ絡んでくるかわからない以上、少しでも情報を集めとくか。
「あいつらは−C級冒険者パーティ【鬣犬の牙】だ。実力は全員がDランクで駆け出し冒険者が来るたびに絡む、困った連中だよ」
あんな奴らでも−C級冒険者パーティなのか。
「どうして奴らは駆け出しの俺らなんかに絡んできたんだ?」
「さぁな、詳しいことはわからないが、奴らのパーティはここ数年間−C級から上がらないらしい。それの腹いせで駆け出しの冒険者達に絡んでは問題を起こしまくっているようなんだ」
駆け出しだけに絡むねぇ…下から抜かされるのが怖くて若い芽を積むって感じなのだろう。
「そうか、今後も絡んでくることがあるかもだから気をつけなきゃな」
今回は怪我人は出なかったので良かったが、下手をすれば俺かアンリ、関係のない人まで怪我を負っていたかもしれない。
「ねぇ、どうしてあの人達はジール達を見て引いたのかな?あのままジール達を無視して攻撃してきてもおかしくなかった気がする」
アンリが言うことはもっともだな。あんな荒くれ者連中がジール達が来たからってわざわざ引くだろうか。
「それは私達がゴルド達より強いからよ」
ミィが紅茶をすすりながら言う。
「強い?戦ったことがあるのか?」
「ああ、俺らもシュン達と同じように絡まれたことがあってな。その時に連中をボコボコにしたんだよ。ガットが……」
「なっ!?そんな昔の話するなよジール!おいらだって仲間をバカにされたら怒るんだ!あれはしょうがなかったんだ!」
ドワーフのガット…巨漢でかなり強そうではあったが−C級冒険者パーティを一蹴する強さなのか…あんな優しそうな顔をしているのに…
これはあれだな、普段大人しい人が怒るとめちゃくちゃ怖い的なやつだ。
「すげぇな…あのゴルドっておっさんDランクの実力は確実にあったと思ったけどな」
「まぁ、俺らは全員がC級冒険者だからな。パーティとしてのランクもC級で止まってはいるが、あんな奴らなら1人でも余裕だ」
ジールが自慢げに言う、確かに全員がC級冒険者ならパーティでやっと−C級のゴルド達じゃ逆立ちしても勝てっこないな。
「まぁ、そんなこんなで俺たちにボコボコにされたゴルド達は絡んでこなくなったな」
「ほう…つまりお前さん達みたいに奴らをボコボコにすれば面倒な絡みはしてこないってことか」
「ダメだぞイディア、あいつらは俺がボッコボコにするんだ。お前がやったらすぐに終わっちまうだろ!?」
やれやれイディアの奴、人の獲物を横取りする狼の目になってたぞ。
「最初に絡まれたのは私よ!あいつらを許せないのはシュンだけじゃないんだから!」
アンリまでやる気満々である。しかし奴らを倒すには俺とアンリでは実力不足が否めない。良いところ接戦で勝てるって感じか。
それだとまた懲りずに絡んでくる可能性がある。
「頼むからギルドの中ではおっぱじめないでくれよ?あそこにはギルドマスターがいるからな。面倒なことになるぞ」
「ギルドマスター?」
「ギルドマスターはあのギルドの長、この街で最強の男だ」
「この街最強か。それは興味があるな。是非そのギルドマスターの話を聞かせてもらいたい」
最強の言葉に反応したのか、イディアが何やら悪い笑顔をしている。
「おう、いいぞ。ギルドマスターのことを話すなら、まず始めにこのアース国の組織図から話さなきゃいけないな」
俺とアンリはアース国の辺境出身だ。そう言った国の話を詳しくは知らないので少し興味が湧いてくる。
「この国の頂点に位置するのはもちろん王都に住むアース王だ。そしてそのアース王の下に着くのがアース王に認められた10人の強者、【十傑】だ。これがアース国最強戦力だと言っていいだろう。十傑の第1席から第5席まではアース王の近衛兵、【ロイヤルナイト】に所属し、残りの第6席から第10席まではアース国内にある冒険者ギルドがある街のギルドマスターに就任する。そこから俺たち冒険者にクエストが発行されるって感じだな」
この街で最強のギルドマスターは国内においても最強の一角というわけか。
「それで?この街にいるギルドマスターは第何席なんだ?」
「この街のギルドマスターは第7席で特A級冒険者のグランディと言う男だ」
第7席か、ギルドマスターの中でも上位の実力を持つのか。それにしても特A級なんて聞いたことがないぞ?
「特A級って何?私初めて聞いたんだけど」
俺が聞く前にアンリが聞いてくれた。
「特A級は人類未踏のS級ランクモンスターを討伐することができる可能性を待つ冒険者を指すんだ。十傑は全員が特A級に位置する」
人類未踏のS級、魔王やそれに並ぶ文字通りの怪物を倒す可能性がある者か…
「今の俺らじゃ想像できないスケールの話だな」
「まぁな、話を戻すがギルド内で大きな騒ぎを起こせばギルドマスターが出てくる。十分気をつけるんだな」
「忠告ありがとよ」
ここは素直にジールの忠告を聞くことにしよう。
「ずっと気になってたんだが、イディア、あんた人族じゃないだろう?何者なんだ?」
どうやらジール達はイディアが人族じゃないことを見抜いていたらしい。どう見ても人間にしか見えないけどな。
「俺が人族じゃないってよく気づいたな。俺は狼人、魔人だ」
「「「っ!?」」」
ジール達にかなりの衝撃を与えたようだ。3人ともものすごい顔になってる。
「ま、待って!イディアさんは確かに魔人だけど悪い人じゃないんだよ!?」
ギルドの受付では俺がフォローを入れようとしたが、今回はアンリが頑張ってフォローしようとしている。
どうせギルドの時と同じですぐに受け入れられるだろうに…
「聞いたことがある。王都付近の村で人間を救うために同種を裏切った魔人がいると…それがあんたなのか」
「そうだ。俺がその魔人だ。どうする?モンスターである以上、人族の敵であることは変わらないが…討伐でもするか?」
イディアの奴、なに煽ってんだ?
「いやいや、そんなことするかよ!それに俺らの敵はモンスターではなく俺らに敵対するモンスターだ。イディアさんアンタのことは信用するよ」
ほらな?ギルドの時と同じだ。何の問題もない。
それからしばらくジール達と話をして、キリがいいところでジール達は帰ることになった。
「それじゃあ、俺たちはもう行くよ。飯は凄い美味かった。ありがとな!」
「おう、俺らの方こそ本当にギルドでは助かったよ。3人ともまたな」
こうして冒険者の街フロルで新たな友人ができた。
ジール達が帰った後、3人で明日からの予定を話し合い、昼頃にクエストに出かけることに決まり今夜は解散になった。
アンリはとても眠そうに自室に戻っていく、何だかんだ今日は色々とあったからな疲れているのだろう。
俺とイディアも部屋に戻り、荷物を置いて再び精霊の宿り木を出た。
「イディアこんな時間からどこにいくんだ?」
「そういうお前こそ、どこにいくんだよ」
時間は22時を過ぎたぐらいだ。今から夜の街に出るのは何の不思議もない時間である。
「俺はまだ街の中を把握してないからな、軽い散歩だよ」
「ふーん、その格好で?俺はてっきりアンリちゃんにステータスで負けたのが悔しくて一人でレベル上げに行くのかと思ってたよ」
俺の格好はレザーアーマーを一式装備して、冒険用のポーチを腰に装着している。
イディアの言ってることは大体合っていた。そうこれから一人でレベル上げに行くのだ。しかしその理由はアンリだけではなく、イディアとも実力差が圧倒的にかけ離れているからだ。
「俺のことはいいから、イディアはどこに行くんだよ」
ここは無理矢理話を変えるしかない!
「俺は身なりを整えに行ってくるよ」
「身なり?アンリにおじさんって言われたのがそんなにショックだったのか?」
「う、うるせぇ!それもあるが装備が何もないんじゃ話にならねぇだろ」
イディアは街に来た時と格好が変わっていなかった。俺らと別行動の時に装備でも整えてるものだと思っていたが……こいつ何をやってたんだ?
「そもそもイディアに装備なんているのか?他の狼人は装備なんてつけてないだろ?」
「俺は獣化は使わないようにしていきたいんだ。本来なら自分の爪や牙が武器になるが、人型だとどうしても火力が足りない。爪や牙の代わりになる武器が必要ってことだ」
どうして獣化をしたくないのかはわからないが獣化しない方が俺らも接しやすいか。
「なるほどな、武器が必要な理由がわかったよ。ところでイディアはどのくらいで戻ってくる予定だ?」
「1時間ぐらいで戻ってくるよ」
「そうか、ほいっ!」
イディアに鍵を渡す。
「俺は1時間以上かかると思うから、先に部屋で寝てても構わないよ」
「そうかい」
「それじゃあ、俺はそろそろ行くよ」
俺はイディアと別れて門を目指して歩き出した。歩き出したところでイディアから「西門から出た森の中なら比較的一人でも戦えるモンスターがいるぞ」とアドバイスをもらったのでとりあえず西門を目指すとしよう。
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イディアと別れてから数分後西門が見えてきた。
「無理はしないようにしなくちゃな…」
ステータスが上がったとはいえ一人でモンスターを狩るのはそれだけでリスクが高まる。無理だと思ったならすぐに撤退した方がいいだろう。
西門を潜り街の外に出る。
外に出るとまだ肌寒い春の風が吹いていた。目の前には平原が広がっていて、その奥には森が見えた。
「春って言っても夜だと少し冷えるな」
まぁ、少し動けば暑くなるだろう。
とりあえずイディアのアドバイス通り夜の森へ向けて走り出す。
平原を抜け森の中に入ると一気に周りが暗くなる。ステータスの上昇により視覚の性能も上がっているので多少暗いぐらいなら問題ないように感じる。
森の中ではなるべく足音を出さないようにゆっくり慎重に獲物を探しながら歩く。
風が吹くたびに森の木々が揺れ、その間から月の光が漏れる。幻想的な風景だ。そんなことを考えていると先に1匹のモンスターを発見した。
見つけたモンスターは体長2モートルはある巨体で、両腕が異常に発達した二足歩行のゴリラのようなモンスター【アームズコング】だ。力は強いが、スピードが無い。Eランクモンスターだ。スペックではゴブリンリーダーに優っているが知性がない分、同じ区分なのだろう。
風景を楽しむのは終わりだ。呼吸を整えて、アームズコング目掛けて一気に走り出す。
猛スピードで接近する俺にアームズコングは気付くと両手を構えて、迎え撃つ準備をした。
アームズコングとの距離が残り5モートルまで接近、お互いあと少しで射程距離に入る。
残り3メートルの距離でアームズコングは右腕を振り上げ俺目掛けて殴りかかる。それと同時にスキルを発動!
「【ドライブ】」
アームズコングの巨碗を下からすり抜け、巨碗の付け根に狙いを定め剣を振る。
「はぁっ!」
斬撃は狙い通りアームズコングの右腕を付け根から切断した。大量の血しぶきを上げてアームズコングはうめき声をあげる。
「ウグゥゥ」
あまりのスムーズさに自分でも驚きである。思ってた以上にステータスが上昇しているようだ。
アームズコングは斬られた断面から大量に血を流しながらも俺から一瞬も目を離さず、闘志をあらわにしている。
「悪いな、お前程度じゃ俺には絶対に勝てねぇよ」
「グゴォォォォォ!」
雄叫びを上げながら今度は左腕を目一杯振り上げ俺の身体目掛けて横に薙ぎ払う。
モロに食らえばタダでは済まないであろう一撃を回避すべく地を蹴り宙を舞う。
空中でアームズコングの攻撃をやり過ごし、そのまま身体を回転させアームズコングの喉元目掛けてスキルを放つ。
「はぁぁっ!【スラスター】」
青色の光りを放ちながら拡張した剣先はそのままアームズコングの喉元へと吸い込まれていく。
青色の光を放っていた剣が元の純白に戻る頃にはアームズコングは静かに横たわり、もう動く気配は無かった。
剣を鞘に納めて次の獲物を探し出す。
それから数分…アームズコングを2体に、グランバードを3匹討伐した。
グランバードは−Eランクのモンスターで、飛行をするが高度は低く速度もないので【スラスター】で射程距離を拡張すれば問題なく討伐可能だった。
グランバードもアームズコングも討伐指定モンスターなので倒したらそのまま死体を放置していった。
ここで少しモンスターについて説明しよう。この世界で言うモンスターとは魔人や魔獣を指す。知性があり意思の疎通ができるのが魔人で、できないのが魔獣だ。
モンスターの発生には4つほど種類がある。
1つ目…魔力を持たない動物の死骸に大気中の魔素が集まることで身体を分解し、新たな生物に再構築する。これによって生まれたモンスターのほとんどは知性がない魔獣だ。
2つ目…大気中の魔素からの自然発生。肉体すら魔素で構築するのでかなりの濃度が高くないと生まれることはない。魔王が治る暗黒大陸は魔素の濃度が非常に高く強いモンスターが多く生息する。
3つ目…魔人や魔獣の繁殖によって生まれてくるモンスター。
4つ目…【迷宮】の発生と共に生み出されるモンスター。
こうして様々な条件でモンスターは発生、誕生する。厳密に言えばエルフ族やドワーフ族、獣人族も魔人に区分されるが長い年月をかけ人族と交友を持ちモンスターの区分からは外されている。故に魔人であるイディアも案外簡単に人族に受け入れられるのだ。
それからも狩りは順調に進んでいき…アームズコングとグランバードを数匹討伐した。
「狩りを始めてからもう1時間か、そろそろ潮時だな」
−ポチャン−
もう帰ろうかと思った時、どこからか水の音がした。
「水の音?どこかに池でもあるのか?」
どう考えても水を飲んでるモンスターがいるだけな気がするが…一応覗くだけ覗いてみるか。
音のした方角へ息を殺して進んでいく。草むらを掻き分けながら慎重に進んでいくと、森の木々によって遮られて見つけにくくなっている開けた場所に出た。
「え、………」
そこで目に映ったのは透き通った水が月の光を反射させ、どこか神秘的な雰囲気を漂わせる小さめの泉……ではなく、その泉の片隅に佇む一糸纏わぬ1人の女性だった。
「………」
その女性は美しい月の光すら霞ませるほどの黄金色の美しい髪を持ち、透き通るような白い肌、まさに完璧と言わざる得ない美貌を持つ女性の耳は尖っていて、一目でエルフだとわかった。
一糸纏わぬその姿には水滴が滴っていて、どこか妖艶さを醸し出している。
エルフは何かに気づいたようにゆっくりとこちらの方に顔を向ける。
「あ…、」
「え…?」
あまりの美しさに呆気にとられていた俺は隠れる暇もなく、こちらを向いたエルフと目が合った……
※キャラ紹介
天野春
物語の主人公、年は18歳の少年。黒髪で日本人ながらも顔の整ってる方だと自負している。正義感は人並みだが、困っている人は見捨てておけない性格。
天使マルクに導かれ魔王を倒すために異世界に転生した。戦闘の技術や人を助けるなどの精神は転生前の生い立ちに関係しているかも!?
得意武器…剣、素手
血液型…O型
好きな食べ物…唐揚げ
セールスポイント…意外と努力家?
アンリ フローラン
シュンと生まれた時からずっと一緒の女の子、真紅の髪の毛をポニーテールにしている。シュン曰く村一番の人気者!整った容姿をしていて、年はシュンと同じの18歳。シュンの事は姉弟のように思っている。対するシュンもアンリの事は兄妹のように思っている。元気で活発な女の子でシュン以上に正義感が強く、困っている人は見捨てておけない、いや、おかない!!
得意武器…剣、(魔法の才能もある)
血液型…O型
好きな食べ物…美味しい物!!




