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ラスト・レジェンダ 剣と魔法と異世界転生  作者: 漬け物
第一章 冒険者の街フロル
5/22

となり村での脅威

「ねぇシュン、後どれくらいで隣の村に着くの?」


 村を出発してから6時間、俺とアンリは山道をひたすら歩いていた。


「このペースで行けば…明日の昼には着くんじゃないか?」


 俺たちの目標の場所は隣の村ではなく、冒険者ギルドがある街フロルだ。


 フロルは俺たちが住んでいた村ライゼンから徒歩で7日ほどの距離にある。馬を使えば3日ほどで着くだろう。ライゼンからフロルの間には3つほど村があるので、旅としてはかなり安全が確保されている。


「明日の昼!?なんで村から馬借りなかったの?もう歩き疲れたよ〜」


 アンリが不満を漏らしている。


「しょうがないだろう、山道だと馬じゃ逆に遅くなる、隣の村に着いたら借りればいいだろ」


「とりあえず今は歩け、日が落ちるまでに山を越えないと夜にゴブリンと戦う羽目になるぞ」


 山を越えた先は平原が広がっており、野営(やえい)をするならゴブリンが徘徊する山ではなく、比較的夜間は大人しいモンスターが多い平原がいいのだ。


「そもそも俺よりステータスが高いのに疲れたってどういう事だよ」


「疲れるものは疲れるもん!」


「はぁ、じゃあ少し休憩するか」


「うん!」


 俺たちは山のくだりに少し入ったところで休憩を取ることにした。


 ここまで順調すぎるほどスムーズに進んでいたのだ。少しくらいは休憩してても問題ないだろう。


 そこで少しの違和感を感じた。


「なぁアンリ、おかしいと思わないか?」


「何が?」


「山に入ってからここまで見かけたモンスターは山猪(やまいのしし)だけだ。ゴブリンやここまで進むと山狼(さんろう)がいてもおかしくないんだが…」


「うーん、確かにモンスター見かけないね」


「嫌な予感がするな…休憩は終わりだ、早く山を越えよう」


「ええっ!ほとんど休憩できてないよ!」


「平原に出たらゆっくり休んでいいから、早く行くぞ!」


「うう〜…わかったよ!行けばいいんでしょ!行けば!」


 俺とアンリは再び山道を歩き出した。


 後は山を下るだけだったので4時間ほど歩いて俺たちは山を抜けて平原に出た。


「わぁ!風が気持ちいい!」


「確かにいい感じだな」


 平原地帯はかなり広くこれから3日間は平原を進むことになるだろう。


「あ!見て!モンスター!」


 アンリが大声で指差した先には、ライオンより一回り小ぶりで獰猛な牙と爪を持つ肉食モンスター、ライオが居た。


 どう見ても小ぶりなライオンなんだが、一応モンスターらしい、見た目とは裏腹にそこまで俊敏ではなく、動作が遅く比較的安全に狩れるFランクモンスターだ。


「山猪とかは見かけても狩らなかったけど、ライオはどうするの?」


 俺たちは山の中で山猪を多く見かけたが1匹も狩らずにここまできた。山猪は人的な被害が少なく、食料としても重宝されるので無駄に狩ることはしなかった。ゴブリンなどの人的被害が多く、食料にもならないモンスターは討伐指定モンスターに分類されるので見かけたらなるべく狩るようにしているのだ。


「ライオは討伐指定のモンスターだな、狩って行った方がいいだろう」


「じゃあ、私行ってくるね!」


 アンリが全力でライオ目掛けて駆けていく。


 俺が行きたかったが、剣が重すぎてまともに戦える気がしないので何も言わずにアンリに任せた。


 アンリの全力疾走はなかなかのスピードで、あっという間にライオまで辿り着いていた。


 ライオはアンリに気がつくと獰猛な爪でアンリに襲いかかった。


 アンリはそれを避けずに左手の盾で受け、流れ込むようにライオの懐に潜り込み、腹部から一閃。


 ライオは血を吹き出しながら倒れた。


 やるな!本当に盾使うの初めてなのか?見事に使いこなしていたように見えたが…


 アンリは剣に付着した血を振り落としながら、戻ってきた。


「どお?なかなか様になってたでしょ?」


「ああ、もしかして盾の使い方とか俺の見てないところでやってたりしてたのか?」


「ううん、今初めて使ったんだよ!凄いでしょ!」


 初めてであれか、全然俺よりアンリの方が戦いのセンスありそうだな。


「ああ、凄い凄い、約束通りそろそろ休憩にするか」


「うん!やっと、休憩できる〜」


 冒険用のポーチから携帯用食料と水を取り出してアンリに渡す。

 食料は山猪の干し肉、味はなかなか美味い。


 俺とアンリは腹を満たすと今後の話し合いを始めた。


「明日の朝には村に着くが、そこではレベリングストーンに触れてステータスを更新、その後は携帯用食料を調達して、馬を借りてすぐに出発だ」


「そんな数十分しかいられないの?もっとゆっくりして行こうよ!」


「だめだ、最初にも言ったけど目的の場所は冒険者の街フロルだ。今は金も無い、必要最低限のものだけでフロルまで行くことになる。時間がかかれば当然出費もかさむだろ」


「う〜、確かに今はお金がないけど、お風呂ぐらいは入りたい!」


「はぁ〜わかったよ。じゃ食料の確保ができたら風呂、その後に馬を借りて出発しよう」


 俺とアンリの全財産は銀貨10枚だ、銀貨1枚で大体1万円程の価値だろう。ちなみに銅貨は1枚100円、金貨は100万円だ。


 冒険者の主な収入はモンスター討伐である。

 その報酬を貰うにはギルドに行き、専用の窓口から貰う。


 ギルドにはギルド専用の、どのモンスターをどのくらい討伐したかがステータスからわかる魔法の道具があり、それによって報酬を貰うことができるらしい。


 ちなみに山猪や他の食料になるモンスターはちゃんとギルドまで運ばないと報酬を受け取ることができない。ゴブリンやライオなどは討伐するだけでお金がもらえる。後は特定のギルドが発行しているクエストをクリアすることで、まとまったお金が手に入る。


「もう大丈夫だろ、そろそろ出発しよう」


「うん!もう少しがんばる!」


 俺とアンリは平原を歩き出した。


 途中何度かライオを見つけては交代交代で討伐していった。

 俺は重い剣をスキルを使ってなんとか振り、ライオを討伐した。


 歩くこと数時間そろそろ日が落ち始めてきた。


「アンリ、今日はこのくらいにしておこうか、この辺で野営をしよう」


「もう?もう少しぐらい進めそうだよ?」


「いや、これ以上暗くなると野営の準備に時間がかかる。」


「そうなんだ、わかった!」


 俺はポーチから魔道具を2つ取り出した。


「それなに?」


「これは魔除けの火種って言う魔道具だよ。こっちは魔獣の報せ(モンスターアラーム)って言う、モンスターが近くに来た時に知らせてくれる魔道具だ」


「初めて見た!シュンはこういうのどこで覚えたの?」


「昨日の晩に親父に根掘り葉掘り聞いたんだよ」


 魔除けの火種はこの火種で火を焚くと、モンスター達に察知されず、モンスターが自ら避けるようになる。

 魔獣の報せ(モンスターアラーム)は半径100メートルにモンスターが近づいた時に人間しか聞こえない音を出して、冒険者に報せる魔道具だ。


 どちらも昨日の晩に親父から説明を受け、貰った物だ。


 俺はポーチから携帯用食料の黒パンを取り出してアンリに渡した。


「黒パンって私初めて食べるんだよね。美味しいの?」


「うーん、少し硬いのが難点だけど、味はそこそこいけるらしい」


「そうなんだ、いただきます!」


 腹を満たして俺たちは寝袋を用意して早々に横になった。一日中歩いてたので2人ともすぐに眠りについた。


――――――――――――――――――――


 その晩は何事もなく翌朝を迎えた。


「行くか」


 魔除けの火種は一度使うと無くなってしまうので、各村で必要な分を購入する。魔獣の報せ(モンスターアラーム)はほぼ無制限に使えるのでポーチに戻す。


 俺たちは平原を再び歩き出した。


 オオオオォォォンッ!!


 しばらく歩いていると遠くから雄叫びが聞こえて来た。


「何!?今の!?」


「今のは…なんだろうな、山狼(さんろう)の遠吠えとは違うし」


「向こうから聞こえたよね!?行ってみようよ!」


 アンリが興奮気味で言ってくる。


「落ち着けよ、ここまで順調に来れているんだ、ここで狼人(ウェアウルフ)にでも出会ったらひとたまりもないぞ?」


 狼人(ウェアウルフ)は二足歩行の狼人間で、とにかく動きが素早く、鋭い爪で冒険者の命を多く奪って来たCランクのモンスターだ。


モンスターの強さはFからSで表すことができる。

Fランクは武装さえしていれば比較的誰でも狩れるモンスターで山猪などが該当する。

Eランクはスキルを使用したり、訓練を受けていれば戦えるとされるモンスターだ。

Dランクは駆け出し冒険者のパーティなら勝てる可能性があるモンスターである。ちなみにどのランクも−Dなどの同じランクでも劣るモンスターがいる。

Cランクは職業(ジョブ)を獲得している冒険者パーティでしっかりとした連携が取れるなら戦えるモンスターだ。

Bランクは熟練の冒険者パーティや特殊なスキルを持っている冒険者が狩ることができるとされている。

Aランクは勇者や賢者、又は最上位の職業(ジョブ)を有しているパーティが討伐することができるとされている。

Sランク…未知の領域、人類未到達点

これが大まかなモンスターの危険度を表すランクだ。しかしどのランクも勝てる可能性の話なので例外など数多くあるのだ。CランクのモンスターがBランク冒険者を殺害するなど、この世界では珍しくない話だという。またDランクのモンスターが軍隊のような数で行動していればその脅威は−Aにも及ぶだろう。


狼人(ウェアウルフ)がこんな辺境に居るわけないでしょ?」


 確かにこんな辺境の地に居るとはとても思えない。本来、狼男(ウェアウルフ)は王都の西側の森に生息して居ると聞く。


「俺も少し興味はあるが、まずは村に着くことが優先だ、万が一のためにも早めにLvを上げたい」


「そうだよね!私もどれだけ強くなったのか気になるし!」


アンリを納得させ、俺たちは足を進める。



――――――――――――――――――――



 そこからも旅は順調でモンスターに出くわすことなく、隣村に到着した。


「着いた〜!やっと休める!」


「何言ってんだ、この村の滞在時間は風呂の時間も合わせて2時間ぐらいの予定だ。早くレベリングストーンに触れに行くぞ」


「えぇっ?たったの2時間だけ?せめて一泊して行こうよ!」


 アンリが駄々をこね始める。


「ダメだ、昨日も言ったが俺たちには宿で泊まるだけの金を持っていない、どうしても泊まりたいなら、馬を借りるための金を宿代に変えるしかないぞ?」


 アンリは諦めたように肩を落とした。


「はぁ、わかったよ…お風呂だけで我慢する!」


「わかればよろしい」


 話が終わりレベリングストーンに触れに行こうとしたところでふと村の様子が気になった。


今の時間帯なら村の人たちは起きて自分達の仕事を始めるだろう、しかし村の中で人の気配がとても少なく感じた。


「旅の人ですかな?」


 俺が村の様子を気にかけていると1人の老人が声をかけてきた。


「はい、隣村のライゼンから来ました」


「そうか、そうか、どこまで行くつもりなのじゃ?」


「とりあえずは冒険者の街フロルに向かっています」


「そうか!それは良かった。実は頼みたいことがあるのじゃがええかの?」


 なんだろうか?


「俺たちにできることならお聞きしますよ」


「フロルに着いたらギルドにクエストを発行してもらいたいのじゃ」


「クエストですか?」


 何となく嫌な予感がする…


「うむ、狼人(ウェアウルフ)討伐じゃ、最近村の周辺に住み着いて度々村に現れるのじゃ」


狼人(ウェアウルフ)?村の中までって…今までの被害は?」


「村の屈強な男達4人と、たまたまその時間に村の前で遊んでいた子供3人じゃ……男のうち1人は重症を置い村で寝たっきりじゃ、それ以外の被害者はみんな死んでしもうた…」


 老人は涙を浮かべて悔しそうに歯を食いしばっている。


「頼む、旅のお方よ。儂らにはどうすることもできないのじゃ、ギルドに申請をして腕利きの冒険者を連れて来てくれ!」


「……わかりました」


「村で必要な物があれば何でも言ってくれ、旅の武運を祈る」


 老人はそう言って村の中に戻って行った。


「やっぱりさっきの雄叫びは狼人(ウェアウルフ)か、行かなくて正解だったな」


 どうやらさっきの雄叫びは狼男(ウェアウルフ)だったらしい、ここまでの道のりでモンスターが少ないものおそらく狼人の影響だろう。

こんな辺境の村じゃ狼人(ウェアウルフ)に皆殺しにされるのは時間の問題だろうな。


「アンリ?」


 アンリがやけに静かだ。


「ねぇシュン?」


「どうした?」


「この村で狼人(ウェアウルフ)に対抗して後、何日持つと思う?」


 どうやら俺とアンリの考えていることは同じだったみたいだ。


「良くて1週間…早ければ明日にでも…」


「もし狼人(ウェアウルフ)を討伐できる人が居るとしたら、誰が居るかな?」


 アンリが何を言おうとしているかは大体予測ができていた。それでもあえて会話を続ける。


「一番安全に倒せるのは俺の親父ぐらいかな…後は可能性だけで言うなら…」


 倒せる可能性…それは極限られた可能性だ…それでも見て見ぬ振りはできないのだろう。


「俺たちしかいないだろう」


 旅を始めて最初の村で強敵とは…


「アンリ悪いけど、風呂はもう少し待ってもらうことになる」


「大丈夫だよ。それより早く何とかしなきゃ」


「まずはレベリングストーンだ、今のレベルじゃ一瞬で死ぬ」


「わかってる!」


 俺とアンリは村の広場にある。レベリングストーンの前まで来た。


「これを使わせてもらってもいいですか?」


 近くにいる管理人のような人に聞く。


「ええ…構いません」


 表情は当然明るくない、村全体がもう絶望に当てられている。


 俺とアンリはレベリングストーンに触れた。


 今までの経験が昇華されていく、身体に電撃が走るような感覚、力が身体の底から湧き出てくる。


 ステータスの更新はレベリングストーンに触れてすぐに終わる。


「アンリ、終わったか?」


「うん!ばっちりだよ!」


 俺とアンリはそれぞれ【ステータス】を表示した。


 アマノ シュン 【 】【Lv.1→14】

【体力】15→75

【力】14→75

【耐久】12→68

【敏捷】15→81

【魔力】5→42

【精神】13→67

【スキル】【片手剣Lv4】

【魔法】

【ユニークスキル】【英雄の資格】


  アンリ フローラン【 】【Lv.6→12】

【体力】40→69

【力】38→65

【耐久】30→60

【敏捷】42→71

【魔力】24→40

【精神】38→58

【スキル】【片手剣Lv3】

【魔法】


「え、シュンに2レベルも抜かされてるっ!?」


「まぁ、当然だな」


 ゴブリンリーダーの討伐や、夜な夜な1人で山の中のモンスターを狩りまくってたからな。


 しかし、劇的なLvの上がり方だが、狼人(ウェアウフル)の討伐ができるかと聞かれたらまず無理だろう。


 狼人(ウェアウルフ)はCクラスのモンスターだ。無職ならLv30なければ相手取るのも不可能だろう。安定した戦闘をするならC級冒険者パーティでもなければ無理だ。


 アンリが真剣な顔で俺に話しかけてくる。


「シュン、2人で力を合わせればなんとかならないかな?私、シュンとだったら勝てる気がするの!」


 アンリは勝つ気満々の様子だ。


 アンリに言われるまでもなく、俺もゴブリンリーダーとの戦いでLvだけが全てじゃないと知っている。可能性があるとすれば暗殺ぐらいだが…


「ああ、俺もだよ。俺がこの村の人に狼人(ウェアウルフ)の情報を聞いてくるから、それまでの間に今のステータスに慣れててくれ」


「うん!わかった!村の前で待ってるね!」


「おう」


普通に考えれば勝てない…しかし寝床や弱点などがわかれば暗殺なども可能だろう。


 俺はアンリと分かれてさっきの老人を探した。


 老人は村の入り口付近のベンチに腰をかけていた。


「あの、少しお話いいですか?」


「あなたは、先程の旅のお方、どうなされた?」


「すいません、先程の狼人(ウェアウルフ)の話をもう少し詳しく聞かせてもらってもよろしいですか?」


「詳しくですか?」


 老人はこれ以上何を話せば、という顔をしている。


狼人(ウェアウルフ)がどこに住み着いているのか、何故この辺境に居るのかとか、わかる範囲で構いません」


 老人は少し考えながら、ゆっくりと口を開いた。


狼人(ウェアウルフ)はここから南に2㎞進んだところにある。木こりが使っていたとされる古い家に住み着いて居るらしいのじゃ」


 2キロメートルか、思った以上に近いな…これは間違いなく5日以内には、ここの村の人は1人残らず殺される。


「何故この辺境に来たのかはわからんのぉ、すまんな」


「いえ、ありがとうございました、少しお願いごとがあるのですがよろしいですか?」


「儂にできることなら聞きましょう」


「その狼人(ウェアウルフ)は俺たちが討伐します。ですのでそのことを村の人達全員に伝えて欲しいのです」


 老人は目を見開いてとても驚いていた。


「旅のお方よ、悪い事は言わん、やめときなされ、この村屈指の男達4人が束になっても勝てなかった相手じゃ」


「大丈夫ですよ、俺たちの方が強いですから、でも万が一のことがあれば、隣村のライゼンにアマノと言う元凄腕冒険者のところに助けを求めてください。ギルドの救援よりは早く助けにするでしょうから」


 老人は俺のことをまじまじと吟味している。


「そのライゼンに居る、アマノと言う元冒険者を待つと言う選択肢はないのですかな?」


「その選択肢は最悪の場合です。この際なのではっきりと言わせてもらいます。この村は後5日と経たないうちに狼男(ウェアウルフ)によって皆殺しにされるでしょう」


 老人は特に驚いた様子がない、恐らくすでにわかっていたのだろう。


「お主達に本当にヤツを倒せるのか?」


「ええ、絶対とは言えません、しかし可能性はあります」


 老人は目をつぶり考えているようだ。数秒待つと老人は目を開け口を開いた。


「お主達に賭けてみてもええかの?」


「任せてください!」


 俺は迷わず言った。





 話を終え、村の前まで行くとアンリが剣を振るいながら待っていた。


「待たせたな、狼人(ウェアウルフ)はここから南に2キロメートル先の古い家に居るらしい」


「近いね、もう行くつもりなの?」


「ああ時間が惜しい、日が落ちてからだと戦いにくくなるからな、明るいうちに倒しに行く」


「その前に狼人(ウェアウルフ)に襲われて生き残った人の話も聞きたくない?」


そうだな、1人だけの情報じゃ限界があるだろうし、実際に戦った人なら何か知っているかもしれない。


「そうだな、実際に戦った人の話を聞ければさらに有利になるか…」


俺たちは生き残りの男に会うために村の中に入って行った。


「まずはどこにその人がいるかだな」


「うん!そうだね」


とりあえず村の広場にいるレベリングストーンの管理人に聞くことにした。


「あの?少しいいですか?」


「はい、何でしょう?」


「先日狼人に襲われて生き残った男の人に話を聞きたいんですけど、どこにいるか知ってますか?」


管理人はすぐに場所を教えてくれた。


「この村の奥にある一軒家で村で唯一回復魔法が使える女性の所で治療をしてもらっているよ」


「ありがとうございます」


管理人の言う通りに村の奥に進んでいくと一軒の家が見えてきた。


家の前まで行きドアを叩くと中から1人の女性が出てきた。


「どちら様でしょう?」


おそらくこの人が唯一回復魔法を使える人なのだろう。


「いきなり押しかけてすいません、俺たちはこの村を襲った狼人を討伐に来たのですが、情報が少なくて、奥で寝ている男性に少しお話を聞かせてもらいに来ました。」


「そうですか…わかりました。ついさっき意識を取り戻したので多少はお話ができると思います。ですが、無理はさせないでください」


「はい、ありがとうございます」


 俺たちは女性に連れられ、部屋の隅の部屋に案内された。中に入るとそこにはベッドが1つ置かれ、その上に包帯をぐるぐる巻きにされた男性が横たわって居た。


「それでは私は席を外しますので」


 女性が部屋を出るのと同時に寝たっきりになっている男性が話し出した。


「どなたですか?私に何か用でしょうか?」


「いきなりすいません、少しお話を聞かせてもらいたくて」


「話?あの狼人の話ですか?」


「はい!私達はその狼人を討伐しに来た冒険者です!」


「そうですか…わかりました。私が見たものお話ししましょう」


 男性はゆっくりと話し出した。


「あれは昨日の夕方ぐらいのことです。私が一仕事終えて家に向かっている途中に、村の入り口付近から悲鳴が聞こえて来ました。私はただ事ではないと思い、村の中で腕っ節がいい男達を連れて村の入り口まで行きました。そこに居たのは二足歩行の体長2メートルもあろう巨体を持つ黒い狼人でした。奴の足元には子供達が横たわっていて、今にも食い殺されそうな状況でした。そこからは一瞬です。私達が狼に飛びかかると、一瞬のうちに私を含めた4人の男達が一斉に奴の爪の餌食になりました。幸い私だけは致命傷を避けましたが、他の人達は……最後に覚えているのは騒ぎに駆けつけた。村の人たちの声と狼が子供達を抱えて走り去る姿でした」


 男性は瞳に涙を浮かべている。


「どうして…あれほど平和だったのに……」


「他に狼人に何か変わった特徴はありませんでしたか?」


「そうですね。あの狼人はかなり老いていましたね。それによってかなり弱体化していたと思います。本来ならモンスターは長く生きれば生きるほど強くなる物ですが、奴は通常の狼人より劣っていたと思います。本来の強さだったなら私が生きているわけがないのですから」


モンスターは長く生きれば生きるほど強くなるものだ。それはモンスター同士での争いで勝利し、さらなる力を獲得するからである。モンスターの強さのランクもこれでは大まかな目安でしかない。


 「お話ありがとうございました。その狼人は必ず、俺たちが討伐します!今はゆっくり休んでてください」


 そう言うと男性は安心したように頷くと、再び眠りについた。


「行こう」


俺たちは村を飛び出し、狼人が住み着いている場所を目指して走り出した。


―――――――――――――――――――――――


「さっきの話は何か役に立った?」


アンリが走りながら俺に聞いてくる。


「そうだな、通常の狼人より弱いことはわかったけど、俺たちからしたら大差ないかもな」


「そっか…大丈夫なのかな」


アンリの顔に不安の色が見れる。


「安心しろ、何かあってもアンリだけは俺が必ず守るよ」


アンリに、そして自分にそう言い聞かせ俺たちは走る速度をさらにあげた。


 ステータスが一気に上がったおかげで、全力疾走をしても全然疲れない。


 数分ほど走ったところで丘の上に立つ一軒の家が見えた。


「ここからは慎重に行こう」


走るのをやめ、周囲を警戒しながら進んでいく。


 なるべく音を立てないように家の前まで進んだ。


「ここからはどうするの?」


 アンリが聞いてくる。


「こうするんだよ」


 俺は漆黒の鞘から剣を取り出し、剣先に集中する。


【スラスター】


 剣先から青色の光が溢れ出し、剣身が拡張していく。


ステータスが上がったおかげで集中すれば、スラスターの拡張範囲を広げることができていた。


青色の光はどんどん勢いを増し、ついには長さ10メートルほどまで拡張した。


 そのまま拡張した剣に意識を集中させ、家を横薙ぎに一閃!!!


「えっ?」


 俺の作戦は家ごとぶった切り、一撃で相手を倒すことだ。


 家の中に居れば間違いなく身体は2つに分かれるだろう。


「そんなのあり?」


 アンリが若干引き気味に言ってくる。


「何でもありだろ」


 アンリが苦笑いをしているのが見えた。


「上手くいったのかな?」


「わからない、流石に家ごと両断してくるとは考えないだろう」


「とりあえず確認しなきゃ」


「ああ、」


 敵の有無を確認するため、家のドアに近づいた。


その時ドアが開いた。


「いや〜色々な奇襲を受けたことがあるが、まさか家ごと両断してくるとは…頭おかしいんじゃねぇか?」


 中から出て来たのは灰色の髪をして、鋭い目つきの中年男だった。


「えっ?人?」


 アンリが思わず、声を上げる。


「失礼なヤツだなぁ、俺は人間じゃねぇよ!狼人(ウェアウルフ)だ。知ってるか?」


 俺もアンリも声が出なかった。本人は狼人(ウェアウルフ)と言っているが、どう見ても人間だ。狼人と言うくらいだから人型から狼に化けるのだろうか。


「で?俺に何の用だい?見るからに駆け出しの冒険者って感じだが…」


 俺が何に一番驚いているかと言うと普通に会話が成り立つことだ。ゴブリンも一応できるが、アイツらは俺らのことを見かけたら迷わず襲ってくる。

 しかし、この自称狼人(ウェアウルフ)は普通に話し出し、襲ってくる気配が無いのだ。


「俺の名前はアマノシュン、お前は本当に狼人(ウェアウフル)なのか?」


「ちゃんと名乗ってから人に聞くのはいい心がけだ。俺は正真正銘の狼人(ウェアウルフ)だよ」


「ちゃんと会話が成り立つんだな」


 アンリは未だに放心状態だ。


「もちろんだ。その辺のゴブリン供と一緒にするなよ」


「一応聞くが…お前があの村の人達を食い殺した狼人(ウェアウフル)か?」


 狼人(ウェアウルフ)は答えず、少し考えていた。


「いや、村を襲った覚えはないな。人違い、もとい魔人(まじん)違いじゃないか?」


 村を襲ったのはこいつじゃない?…この狼人(ウェアウフル)を信用しているわけじゃないが、嘘を言っているようには見えない。


「そもそも俺は人間が好きなんだ。襲うわけなたいだろう?」


「モンスターが人間好き!?」


普通に考えればそんなことは無いと思うが…何故かこの男の言葉が嘘では無いと思えてしまう。


「ねぇ、シュン?私この狼人(ウェアウルフ)が村を襲ったとは思えないんだけど…」


「ああ、俺もだよ」


「話は終わりか?それじゃあ、俺は戻るぜ」


 狼人(ウェアウルフ)が家に戻ろうとしたところでアンリが声をかけた。


「あの!おじさんは何でこんなところに居るの?」


 狼人(ウェアウルフ)はピタッと動きを止めた。


「お嬢ちゃん…」


 狼男(ウェアウルフ)はアンリを真っ直ぐ見つめる。かなり緊迫した空気が流れる。


「俺はまだ24だ。おじさんではない!」


 食いつくところそこかよ!てか30後半はいっている風貌だろうが!


「まぁ、なんだ。立ち話もあれだし、お前らも家の中に入れ。茶ぐらいなら出してやる」


 先程からこちらの予想を上回る展開が多発していて、ついていけない。


 モンスターに家の中を勧められるなんて…


「俺らを罠にはめるつもりじゃないだろうな?」


 狼人(ウェアウルフ)は笑う。


「お前らを殺すつもりなら、最初に顔を見た時点でお前らの首は飛んでいるよ。安心しろ俺はこう見えてかなり優しい」


 俺は横目でアンリを見る、アンリも困ったようななんとも言えない表情を浮かべている。


 仕方ない、話も進まないしここは家の中に入ってみよう。


「じゃあお言葉に甘えて、お茶ぐらいはもらってやる」


「人の家をいきなり両断した奴のセリフではねぇな」


 俺たちは狼人(ウェアウルフ)に連れられ、家の中に入っていった。

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