赤と青
古戦場…
【オーガ】体長3mを越える人型の魔人、一般的な魔人に比べ言語能力は乏しく、その変わり独自の【スキル】を使いこなした知的な戦闘をする。
目を見張るべきは凄まじい凶暴性で、人間だけではなく魔獣や、同族にも容赦なく襲い掛かる獰猛な性格をしている。
「なるほどな、実際クエストで掲示されるくらいだし、珍しいモンスターなんだろ?」
「地域によっては【オーガ】の集落があって、年間多くの被害が出ているそうですよ。フロル近辺ではあまり見ないモンスターみたいですね」
俺とティアはギルドを出た後、東門から町を出て、森の奥地にある野営跡地を目指している。その途中【オーガ】の情報を整理していた。
「さっき説明していたオーガ独自のスキルってどんなものなんだ?」
「【鉄腕】己の腕部を鉄のような硬度し、斬撃への耐性を高める。別名では【剣士殺し】とも呼ばれているそうですよ。アマノさん大丈夫ですか?」
なるほどねぇ、斬撃が効きずらいモンスターか…確かに名前の通り剣士殺しだ。
情報もなしに戦えば初見殺しもいいところだぜ。
「何とかなるだろ、スキルで硬度が増すのは腕部だけみたいだし、ティアの魔法もあるしな」
「そうですね、今までの戦いを見る限りアマノさんはスピードで相手を翻弄するタイプの剣士ですし、パワーで正面から切り結ぶ重剣士ではないので、そこまで相性は悪くないと思いますよ」
「もしやばくなったら俺が時間稼ぐから特大の魔法頼むぜ」
「任せてください、アマノさんごと消し炭みです」
「……………」
「冗談ですよ?」
それから2人で森のモンスターを数体倒しながら、目的地まで辿り着いた。
「ここか…」
東の森野営地跡、木々が生い茂る森の中とは一風変わり、冒険者や兵士の物と思われる鎧や折れた剣、壊れた天幕や魔獣の死骸が散乱している。木々は生えておらず、広々とした空間だ。
「血の匂いがしますね…」
「ああ、でも肝心の【オーガ】が見当たらないぞ」
「どこか狩りに行っているのかも……」とその時、森の奥から2匹の赤と青の鬼が姿を現した。
―――――――――――――――――――――――
時は遡り、シュンとアンリが野営地跡に到着する30分前、ギルド内。
彼女はスーツを着こなしギルドの受付嬢として恥ずかしくない仕事を心がけるクールな女性だ。
冒険者にはそれなりに敬意を払い、彼らの無事を常に願っている。自分が受注処理を行ったクエストに行く冒険者ならなおさらだ。
「あの2人大丈夫かしら……」
「どうしたの?」
声をかけてきたのは元気で小柄な同僚だ。
「いやね、私が受注処理したクエスト行った冒険者2人が心配で…」
「また!?カリンは心配性だなぁ!」
彼女の名前はカリン、そして同僚の名前はサーラという。
「そもそも冒険者ランクが適正なんだから大丈夫よ!」
「そうだといいんだけれど…」
「ちなみにどのクエスト受けたの?」
「これよ」と依頼書をサーラに見せる。
瞬間、サーラの顔から血の気が引き、冷や汗を流し始めた。
「どうしたの!?」
「やっちゃった…」
「え!?何を?」
嫌な予感がする…
「そのクエスト難易度が上がってるの…依頼書を差し替えるように朝依頼者から受けたのに忘れちゃってた…」
「ええ!?それでも依頼書が古くてもギルドに登録してたら受注処理中に引っかかるはず…」
そうだ、本来なら私が受注なんてできるわけない。
「ごめん…ギルド登録の更新も忘れてたの…」
これは一大事だ!しかしそんなことよりも今は冒険者の命が最優先だ。
「新しい依頼書見せて!」
サーラから依頼書を受取り中を確認し、固まる。
・危険度C級
・色付きオーガ2頭の討伐
・討伐報酬金貨30枚
・東の森、野営跡地
※未だ調査中だが二頭とも推定危険度C級
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【色付き】モンスターが突然変異した姿、魔人や魔獣が同族を借り、経験値を経て進化したときに発生する。イディアも【色付き】ではないが同条件で【変異】したものだろう。
どういうことだ?
【オーガ】が2頭…しかも色がそれぞれ違う。体格も違うな。
赤色は腕部が発達しており、見るからにパワー系、青色は脚部が発達しておりスピード系か?
2匹は警戒しているのか未だ襲ってこない。
「ティアどう思う?依頼書と全然内容違くね?」
「色付き、それに2匹…危険度は低く見積もっても-C級でしょうね」
「色付きなんて初めて聞いたよ、これが終わったら教えてくれよ」
「いいですよ…生き残れたらですけど、きますよ!」
はっ!!上等ッ!
C級ダンジョンに挑むんだ。これくらいは倒せなくちゃな。
赤いオーガが大きい腕を振りかぶり巨腕が淡く光る。
あれが【鉄腕】か?
腕が振り下ろされる瞬間、ティアが叫ぶ。
「【鉄腕】じゃありません!退避!!」
腕が地面に叩きつけられると同時に大量の土埃が舞、戦いの火ぶたが切って落とされた。
オーガの初撃により土埃が舞い上がり、視界を奪われた。
そして轟音とともに赤いオーガが襲い掛かる。
くそッ!反応が一瞬遅れた。
赤いオーガの拳がもう眼前まで迫ってきている。
「【ドライブ】」
通常の退避では間に合わないので、スキルを使いオーガの拳を潜り抜け、腹部を切りつける。
「っ!?」
完璧なカウンターが腹部に決まり、致命傷にならずとも傷の一つはつけられるはずだった…
しかし、結果は傷一つ付けられなかった。そればかりか剣がはじかれ、体が硬直する。
「硬い!」
ティアが説明してくれた【鉄腕】は腕部のみだろ!?まさか進化して体全体にスキルを使っているのか?
「グルラァッ!!!」
考える間もなく赤い巨碗が俺の体を正面から打ち抜く。
ー--ッ!!
ダンプカーに跳ねられたかのような衝撃、過去一番の衝撃が体を襲い、数m先に吹っ飛ばされる。
「アマノさん!?」
ティアの心配する声が聞こえるが返事をする余裕はない。
赤いオーガは一切油断することなく、俺の息の根を確実に止めるために距離を詰め、再び腕を振り上げる。視界の端では青いオーガがティア目掛けて走っているのが映る。
ティアの援護に行かなくては…それより先に俺の命の心配をしたほうがいいか?
さっきの攻撃で分かったのは、不意を突かれなきゃ、スピードでは俺が勝る…しかし、もし、もう一度攻撃をまともに受けたら再起不能になるな。
赤いオーガの攻撃を後ろにバックステップし、躱す。
「【スラッシュ】」
後ろに距離を取り、斬撃を飛ばすがスキルを纏った腕に防がれる。
お前が硬いのは最初の一撃で分かったよ。ここからは一度も足を止めずにお前の弱点がわかるまで切り続ける!
【ドライブ】【ドライブ】【ドライブ】【スラスター】【ドライブ】
【スラッシュ】【スラッシュ】【ドライブ】【ドライブ】
比較的に消耗の軽い低レベルスキルを多用し赤いオーガの周りを円状に移動、絶えることなく剣撃を浴びせ続ける。
「グルラァァァァァァッ!!」
しびれを切らしたのか、オーガは両腕を振り上げる。
最初に使ったスキルか!
させねぇよ!
今度は逆に距離を詰め、剣を両手で構えスキルで迎え撃つ。
【片手剣スキルLv5】
「【グレイブ】!!」
【グレイブ】は己の力を増加させ放つ片手剣スキル唯一のパワー系スキルだ。
【魔力】を【力】に加算し、圧倒的な膂力で相手をねじ伏せる。
誰もパワー勝負出来ないとは言ってねぇよ!!
赤いオーガの両腕を、淡い黄色い光に纏った純白の剣が向かい打つ。
「うらぁぁぁぁ!!」
「グガガガガァァァッ!!」
あたりにすさまじい衝撃を放ちながら俺とオーガは双方ともに吹っ飛んだ。
「くッ、流石に押し切れなかったか…」
吹っ飛ばされたオーガは何事もなかったように起き上がり、俺を敵と認めたのか、空に咆哮した。
しかし、あれだけスキルを多用して斬り続けたのに傷一つないとは恐れ入るぜ。
ティアのほうを横目で確認すると青いオーガから何とか距離を置き、炎魔法を放っている。
青いオーガも赤いオーガ同様に傷一つついていなかった。
これは流石にやばいな…と弱気になっているとティアが俺の横まで退避してきた。
「アマノさん!!無事でしたか!すみません、援護する余裕がなくて…」
「俺のほうこそ済まない、一匹相手にするのがやっとだ…」
どうしたもんかね、斬撃は硬すぎて効かない、魔法も効果が薄いように見える。
「アマノさん気づいたことがあるのですが…」とティアの声を遮るようにオーガ二匹がそれぞれ俺とティアに飛び掛かる。
何とか攻撃を躱し、迎撃態勢に入る。
俺のほうは変わらず、赤色か…相当気に入られてるみたいだな。
いいぜ、こうなったら死ぬまで斬りまくってやる!とそこでティアの声が響いた。
「アマノさん!!青いほうを狙ってください!!」
青いほう…
俺はティアに言われるがまま青いオーガに疾走していく、俺が本気で走れば赤いオーガは追いつけない。
「【ドライブ】」
ティアを追い掛け回す無防備な背中に【ドライブ】を叩きこむ。
「チギャァァッ!!」
赤いオーガにはなかった確かな肉を切り裂く感触。
青いほうには斬撃耐性がない?
「【ファイヤボール】」
俺を追ってきた赤いオーガにティアが魔法を放つ。
「グルッッ!!」
赤いオーガに紅蓮の火球が炸裂した。
そして赤いオーガにも確かに魔法のダメージが確認できる。
「やっぱり、そういうことでしたか」
「どういうことだ?なんでこいつらの耐性がわかったんだ?」
「二匹の動きが明らかにおかしかったですから、青いほうはアマノさんの剣を見るなり一目散に私のほうに狙いをつけてきましたから」
なるほどな、これでやっと対等な戦いができるわけだ。
「アマノさん油断しないでくださいね、青いほうも【鉄腕】は使えるはずです」
「おーけー、赤い方はスピードはないが圧倒的なタフネスとパワーがある、俺が青いのを瞬殺するからティアは時間を稼いでおいてくれ」
「わかりました、もしもの時はアマノさんごとここら一帯を更地にしますね」
「………」
「冗談ですよ?」
ダメージのノックバックから回復した二匹が先ほどよりも明確な殺気を放っている。
さて、第二ラウンドといこうか!!
一話あたりのボリュームを模索しながら書いてます。
※物語のヒロインはまだ決まっておりません。