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ラスト・レジェンダ 剣と魔法と異世界転生  作者: 漬け物
第一章 冒険者の街フロル
11/22

クエスト

シュンの性格が最初に比べて明るくなっているって!?

それは男子高校生が友達と一緒にいたら普段よりテンション上がってる的な感じです。


 早朝、俺たち4人はクエストに行く準備を整えて、宿屋一階で朝食を食べていた。


 昨日は街に着いて1日目だと言うのに色々なことがあった。冒険者登録をして宿屋を探し、装備を整えて、ギルドで変な連中に絡まれ、新たな友人達が出来、夜の森で綺麗なエルフに遭遇したと思えばモンスターに襲われるし、結局そのエルフを仲間にしたりと凄まじい1日だったな。


 ティアを仲間に引き入れた後は宿屋のお姉さんに頼んでアンリと相部屋にしてもらい、次の日の予定を改めて決め、その日は消灯となった。


 朝食を食べながら昨日の事を思い返す、我ながらせわしない1日だったと思う。

 ちなみに今日の朝食は焼きたてのパンにトマトスープ、スクランブルエッグのような食べ物だ。味は言うまでもなく絶品である。


 とりあえず今日の予定でも確認しとくか。


「この後はギルドに行ってティアの冒険者登録を済ませて、クエストを受注する。でいいんだよな?」


「おう、クエストは報酬が良いのを受けようぜ。多少危険でもティアちゃんが加わった4人パーティなら安定した立ち回りが出来るだろう」


 俺たちのパーティは前衛から中衛まで出来る俺とアンリとイディアがいて、後衛には魔法を使えるティアが加わったのでパーティとしては理想的と言えるだろう。


「それじゃあ、食べ終わり次第向かうか」


 朝食を終えた俺たちは宿を出発し、ギルドに数分で到着した。宿場区の中央からギルドまでだと数十分で着くところを近場の宿を選んだのでかなり時間を短縮できている。


 ギルドに着いてからは俺とティアが冒険者登録をしに3階へ、アンリとイディアがクエストを選びに行くことになった。


「あんまり変なクエスト選ぶなよ?」


「任せてよ!イディアさんと2人で良い感じの選んでくるから!」


 いきなり高難易度のクエストとか選んできそうで怖いな。イディアも一緒だし、大丈夫だよな…


 アンリとイディアがクエストボードに向かったので俺たちも3階の受付に向かう。


 3階に上がると昨日お世話になったお姉さんがカウンターで暇そうにしているのが見えた。

 流石に朝イチだと冒険者の数が少ないからな、1、2階の酒場ですら朝飯を食べる冒険者がちらほら見えるぐらいだったし、3階の受付なんてほとんど冒険者がいないのだから暇なのもわかる。


 俺たちがお姉さんの方に向かうと、すぐにお姉さんが俺たちに気づき満面の笑顔で挨拶をしてくれる。朝からこの笑顔を見られるなら、この街の冒険者はさぞ活気付くだろう。


「おはようございます。アマノさん本日はどのようなご用件ですか?」


「仲間が1人増えたんで、登録をお願いしたいんだ」


「承知いたしました。それではこちらにお座りください」


 受付のお姉さんはティアにギルド専用の魔石を手渡す。


「それではステータスの表示をお願いします」


「わかりました」


 お姉さんに言われ、ティアがステータスを表示した。


 ティア 【 】【Lv.16】

【体力】150

【力】64

【耐久】142

【敏捷】121

【魔力】200

【精神】195

【スキル】【大杖Lv.2】

【魔法】【火魔法Lv.3】【水魔法Lv.2】【氷魔法Lv.2】【雷魔法Lv.2】【治癒魔法Lv.2】【支援魔法Lv.2】


「はい、ありがとうございました。これで登録は完了です!」


「え?これで終わりですか?」


 魔石を握りしめてステータスを表示するだけで、登録が完了するのであまりの早さにティアも驚いているようだ。


「はい、無事に登録は完了しましたよ。これでティアさんも冒険者です!」


 そのまま俺のパーティ登録も更新し、こうしてティアは正式に俺らのパーティに加わった。


「それじゃあイディア達のところに戻るか。どんなクエスト選んでるか気になるし」


「なんだか冒険者登録ってあっさりしすぎじゃないですか?」


「それは俺も思う」


 ギルド専用の魔石って優秀すぎじゃないか?どういう仕組みなのかも気になるし、今度暇な時にでも受付のお姉さんに聞いてみよう


 登録を無事に終えた俺たちは1階のクエストボードを真剣に見ているアンリとイディアに合流した。


「おーい、こっちは無事に登録終わったぞ。そっちはいい感じのクエストはあったか?」


「思ったより早かったな。これなんてどうだ?俺とアンリちゃん2人で選んだんだ」


 イディアはそう言うとクエストボードに張り出されている紙を指差した。


 デュアルタイガーの群れ討伐。西の森の北西部の洞穴にデュアルタイガーの群れが住み着いてるらしい。近隣の村への被害が出る前に討伐してほしいとの内容だった。難易度は−Cランク、報酬は金貨3枚だ。


 デュアルタイガーは二頭の虎が融合したような見た目をしていて、2つの頭に通常の3倍はあろう巨体で8本の足で大地を猛スピードで掛けるのが特徴的なDランクモンスターだ。ステータスは体力、敏捷、力に特化していて、体は刃が通り辛い硬い体毛に覆われている。

 1匹でも十分脅威だが、これが群れをなしているのだからこのクエストはかなりの危険を伴うだろう。


「これだと少し難易度高くないか?」


「そうか?俺らのパーティなら問題なくクリアできると思うんだが」


 他のクエストにも目を向けてみる。


 クエストは大きく分けて3種類あるようだ。討伐、採取、調査の3つだ。討伐クエストはその名の通り、指定されたモンスターを討伐するクエストだ。

 採取クエストは指定された場所に行き、そこにある貴重な素材やアイテムなどをギルドまで届けるクエストだ。

 調査クエストは異変の起きた場所に向かい、その原因を探ったり、指定されたモンスターの痕跡などを調査するクエストだ。


 クエストボードに最も多く張り出されているのは討伐クエストでその次が採取クエストだ。報酬は討伐クエストの方が多くもらえるようだ。討伐クエストの方が危険が多いからだろう。


 一通りクエストを見たところピンとくるものは無かった。


「仕方ない、今回はそのクエストに行くか」


 そう言うとアンリは嬉しそうにイディアは満足げな顔をしている。


「やった!これで私もシュンと並んでDランクになっちゃうよ!」


 そういえばステータスはアンリの方が高いのに実績の問題で俺の方がランク上だったわ。同じパーティなんだからそこまで気にすることじゃない気がするけどな。ちなみにティアも俺と同じでDランク冒険者だ。


「出発する前に確認しときたいんだが、ティアちゃんは職業(ジョブ)は獲得してるのかい?」


 そういえばティアのステータスに職業が表示されてなかったな。


「いいえ、私はまだ獲得してませんね。ここで出来るんですか?」


「ああ、すぐに出来るよ」


 職業の獲得は簡単でギルドのレベリングストーンでステータスを更新するだけで獲得できる。時間にして1分かからない!


 俺はすぐにティアを連れてレベリングストーンの前まで行く。


「このギルドにあるレベリングストーンでレベルを更新するだけで簡単に獲得できるよ。やってみ?」


 ティアは俺に言われるまま、レベリングストーンに触れ、ステータスを更新した。


 ティア 【魔法使い(ソーサラー)】【Lv.16→18】

【体力】150→187

【力】64→120

【耐久】142→176

【敏捷】120→180

【魔力】200→276

【精神】195→242

【スキル】【魔導師Lv.1】【大杖Lv.2】

【魔法】【火魔法Lv.3】【水魔法Lv.2】【氷魔法Lv.2】【雷魔法Lv.2】【治癒魔法Lv.2】【支援魔法Lv.2】


 初級クラスの職業(ジョブ)か、さっき見た時も思ったけど【魔法】の種類多いな。こんな多いものなのか?


「凄い、本当に獲得できました。しかし【魔法使い】ですか、初級なのは残念ですが、予想通りだったので良しとしましょう」


 ティアはこんなことを言っているが、ティアまでアンリと同じように中級職スタートだったら、俺が肩身狭くなるので少しホッとしている。


「ティアちゃん凄いな!どうやってそこまでの種類の魔法を獲得したんだい?」


 魔法の知識がないのでよくわからないが、イディアから見てもティアの魔法の種類は多いようだ。


「リィシア国では魔導学園がありまして、最低でも4つの種類は獲得しないと卒業できないんです。私は運良く6つの種類を獲得できましたが、リィシア国出身の魔法使いならこれぐらいは普通かもしれませんね」


「なるほどな。魔導学園で魔法の知識を多く与え、才能のある者はどんどん色んな魔法を覚えていくわけか…」


「魔導学園!?そんなものまでリィシア国にはあるのかよ!」


 魔法を学ぶ学園なんてめちゃくちゃ異世界って感じじゃないかっ!しかもリィシア国の魔法使いはこれぐらい出来て当然だと言う…流石は魔導国家だ。


 それから俺たちは互いの連携をしやすくする為に、もう一度ステータスを確認し合い、クエストに出発した。



 ――――――――――――――――――――――――



 俺たち4人はフロルの街を西門から出発して、森の北西部を目指して歩き出した。

 編成は前衛に俺、中衛にアンリ、後衛にティアとイディアだ。イディアが後衛の理由は森の中だと後ろからもモンスターが襲ってくる可能性があるからだ。


 森の中は夜とは雰囲気が違い、少しざわついているように感じる。


「どうだ?イディア?モンスターは近くにいるか?」


 イディアは鼻と耳がいいのでモンスターが近くにいればすぐに発見することができる。


「半径200メートル内に4匹モンスターがいる。おそらくアームズコングが3匹に大蛇が1匹だ」


「大蛇ってどんなモンスターなの?」


 アンリが聞くとティアが答えた。


「大蛇は別名ポイズンスネークとも言われる。大型の蛇です。かなり獰猛(どうもう)な性格で獲物を見つけると牙で獲物に噛みつき、命を奪います。また牙の攻撃で絶命しなくても牙についている毒によって死んでしまう冒険者もいるようです。Dランクモンスターです」


「ど、毒?ちょっと怖いね…」


 ティアの説明を受けてアンリが引きつった表情を浮かべている。


「脅威になりそうなのはその大蛇ぐらいだな。そいつの正確な位置はわかるか?」


「ここから東に150メートルだ。無視しててもあちらからは気づかない距離だぞ」


 こちらに気がついてないのならわざわざ倒す必要もないな…本命のデュアルタイガーと戦う前に消耗しては本末転倒だ。


 それからも俺たちは森の中をなるべくモンスターを避けながら進んでいく、途中何度かアームズコングと遭遇したが、俺とアンリの2人で十分安全に討伐することができた。簡単に言うと俺がアームズコングを引き付けて、アンリが無駄なくアームズコングの首を刈っていったのだ。


「ここまでは順調だな。しかしデュアルタイガーの群れなんて本当にいるのか?知性の低い魔獣が群れを成すなんてあんまり聞かないな」


「確かにゴブリンやオークと違い、魔獣は群れを作ったりしませんからね」


「本来は群れを作らない魔獣だからこそ、群れを作られたら脅威になり、クエストとして討伐依頼がくるんだ」


「なるほどな、その群れが人的被害を出す前に討伐して欲しいってことか」


「そういうことだ。先を急ごう、そろそろ洞穴に着く頃だ」


 そこから数十分ほど進んだところで洞穴の付近に着いた。


「ふぅ、森の中結構進んだな。街を出発して2時間以上経ってるぞ」


「ここの森はかなり広大ですからね。私もリィシアからフロルに向かう時にこの森を抜けてきましたが、1週間はかかりました」


「1週間!?本当に広大なんだな」


 そういえば……


「ティアはモンスターがうじゃうじゃいる森をどうやって、1週間も安全に進んできたんだ?」


 フロルの付近ならモンスターは弱いが、リィシア方面に進むと強いモンスターも出てくるだろう。ティア1人で森を抜けるのは厳しいはずだ。


「リィシアを出る時に【ステルス】の魔法をかけてもらっていたのでモンスターとの戦闘はほとんどしてこなかったんです。ちなみに【ステルス】は自分の気配を完全に無くす魔法なので注意して進めばモンスターと戦うことは無いのです」


 そんな便利な魔法まであるのか。


「凄いな、やっぱり魔法って便利だよな」


「確かに魔法は便利ですが、戦闘では高火力を出すために魔力を貯めたり、魔力切れになれば戦うことも出来なくなります。便利な分、魔法使いはそれだけ危険が多いです」


「大丈夫だよ!ティアちゃんの事は私にシュン、イディアさんが守るから!」


 アンリは笑顔でティアに言う。こう言う事を本心から言えるのはアンリぐらいだろう。


「ありがとアンリ。もしもの時はお願いします」


「任せてよ!」


「さて、話はその辺にしようか。目的の洞穴は目と鼻の先、対デュアルタイガーの作戦を考えよう」


 イディアによると、洞穴はもう目と鼻の先らしい。


「作戦って言ってもなぁ、普通に洞穴に入って正面から戦うじゃダメなのか?」


「2、3匹なら洞穴の中でも十分戦えるが、それ以上の数だと囲まれる危険があるな」


「そうか…」


 確かに逃げ場が少ない洞穴で数匹を相手にするのは危険だな。


「デュアルタイガーの数は分かったりするか?」


 イディアの鼻と耳を持ってすれば大まかな数はわかる筈だ。


「そうだな…8匹ってところか」


「そんなにいるのかよ!ゴブリン達でも5、6匹の群れで行動してるって言うのに」


「本来デュアルタイガーは群れを作らないんだけどな。もしかしたら飛び抜けて強い個体が奴らを束ねている可能性もある」


「そう考えるなら洞穴の中での戦闘は危険ですね」


「どうしたもんかな」


 もし洞穴の中に入ってデュアルタイガーと戦闘を行った場合、狭い通路を挟み撃ちでもされたらひとたまりもない。

 それに強い個体までいるのならもしもの時、逃走経路が取りづらい洞穴では危険すぎる。かと言って奴らが出てくるまで洞穴の外で待っていても、他のモンスターに襲われれば音に反応して8匹のデュアルタイガーが一斉に襲ってくるかもしれない。基本的に実力が近い相手と戦うなら数はこちらが多いか、同じでなければ苦しい戦いになる。……あと考えつく作戦は………


 ――――――――――――――――――――――――


 はぁ、はぁ…


 思った以上に早いな…


「グルァ!」


「ちょ!吼えるなよ!びっくりするだろ!」


 俺は今、洞穴の中で絶賛デュアルタイガーの群れに追いかけられていた。


「くそ!」


 予想以上に洞穴の中が広かったため、デュアルタイガー達と命をかけた鬼ごっこをする羽目になった。正直シャレにならん!


 俺のことを追っているデュアルタイガーの数8匹、イディアが予想した数だ。


 今はただ追いつかれないように全速力でこの洞穴を駆け抜ける!


「グルルァァァ!」


 必死で走ってはいるが、8匹いるうちの先頭を走る2匹が足が速いようで、俺との距離を10メートルまで縮めている。気を抜けば一瞬で追いつかれる。


「やべ、……流石に息切れてきた」


 洞穴の出口までは後100メートルもある。この速度だと残り30メートルの所で追いつかれるだろう。


「くそ!こうなったら1人で8匹相手するか?」


 いや、無理だろう。通路の幅はデュアルタイガー2匹通れるほどだ。戦闘中に後ろに回り込まれたら厳しい。


 仕方ない…


 成功するかわからないが一か八かの勝負に出るしかない!


 残り50メートル、デュアルタイガーとの距離は3メートルまで縮まってしまった。

 残り40メートル!

 ここで俺は一気に振り返り鞘から剣を抜く、そして…


「【スラスター】!」


 剣を地面に斜めに刺し、最大限まで剣の長さを拡張…その結果、剣を拡張した分、俺の身体を後方の出口まで押し出す。


 拡張した長さは最大の10メートルだ。10メートルの距離を一瞬で拡張したので、俺は凄まじいスピードで出口に向かってすっ飛んで行く。


 洞穴を猛スピードで抜け出し、出口で待っていたティアに向けて大声で叫ぶ。


「やってくれ!」


「はい!【ファイヤストーム】!」


 ティアの杖の先端から凄まじい炎の渦が生まれ、炎の渦は俺と入れ替わるように洞穴の中に放たれた。


 今回の作戦は1人が囮になってデュアルタイガー達を出入り口付近まで誘導し、そこをティアの最大火力で一掃するというものだ。洞穴の中が狭かったら囮役無しで魔法を放てばいいのだが、今回は洞穴の中が広すぎたため囮役が必要だった。

 本来ならステータスの高いイディアがやってくれても良かったのだが、周囲の安全確保のためにイディアは残ると言って最終的に俺が囮役になったのだ。


「どうだ?」


 起き上がりながら炎の渦に包まれてる洞穴の中を見ると、炎の中でデュアルタイガー達が苦しんでいる様子が見えた。


 これは見ていて気持ちがいいものではないな。


 ティアの魔法はだんだんと威力を弱め杖からは光が失われていった。


「どうやら倒しきれてはいないみたいだな」


 イディアが言うと洞穴の中からデュアルタイガー達が出てきた。出てきた数は4匹で、全員酷い火傷を負っている。ティアの魔法では4匹を討伐することができたみたいだ。


「これで1人1匹ずつ討伐すればクエスト完了だな」


「すいません、魔法の反動でしばらく魔法は放てないです」


 ティアが申し訳なさそうに言う。どうやらあの魔法にはかなりの魔力を込めて放ったみたいだ。実際ティアは4匹討伐しているので1番仕事をしている。


「わかった!それじゃあティアは後ろに下がっていてくれ。俺が2匹相手する!」


「大丈夫?シュン?私が2匹でもいいんだよ?」


「悪いがアンリ、今回は譲ってくれ」


 アンリは「わかったよぉ」と残念そうに言い、自分の獲物に狙いを定めた。


「手助けが欲しくなったら言えよ」


 そんなことを言いながらイディアも新調した短剣を持ち、1匹のデュアルタイガーに向かっていく。


 俺も剣を構え、デュアルタイガー2匹と対峙する。


 こうして五分(ごぶ)の状況まで持っていくことに成功した俺たちはデュアルタイガーとの戦闘を開始した。


 それからの戦闘はあっという間に終了した。


 アンリはデュアルタイガーの攻撃を丁寧に盾で防ぎながら、確実に相手に斬撃を食らわせていた。

 デュアルタイガーの体毛は中々の硬度を誇っているのだが、ティアの魔法によって硬い体毛は焼き払われてしまっていて、本来の硬度を発揮しなかったのだ。

 アンリが攻撃を加える度にデュアルタイガーの動きは鈍っていき、最後は【スラスター】でデュアルタイガーを両断してみせた。デュアルタイガーの攻撃は素早く力強いので、アンリの高ステータスだからこそ盾で受けながら安全に倒すことができたようだ。


 イディアとデュアルタイガーの戦闘は一瞬だった。デュアルタイガーがイディアに飛びかかったところを一瞬にしてイディアがめった斬りにしたのだ。短剣が光を放っていたので何かのスキルを使っていたのは間違いないのだが、俺にはよくわからなかった。


 そして俺はデュアルタイガー2匹を相手にスキルを乱用して勝利を収めた。具体的に話すと、最初に【スラッシュ】を連発し、デュアルタイガー2匹の動きを制限して、【ドライブ】による高速斬撃でデュアルタイガーを少しずつ削り、最後は【スラスター】で2匹まとめて両断した。


 本来のデュアルタイガー達のスペックならもっと苦戦しただろうが、ティアの魔法により硬度な体毛が無力化され、さらに大ダメージを身体に蓄積していたので戦闘時のデュアルタイガー達の強さは−DかEランク程度だっただろう。


 こうして俺たちの初めてのクエストは無事に終了したのだった。


 ―――――――――――――――――――――――


「お疲れ様でした。こちらがクエスト報酬とデュアルタイガー討伐の報酬です」


 デュアルタイガーを討伐し終わった俺たちはすぐに街に戻ることして、今はギルドの受付でクエスト報酬を受け取っていた。


 受付のお姉さんからクエスト報酬と討伐報酬を受け取る。金貨3枚に銀貨80枚を貰ったので、1人あたりの報酬は銀貨95枚と初めてのクエストにしては中々の稼ぎである。


「わぁ!こんなに貰っちゃっていいの?クエスト報酬に加えて討伐報酬まで…」


 アンリが目をキラキラさせながら今回の報酬を眺めている。

 討伐クエストは危険な分、クエスト報酬に加えて討伐報酬もしっかり払われるのでお得だ。


「まぁ、本来ならもっと手こずる相手だったよ。ティアちゃんのおかげで楽に討伐できたけどね」


 イディアの言う通り今回のMVPは間違いなくティアだな。


 ティアに目を向けるとティアは他の受付カウンターで今まで討伐してきたモンスターの報酬を受け取っていた。

 受け取った中身を確認してティアは満面の笑みを浮かべている。うん、可愛い……


「さて!報酬も貰ったし、ここからは自由時間でいいかな?」


 昼頃にクエストに向かったので今は夕方だ。夕食まではまだ時間があるし、今日はこの場で解散でいいだろう。


「ねぇねぇ、ティアちゃん!今から商店区で買い物しようよ!」


「ええ、いいですよ。私も日用品とか揃えないといけないので、それではアンリ行きましょう」


「うん!それじゃあ晩ご飯までには宿屋に戻るね!行ってきます」


「おう、2人とも変な(やから)に絡まれないように気をつけろよ」


「変な輩ってアマノさんみたいな人のことですよね」


「俺は変な輩じゃねぇよ!とにかくアンリのこと頼むなティア」


「ええ、言われなくても、それではまた後で」


 こうしてアンリとティアは早々に2人でショッピングに向かった。


 さて、俺はどうしたもんかな、特にやることも無いし、街の中でもぶらぶらするか?


 俺がそんなことを考えているとイディアが急に肩を組んできた。


「なぁ、シュン…昨日いい酒場を見つけたんだ。少し付き合えよ」


 酒場かぁ、前世では酒は20歳になってからだったが、この世界ではそんな制限はない。今は特にやることも無いし……


「しょうがねぇなぁ!付き合ってやるよ」


「お、おう」


 イディアに連れられた場所は、宿場区の路地裏にひっそりと構えてる一店の酒場だった。


 酒場の中はカウンター席がメインで、テーブル席は4人掛けが4セットほどしか置いてなかった。店の中は冒険者達で賑わっているが、ギルド酒場のような騒がしさではなく、少し落ち着いた雰囲気である。


「ん?あれは…」


 店内の様子を観察していると見知った顔の男を見つけた。


 男もこちらに気がつき手を挙げて俺たちを呼ぶ。


「シュンにイディアさんじゃないか!こっち来いよ!」


 そこにいたのはテーブル席に座るジールとガットだった。どうやらジール達もクエスト終わりにここで一杯やってるようだ。


「よぉ!奇遇だな。今日はミィはいないんだな」


「ミィの奴はクエストの報告が終わってすぐに宿屋に戻ったよ。シャワー浴びてから合流するらしい」


 クエスト終わりだと結構汚れてたりするからな、俺もシャワー浴びてから来ればよかったかな?


「とりあえず2人共座りなよ!一緒に飲もうぜ!」


 今日のジールは昨日と違ってかなり上機嫌だ。ガットも楽しそうに酒を煽っている。


「それじゃあ隣、失礼するぜ」


 ジールに勧められ俺とイディアは席に着く。


「エール2つ頼む!」


 席に着くなり早々イディアが定員さんに注文する。注文を受けた定員さんはすぐにジョッキを2つ持ってきてくれた。


 エール、昨日ぶっかけられたやつと同じだろうか…ビールの様な見た目だが味はどうだろう。


 俺たち4人は改めて乾杯し、エールを一気に飲む。


 んんっ!?これは中々いける!


 キンキンに冷えたエールは疲れカラカラになった身体を隅から潤してくれるようだ。


「ぷはー!上手いな!」


「だろ?この街のエールは格別なんだ」


 ジールが楽しそうに笑う。こんな美味い飲み物を俺にぶっかけるなんてゴルドの奴はどうかしてるぜ。


 それからジール達と今日のクエストの話をしたり、今までどんなモンスターを倒してきたとか他愛ない話をしながらエールを楽しんだ。


「ところで今シュン達のパーティランクはどのくらいなんだ?」


「ん?今は……」


「今日のクエストで−Cランクに上がったな」


「おお、そうだった」


 今日のクエストでアンリがDランクに昇格したのと、元々Dランクだったティアが加わったことで、俺たちのランクは−Cランクになっていたのだ。


「そうか…それじゃあちょうどいいや」


 ジールはそう言うと一枚の紙をテーブルに置いた。


「このクエストを一緒に行かないか?」


 その紙には【迷宮(ダンジョン)攻略クエスト】と書かれていた。


とりあえず、連載再開しました!!

4/22日0時に更新するよ!!

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