出会い
一体どのくらいの時間が経ったのだろうか…青い透き通った瞳と目が合ってから時が止まったみたいだ。実際にはお互い硬直していたのは1秒ほどだろう。
しだいに青い瞳のエルフは瞳に涙を浮かべ、頬を赤らめそして…
「キャアアアアアアアァァッ!」
夜の森に叫び声が響いた。
これはヤバイ…何がヤバイってエルフの子から見て俺は覗き魔にしか見えないだろう。しかもこの時間に大きな声を上げるとモンスターを呼び寄せてしまう場合がある。
どう弁解したものか…
「あ、あなたは誰ですかっ!どうしてこんな時間に森の中にいるんですか!……もしかして…ずっと私のこと覗いてましたか…?こっち見ないでください!!」
怒ってるなぁ…早く誤解を解かなくては!
とりあえず彼女の姿を見ないように、後ろを振り返って弁解を試みる。
「ご、誤解だっ!俺はただ森の中から水の音がしたから、モンスターか何かだと思って様子を見に来たんだ。そしたらこういう状況になってしまったわけで!」
「そんなの信じられません!だいたいこの時間にモンスターが多くいる森にいるなんておかしいです!」
たしかに…一般的に夜にモンスターの狩に出る冒険者なんていないからな。
彼女の声はかなり怒っているように聞こえる。それとゴソゴソ音を立てているのは着替えているからだろうか。
「えっと…夜に森にいたのは仲間に隠れてLv.上げをしていたからで!本当にここに居合わせたのは偶然なんだ!!」
「……少し待っててください。」
待つこと1分、ゴソゴソとした音が聞こえなくなったので着替え終わったのだろう。
「こちらを向いて構いません」
俺は彼女に言われるまま振り返った。目に映ったのは大きなとんがり帽子をかぶって、全身を覆う黒いローブに身を包んだエルフの姿だった。右手に持っているのは木で作られた大杖だ。ミィとまるっきり同じ格好である。大杖をこちらに向けて睨んでいる。
「えっと…この状況は?」
「安心してください。いきなり魔法を放ったりはしないので…」
……やばい、普通に怖い。
「まずは名前を教えてください。彼方が悪人かどうかは少し話を聞いてから決めます」
俺のことを悪人だと思っているのか?
「俺の名前はアマノシュンだ。冒険者の街フロルで冒険者をやってる」
彼女は青い瞳で俺を顔を覗き込む、いつでも魔法は撃てるぞ、と表情が言っている。
「アマノさんですか。私も名前ぐらいは教えてあげます。私の名前はティアです」
ティアか…見た目から名前までとても綺麗に思えた。
………ん?
なんか森の奥がさっきから騒がしいな…
「ティアさん?なんか森の奥から大きな音が聞こえてくるんですけど…」
「音?気のせいですよ。私には聞こえません。適当なこと言わないでください!それと…」
「ゴオオオォォォォォンッ!!」
森の奥から大きな雄叫びのせいで彼女の声がかき消された。
「な、なんだ?なんの音だ?」
俺とティアは身体を強張らせ森の奥を凝視する。
「今のは……【トレント】でしょうか?」
ティアは俺に向けていた杖を下ろし、森の奥を警戒している。
俺も剣に手を掛け、いつでも動けるように身構える。
すると森の奥から木々を倒しながら、何か大きな生物がこちらに向かって来る音が聞こえてきた。だんだんと音が大きくなるにつれてモンスターの姿が見えてくる。
「グオオオオッ!」
森の奥から姿を現したのは体長6モートルほどもある、木の化け物トレントだった。トレントは身体が全て木で作られていて、顔には顔には赤い宝石のようなものが埋め込まれている。
「デカイな…」
トレントは俺たちの姿を確認すると、手を前に出し無数の木の枝をムチのようにうねらせ襲いかかって来た。
「はぁっ」
俺は襲いくる木のムチを丁寧に剣で斬り裂いていく。
やっぱりさっきのティアの悲鳴でトレントを呼んでしまったみたいだ。俺は横目で彼女を確認する。
ティアは杖をトレントに向けている。そして次の瞬間、杖の先から赤い光を放った。
「【ファイヤーボール】!」
大杖の先端から紅蓮の火球が放たれ、トレントの無数のムチが一瞬で灰と化した。
トレントが炎に怯んでいるうちに、俺はティアの横まで移動する。
「すごい威力だな。攻撃魔法初めて見たからビックリしたよ」
「…攻撃魔法も見たことないなんて……本当に冒険者なんですか?それでどうしますか?このまま戦いますか?それとも逃げますか?」
「俺らが逃げても他の人に被害は出ないのか?」
「トレントは他の木に擬態するので、野放しにするのは危険でしょう」
「そうか…」
せっかくだし、倒してしまおう。
「俺たちで倒そう」
「わかりました。それなら覗き魔さんは前線でなるべくトレントの気を引いてください。その隙に私が魔力を貯めるので」
その覗き魔さんって奴はやめていただきたいが、今はそんなことを言ってる暇はなさそうだ。
「わかった。ところでトレントってどのくらいの強さなんだ?」
目安の強さだけでも知っとくと戦い方も変わってくるだろう。
「トレントは−Dクラスのモンスターですが、大きさや環境によってはDクラスまで危険度が高まります」
環境と大きさか…嫌な予感しかしないな。
「それでアイツはどうなんだ?」
ティアは少し考えて口を開いた。
「トレントの中でも、あの個体はDランクに近いでしょうね。大きさはおそらくトレントの中でもトップクラス、さらに最悪なのはここが水場ってことです」
「水場だとやばいのか?」
「はい、トレントが水を吸収すると弱点の火属性の攻撃が効きづらくなって再生能力が格段と上がります。」
Dランクのモンスターか…弱体化した狼人と同格かよ。
「再生能力が高くとも倒し方がないわけではないです。トレントの顔に埋め込まれているコアを破壊すればトレントは活動を停止します」
「コアってあれか?」
あの額に埋め込まれてる赤い宝石みたいなやつか。
俺らがそんな話をしているうちにトレントは自分に着いた火を消すために泉の中に入っていた。泉の水を吸収しているようで見る見るうちに大きくなっていく。
まぁ、無理に止めようとしてもあの巨体じゃ止まらんだろうし、しょうがない。
「攻撃きます!」
トレントは十分に水を吸収したようで大木でできている自分の腕を大きく振り上げ、こちらに狙いを定めている。
【ドライブ】
トレントが腕を振り下ろすのと同時にスキルを発動、トレントの腕の横に高速移動しながら剣を振るう。
「硬いな…」
トレントの腕を切断するつもりで放った攻撃は、大木に少しの傷しか与えられなかった。
「グオオオオッ!」
「それでは私は魔力を貯めます!後はお願いします」
「ああ!できる限り頑張るよ」
「私が魔法でトレントのコアまでの道を作るので、トドメを刺す準備もしといてください」
「わかった!準備ができたら合図を頼む」
「はい!」
トレントは泉の真ん中に位置取っているので俺から攻めるのは難しいだろう。
そう判断した俺はトレントと彼女の間に位置取り、剣を構える。とりあえずはティアが道を作ってくれるまで守りと回避を優先しよう。
「ゴオオン!」
トレントの雄叫びと共に先ほど斬ったトレントのムチが手の先端から無数に再生していく。
トレントが狙いを定め、無数のムチが襲いかかる。
「はっ!……っ!」
ムチの方も硬くなってるのか…さっきみたいに簡単には斬り裂けなくなっている。
【ドライブ】
スキルを使って避けながらムチを一本一本切断していく。しかしトレントは余裕の表情を浮かべ更にムチの量を増やしていく。
これじゃキリがないな…
「【スラスター】【ドライブ】!」
スラスターで攻撃範囲を広げ、ドライブで左右に高速斬撃を放ちムチを一掃する。
ムチを片付けても、トレントの余裕の表情は消えていない。トレントは自分の右腕の巨木を左腕に絡め、左腕を2倍の大きさにし、大きく腕を振りかぶる。
マジか…流石にその大きさは捌けないぞ。
俺は少し距離を置くため、足に力を入れた。
……ん?…動けない?
足に違和感を感じ、視線を向けてると足に太い根が巻き付いていた。トレントが地中に這わせてたのだろう。
「くそっ!」
トレントは大きく振りかぶった巨大な左腕を勢いよく横振りする。
風を切る轟音とともに巨大な左腕が迫ってくる。
「はぁぁっ!【スラッシュ】」
俺は襲いくる左腕を無視し、狼人を倒したスキル【スラッシュ】を発動し、トレントのコア目掛けて斬撃を放つ。
「グゴォッ!」
「ぐっ」
スキルを放ち終わるのと同時に、身体全体に強い衝撃が走る。無防備な俺の身体は足に巻きついた根ごと10メートルほど吹き飛ばされ、近くの木に衝突した。
激しい痛みが身体全体に走る……
「か、はっ…はぁ、はぁ」
レザーアーマーのお陰でダメージを軽減したとはいえDランク相当の攻撃をもろに受けるのは得策じゃないな…目立った外傷は無いが体内のダメージはかなりのものだろう。
呼吸を整えながらトレントの様子を伺う。
俺が放った渾身の一撃はコアに小さな傷をつける程度で済んでいた。
やはりコアもなかなか頑丈だな。破壊するつもりで放ったんだが…
「っ!」
トレントに比べて俺のダメージは深刻だ…ステータスの上昇と優秀な防具のおかげでまだ動けるが、実際今ので死んでいてもおかしくない。狼人の一撃を受けた時のことを思い出す。
足に力を入れ再び、トレントの前まで足を進める。
「どうした?まだ俺はくたばっていないぜ」
コアを傷つけられたからなのか、トレントから余裕の表情は消えていて、かなり険しい顔つきになっていた。
「グゴォォォォォォッ!」
トレントは両腕を振り上げ、俺に狙いを定める。
「覗き魔さん!いきます!」
俺が剣を構えて次の攻撃に備えるのと同時に、ティアの合図が聞こえた。本当に覗き魔って呼ぶのやめてほしい。
トレントは俺目掛けて、そのまま両腕を振り下ろす。
「【フローズアイス】っ!」
トレントの攻撃が俺に届く間近、背後から冷気をまとった青い光が放たれた。
「グゴォォォォォォ……」
トレントは青い光に包まれと身体全体が氷に覆われていき、身動き一つ取れなくなっていく。
「すごい…」
「今です!トドメを!」
「任せろ!」
全力で地を蹴り、氷に覆われたトレントの両腕を伝って、コアの前まで一気に駆け上がる。
剣を握っている手に力を入れ、渾身の攻撃をコア目掛けて放つ。
「【クロスレンジ】!」
剣に黄色い光が溢れ、スキルが発動する。
「はぁぁぁっ!」
【クロスレンジ】剣士の職業を獲得した時に覚えた【剣士スキル】だ。この技は連撃技で高速で十字に相手を斬りつけ、その十字の中心点に渾身の突きを穿つ3連撃技だ。
コアを中心に十字に斬り、俺の持っているスキルで最も貫通力があるであろう3撃目の突きがコアと激突する。
コアは凄まじい硬さを誇っていたが、スラッシュで傷を付けたのが幸いし、小さなキズからどんどんとコアはひび割れていき、そしてついにコアは砕け散った。
コアを失ったトレントは先ほどまでの躍動感をなくし、静かに佇んでいる。
「ふぅっ!いやー、どうなるかと思ったけどなんとかなったな!」
「はい、トレントのコアは中々の硬度を誇っているので、ちゃんと壊してくれるか不安でした」
そんなこと思っていたのか。
「そういえば…あの氷魔法すごいな、あんなに効くものなのか?」
トレントに火が効くっていうのはわかるけど、まさか氷が効くとは思わなかった。あの巨大なトレントを一瞬で凍結させる威力って凄いな。
「トレントは水を多く吸収すると火魔法が効きづらくなって硬度を増します。代わりに氷魔法が効きやすくなるんですよ。実際に私が放った氷魔法は初級魔法なので、そこまでの威力はありませんよ」
あれで初級魔法なのか ︎さらに強力な魔法だともっと凄いってことか…
「あの…」
「ん?なんだ?」
「今の戦闘の音で他のモンスター達が集まってくる前にここを離れませんか?」
「あ、そうだな。とりあえずフロル方面に行こうか」
「はい」
ティアはそう言うと、自分の荷物をまとめ始めた。
「では行きましょう」
俺とティアは泉を離れ、フロルに向けて歩き出した。
「なぁ、ティアはなんでこんな夜遅くに森の中で水浴びなんてしてたんだ?フロルの街に行ったら温かい風呂に入れるのに」
歩き出してから沈黙が続いて気まずかったので、話を切り出してみた。
「それはですね…単純にお金が無いからです」
金が無いからってモンスターのいる森で水浴びって、この子大丈夫か?
「それと…」
「ん?」
ティアが何か言いたげにこちらを見てくる。
「私のことを気安くティアって呼ばないでください。あなたとそんなに仲良くなった覚えはありません……覗き魔さん」
「戦闘中もだったが、人聞きの悪いこと言うなよ!あれはモンスターと間違えただけってさっき言っただろう!」
冗談じゃないぞ!確かにガッツリ覗いたけど!覗いたけど!
「それでも覗いていたことは真実ですので、あなたのことは今後、覗き魔さんと呼ばせてもらいます」
「それだけは勘弁してくれ!!」
これからフロルの街で会うたびに覗き魔って呼ばれれば街で変な噂が流れかねない。
「はぁ、わかりました。先ほどの戦い、協力してもらったので今回だけ許してあげます。アマノさんと呼ばせて貰いますね」
「おう…ありがとう」
よかった……なんとか覗き魔は回避できたみたいだ。
「そういえば、さっきお金が無いって言ってたよな?今日の宿とかってどうするつもりだったんだ?」
「特に考えていませんよ?」
「本気で言ってる?」
ティアは不思議そうに首を傾げている。
「今日までどうやって寝泊まりしてたんだ?」
「どう、と言われましても…私がここに着いたのはついさっきですよ?当然野営に決まってるじゃ無いですか」
「ついさっき?」
「そうです。私は故郷からここまで冒険者になるためにわざわざ長い旅を続けて来たのです。今日は少し汗をかいてしまったので、街に入る前に近くにあった湖で水浴びをしていたらアマノさんが来て、モンスターに襲われたんですよ」
なんか俺が来たからモンスターに襲われたみたいな言い方だな。まぁ間違ってないけど。
「着いて早々モンスターに襲われるなんてついてないな」
「モンスターに襲われたのはアマノさんのせいもあるんですよ?」
「悪かったって」
それから俺とティアはモンスター達を避けながらフロルの街を目指してた。
ぎゅるるるるるる
ぎゅるるるるるるるるっ!
ぎゅるるるるるるるるるるる ︎
気のせいだろうか…さっきから横で凄いお腹が鳴ってる音がするんだけど。
横目でティアを見るとティアはお腹を抑えて顔を真っ赤にしていた。
「………」
「………」
「ふ、2日間何も食べないんです!だから今のはしょうがないんですっ!!」
ティアは大声を荒げて弁解している。顔が真っ赤なのは恥ずかしさからだろう。
「何も言ってないだろ?……お腹が空いてるなら何か奢ろうか?」
まぁ、水浴びを覗いてしまったことだし、少しでも罪滅ぼしをしよう…。
「いいんですか?是非お願いします!」
ティアは目をキラキラさせて満面の笑みを浮かべている。………最初見た時はかなりのクール系かと思ってたけど、案外可愛い系なのかもな。
そうこうしているうちにフロルの街に到着した。
この時間までやってる店は……ギルドの酒場か商店区の酒場ぐらいか…
ぎゅるるるるるるっ!
再びもの凄い音が聞こえた。
「は、早く行きましょう!お腹ペコペコで倒れそうです!」
「わかった、わかった」
本当はギルドが1番近いけど、また絡まれたりしたらやだなぁ…精霊の宿り木ならお金払えば何か作ってくれるだろ。
「よし、着いて来てくれ。」
俺たちは10分ほど歩いて精霊の宿り木に着いた。宿屋の二階から光が漏れている。アンリもイディアも起きてるのか?
ドアを開けて宿屋の中に入る。こんな時間だと言うのにカウンターには暇そうにしているエルフのお姉さんがいた。
「随分と遅い帰りなのね〜しかもそんな可愛い女の子を連れて」
「からかわないでくださいよ。今からって何か作れたりしますか?お金は払います。この子に何か食べさせてあげたくて」
「お金さえ払ってくれれば構わないわよ〜それから私はいつも0時になったら寝ちゃうから今度からは時間も気をつけてね〜」
時間を確認すると23時半を過ぎたぐらいだった。寝る前に仕事を増やしちゃったな…
「それじゃあこれで1人分お願いします」
お金を払い、料理が出来るまで俺とティアはテーブルに腰をかけて待つことにした。
「さっき言ってたティアの故郷ってどこなんだ?長旅って言うくらいだからかなり遠いんじゃないのか?」
「私の故郷はこの国から西方にあるエルフと妖精の国、魔導国家リィシアです」
魔導国家リィシア?正直アース国以外の知識はないからな…エルフと妖精の国なら是非行ってみたいものだ。
「何でわざわざ国境を超えてまで冒険者に?」
「そんなの魔王を倒すために決まってるじゃないですか」
ティアの表情からは本気で魔王を討伐すると言う気迫を感じる。この世界に住む人は冗談なく魔王を討伐する気なのだろう。それほどまでに魔王軍による被害は甚大に違いない。
俺とティアが話していると階段を下りてくる音が聞こえてきた。
「やっと帰ってきたのか…」
「私を置いて行くなんてシュンずるい……よ?」
二階から下りてきたアンリ達がこちらを見たまま固まっている。
「シュン!その子誰!どうしてシュンがそんな可愛い子連れてるの!?」
アンリはだいぶ興奮してるようだ。
「落ち着けって!すぐに説明するから!」
俺の胸ぐらを容赦なく締め上げるアンリを落ち着かせ、アンリと一緒に下りて来た美青年に目を向ける。
「なぁ…アンリ、その人誰?」
「はぁ?何言ってるの!その人誰?はこっちのセリフだよ!どっからどう見ても、この人はイディアさんでしょ?」
イディア?あのボサボサの髪の毛の?仏頂ヒゲの?中年のオッさんみたいなイディアだってのか?
髪はオールバックで綺麗にまとめられ、ヒゲも綺麗に剃られている。服装は宿の部屋着に着替えているので普通に清潔感がある。
「よう、シュン。遅かったな。それにしても女を連れ込むなんてやるじゃねぇか」
「本当だ…イディアの声がする。……身なりを整えるだけでここまで変わるもんかね……詐欺だな」
どうやら本物のイディアらしい。
「お待ちど〜」
そうこうしているうちに料理が運ばれてきた。今日俺たちが食べたメニューと同じだ。残り物で作ってくれたのだろう。
「ほら、ティア食えよ。腹減ってんだろ?」
「そ、それじゃあいただきます」
それからのティアの食べっぷりは見事なものだった。
パクパク、もぐもぐ、パクパク、もぐもぐ……ゴクン。
「ふぅぅぅ、生き返りましたぁ」
お腹いっぱいになったようで幸せそうな顔をしている。クールな表情も綺麗だったけど、こういう顔もなかなか可愛い。
「その子が誰かを聞いてもいいか?」
ティアが一息ついたのを確認して、イディアが言った。
「えーと、まずこの子はティアって名前のエルフ族の女の子だ」
「エルフ族なのは見ればわかる」
「はじめまして。私の名前はティアです。リィシア国から冒険者になるために来ました」
ティアは丁寧にお辞儀をした。
「私はアンリ・フローラル、よろしくね!ティアちゃん!」
アンリは目をキラキラさせてティアを見ている。おそらく他のエルフの子と比べて、圧倒的美貌を持ってるティアに見惚れているのだろう。
ちなみに俺のことは凄い睨んでる…
「俺は狼人のイディアだ」
イディアが狼人なのを聞いて一瞬目を見開いて驚いていたが、それ以上のリアクションはなかった。
「狼人なのを聞いても、そんなに驚かないんだな」
「驚きましたよ?でも魔人の方との交流はリィシアでは良くありますし」
イディアだけが特殊かと思っていたが、リィシア国の中だとそうでもないのか?
「それでシュン、ティアちゃんとはどこで会って、何でここに連れて来たの?」
アンリさん笑顔が怖いです。目が笑ってないのはもっと怖いです。
「ティアとは森で偶然会ったんだよ。そこで急にトレントに襲われて、何とか2人で倒したんだ。ここまで連れて来たのはティアがお腹を空かしていたからだよ」
「ふーん、そうなんだ…森で偶然ねぇ?」
なんですか、何でそんな疑った目で俺を見るんだ!
「ねぇねぇ!ティアちゃんって冒険者になるんだよね?パーティのアテはあるの?」
アンリはすぐにティアに見向きを変えて、食い気味に聞く。
「パーティのアテは無いですね…しばらくは一人で簡単なクエストをこなしていこうと思っていました」
「そうなんだぁ……」
アンリがワザとらしく俺の方をチラチラ見てくる。これはあれか…仲間に誘うなら今がチャンスだぞ的な…
パーティに誘う分には何も問題はないだろう。俺らのパーティには後衛職が一人もいないし、ティアならアンリの良い友達になってくれるかもしれない…それにティアめちゃくちゃ可愛いし………他意はありませんよ!?
ここは腹を決めて男らしく!ティアを仲間に誘うべきだろう!
「ティア!」
「は、はい?急に大きな声出さないでくださいよ」
「わ、悪い……えーと、あのですね?」
「なんですか?」
深呼吸をして、気持ちを落ち着かせながらティアの目を真っ直ぐ見て口を開く。
「もしよかったら俺らの仲間にならないか?」
よし!よく言った俺!
「いいんですか?私なんかで?まだ会って小1時間の相手ですよ?」
ティアは少し驚いているみたいだ。確かに知り合ったばかりで仲間に誘うのは話が急過ぎると言うものだ。
「私はむしろティアちゃんと一緒に冒険したいな!会ったばかりだけどティアちゃんが凄くいい子だってわかるもん!」
アンリのこの言葉には一切の裏表が無いように感じる。思ったことをそのまま口に出したのだろう。
「イディアさんはいいのですか?たった今会ったばかりの私を仲間に迎え入れて」
「俺も似たような感じでこいつらの仲間になったからな。いいじゃないか?」
アンリもイディアもティアを迎え入れる気満々で助かった。後はこれを聞いたティアの気持ち次第だ。
ティアは少し考えて何かを決心したように俺の目を真っ直ぐ見る。
「それでは是非、私を仲間に入れてください」
こうして俺たちの仲間に可愛いエルフの女の子が一人増えたのだった。