プロローグ
ただいま!!
とりあえず、全話編集してから続きアップします。
四月の中旬、俺 天野春は一人学校からの帰り道を歩いている。携帯で時間を確認すると時刻は20時を回った頃だろう。
「……寝すぎたな」
何故、部活もしていない俺がこんな時間に帰っているかというと一人教室で昼寝を勤しんでいたら、いつのまにか陽が落ちていたのだ。
「しかし…見回りの先生が来なかったら完全に一泊コースだったな。危なかった。」
とぼとぼと自宅に向けて足を進めていると何か違和感を感じた。
やけに人通りが少なくないか?この時間帯なら仕事終わりの会社員で道がいっぱいのはずなのだが…今日は一人もいないぞ。
自宅までは後10分ほどで着くだろうというところで、誰かの声が聞こえてきた。
「…す……て…」
ん?耳をすますとだんだんと声がはっきりと聞こえてきた。
「た…けて…」
「たすけて!」
どうやら声はの主はもう少し進んだ先の路地からだ。
「これはかなりヤバい予感がするな…」
とりあえず声のするほうへ走り出す。
まずは現状確認からだな…何かの間違いな可能性もある。
俺は路地の手前まで行くとそっと顔を覗かせた。そこで見たのは、泣きながら助けを求める女子の姿と片手に大きめな刃物を持った痩せこけた男の姿だった。
なんて状況だ!こんな時アニメの主人公なんかはさっそうと現れて女の子を助け出せるのかもしれないが俺は普通の高校生だ…ここはバレないように警察に連絡するのが吉だろう。
携帯を取り出そうとしたその時、刃物を持った男が今にでも女の子を切りつけようと近づいていく。
「だっ…誰か!っ…たすげでぇぐださいっ!」
女の子が叫ぶのと同時に俺は男に向けて声を出していた。
「おい!そこまでだっ!警察には連絡した!大人しくしろ!」
啖呵を切ったはいいが、当然警察へは連絡できてない、これで逃げ出してくれたら楽なのだが…
振り向いた男と目が合う、男の目の焦点がどこに向いているのかわからなかったが目が合ったそんな気がした。
男はまるで狂人の様に叫び散らす。
「ぼっ…僕の楽しみを…うっ…奪うつもりだなぁっ!」
男は再び向きを変え女の子に切りかかる
「やめろって言ってるだろっ!」
俺は全力で地を蹴り男の後頭部目掛けて拳を振り上げた。
「…う…うるさいなぁっ!」
俺の拳が男の後頭部に直撃する直前に男は振り向きざまに刃物を振り回す。
「…なっ…」
予想外の反撃に一瞬身体が硬直するが刃物が俺の首を掠める直前に何とかくぐり抜けることができた。
あ…危ねぇ!間一髪…
冷や汗を流しながらもなんとか男と女の子の間に割って入ることができた。
女の子は中学生ぐらいで顔をぐしゃぐしゃにしながら泣いている。そんな彼女を見ていると自然に俺は声をかけていた。
「もう大丈夫だよ。安心して」
そう言うと女の子は泣きながらコクコクと頷いた。
さて…どうするか…相手は刃物を持っている。しかも結構こういう状況になれている様な気さえする。
祖父の影響でほんの少し武道の心得があるが、俺になんとかできるのか!?
男は再び金切り声で怒鳴ってきた。
「お…おまえぇっ!邪魔すぅるなぁっ ︎」
人を殺すのに躊躇が無いのはさっきので確認できている。
いやぁ物騒な世の中だな
「おい!さっきも言ったが時期に警察もここにくる。そんなのんびりしてていいのか?」
頼むからこれで逃げてくれねぇかなぁ
「け…警察がっ…来るなら…早くお前たちを…こ…殺して…やる。ぼ…僕は…も…元々女は…こっ殺して…も…持ち帰る…よっ予定だったからな…」
どうやらやるしか無いみたいだ。俺は女の子に携帯を渡して小声で隙を見て逃げて警察に連絡してくれと言った。
女の子はコクコクと頷くと一歩後ろに下がった。それと同時に男が飛びかかってきた。
男は大振りで刃物を振り回してくる、俺はなるべく後ろに下がらないように器用に相手の刃物をさばいく
この男、思ったよりやるな…
男は一見大振りで素人の様に見えるがその一太刀一太刀がしっかりと俺の動脈を狙ってきている。
戦い慣れというよりは殺し慣れているという感じか…
しかも女の子が逃げられない様に決して俺を深追いしない。だが俺も素人じゃない、大振りなら問題なく捌くことができる。
何度刃物を振っても当たらないので痺れを切らしたように男は刃物を猛スピードで俺の首目掛けて刺しにきた。俺は左手でその刃物をさばきながら全力右ストレートを男の顎にヒットさせる。
「っ!?」
綺麗に顎に拳がヒットしたので男はその場で力なく倒れた。
な…なんとかなった。ほっと胸をなでおろすと違和感を感じた。
「なんか腹が熱い?」
腹部を見るとそこには大きく深い切り傷ができていた。
下を見ると男が最初に持っていた刃物の他にもう一本血まみれのナイフの様なものが落ちていた。
どうやら殴る瞬間に隠し持っていたナイフで切られたらしい…
「そんなのありかよ…」
俺はその場に力なく崩れた。
熱い…血ってこんなに熱かったんだな…
その場に倒れた俺に女の子が寄って来る。
「私のせいで…ごめんなさい」
女の子は泣きながら俺に謝ってきた。
自分が一番怖かっただろうに優しい子だ。
遠くからパトカーの音が聞こえてきた。どうやら無事に通報はできたみたいだ。これで女の子は無事に家に帰れるだろう。
腹部から大量の血が流れている。
熱い…痛い…
痛みに耐えながら、俺は最後の力を振り絞って女の子に笑顔を向けた。
「き…君が無事でよかった。今度から夜道には気をつけるだよ…」
女の子は泣きながら俺の手を握った。
そこで俺はやっと女の子のことを真っ直ぐに見た。
なんだ…この子すごい可愛いじゃん……可愛い女の子を助けて死ねるならいいか…
目の前が闇に包まれて行く…
そうして俺は18年の人生に幕を閉じた……
<hr>
目を覚ますとそこには大空が広がっていた。足元は雲で出来てるようだ。辺りを見渡すと大空の真ん中に小さな丸机と椅子が2つあった。
「やぁ!天野春君、君を待っていたよ。」
後ろから声をかけてきたのは金髪オールバックに丸メガネ、スーツ姿の少しチャラそうな男だった。年齢は20後半といったところだろうか…
「えーと…こういう時って普通可愛い天使さんがお向かいに上がるものじゃないんですかね?」
俺はあの時、確実に死んだ。何故死んでまでチャラい男に迎えられなければならないのか。
「凄いね。天野君、君みたいな反応の人は初めてだよ。」
チャラ男は嬉しそうに言った。
「まぁまぁ、話はあそこで腰を下ろしてゆっくりしようじゃないか…お茶くらい出すよ?それに聞きたいこともあるんだろ?」
聞きたいことね…
俺は言われた通りに椅子に腰を下ろした。
チャラ男も俺の後に腰を下ろした。それと同時に何もなかったはずの丸机の上に熱々のお茶が入ったティーカップが出てきた。
凄いな…
「よし!では自己紹介から始めようか!僕の名前はマルクだ。一応天使やってます。」
チャラ男…もといマルクはそのなりで自分は天使だと言い出した。
「そのなりで天使はないだろ?天使の美少女はいないのか?」
「ごめんね〜俺もどうかと思うんだけど美少女天使は神に人気でね。今は神の肩もみでもしてるんじゃないかな?」
「神ねぇ、本当にいるのかよ」
「いますよ!神はいるっちゃいる!でも仕事は僕達に押し付けて下界を見物ばっかりしてるよ。まぁ力を分け与えてもらってるわけだから文句は言わないけどさ。」
どうやら神は本当にいて天使に力を与え、自分は娯楽のために下界を見物してるみたいだ。
「本題に入ろうぜ。俺はこの後どうなるんだ?」
「思ったよりせっかちなんだね。OK〜天野君がこれからどうなるか教えてあげよう。」
俺の予想はまた新たな命として世界に戻るとか、天国に行くとかか…悪いことをした覚えは無いから地獄はないだろう。
「はっきり言うと君には3つの選択肢がある。」
「3つ?2つじゃないのか?」
「うん、まぁ聞きたまえ、まず1つ目は新たな命として元の世界に行く」
「やっぱりか…予想通りだな」
「お?そうかい?じゃあ2つ目は…」
「天国に行ってのんびり暮らすとか?」
マルクは驚いたように目を丸くした。
「お!正解!凄いね、それじゃあラストの3つ目はわかるかい?」
「いや…3つ目はわからん、地獄に行くとか…異世界転生とか?」
マルクは笑顔で言った。
「YES!そう!それ!異世界!」
俺は普段アニメや漫画はまぁまぁ読む方だからなんとなくそう言う選択肢があったら嬉しいなと思っていたことだが…あるんかい!
「異世界転生ねぇ…」
「厳密には異世界転生だけど、異世界転生ではないけどね」
「どういうことだよ!意味が分からねぇ」
マルクはお茶をすすると落ち着いた口調で言ってきた。
「まぁまぁ落ち着けって、今からゆっくり説明するよ。」
「…」
「そもそも異世界転生とは!天野君の記憶をきれいさっぱりなくして新たな命として異世界に転生することだ、しかし!今回の転生は君が生まれてから異世界で暮らして18歳の春を迎えると君は前世の記憶を取り戻す!というものだ」
「時間差があるってことか…それだと異世界で生活していた18年の記憶で構築された俺の人格と今の俺の人格がごっちゃになって二重人格とかになるんじゃないのか?」
「お!いいところに目をつけたね。安心したまえ異世界で生活をする君は今の君と同じ人格になるように育つよ、魂の形は同じだからね、故に記憶を取り戻しても人格がおかしくなることはない簡単に言うと今の君が異世界の知識をつけて顕現するイメージだ」
なるほど全く同じに成長するのか…自称天使のコイツが言っているのだ…信用できる話ではないが、まぁ仕方ない。
「わかった、聞きたいことがあるんだが…いいか?」
「どうぞ?」
「よくアニメとかマンガで異世界転生って言ったら特殊能力とか授かるじゃん?」
「ふむふむ」
「そういうのってあったりするの?」
「僕達からは与えてないね。異世界に行ったらわかるけど、特殊能力とかは全部自分で何か偉業を成し遂げたものにしか発現しない」
「なるほど、じゃあ向こうの世界で何か偉業を成し遂げないといけないわけか」
「まぁ、天野君に至ってはもう偉業を成し遂げてるけどね」
「え?俺何もしてないぞ、そもそもまだ異世界行ってないだろ」
「いやいや、偉業っていうのは別に異世界じゃなくていいんだよ。君が死ぬはずだった運命の女の子を助けたことは立派な偉業さ」
「あの子死ぬ運命だったのか?」
「そうだよ、君はとても凄いことをしたんだよ、本来死の運命からはどんなことをやっても逃れられないものなんだ、しかし今回君は自分の命を賭けることでその偉業を見事達成したんだよ」
死の運命からは逃れられない…
「俺の他にもよくテレビのニュースとかでやってるじゃないか。誰々のおかげで命が救われたとか、よくあることじゃないのか?」
「ふむ、そういうのは元々死の運命にない場合が多いね、元から助かる運命なのさ、ちなみに言うと君が息を引き取った1分後に警察が到着して男は逮捕、女の子は無事に保護されたよ」
それを聞いて俺は安心した。そうか…助かったのか…よかった。
「よし!そろそろ話も飽きた頃でしょう?どうする?新たな命として元の世界に行くか、天国でのんびり暮らすか、異世界でまだ見ぬ冒険に旅立つのか」
「色々と聞きたいこともあるが、とりあえずは異世界に行こうかな」
「OK!異世界での基本的知識はこれから君が18年かけて教わるだろうから僕からは割愛させてもらうよ」
そろそろ異世界へと出発かと思ったが、慌てたようにマルクが言った。
「そうそう!君の異世界での旅の目的を話してなかったね」
「そういえば異世界に行って何をしろと言われてないな」
「君の旅の目的は世界を悪の力で支配しようとしている魔王の討伐だ、過去何人も魔王に挑んだが誰一人として魔王に勝てた者はいない」
「過去に異世界に行った奴らも何か偉業を成し遂げてたりするんだろう?それでも勝てないのか?」
「偉業と言っても与えられる恩赦はランダムだからね。そして魔王はとてつもなく強いからね」
「そうか」
自分の胸の高鳴りを感じる。俺はこの冒険にワクワクしているのだろうか…
「ふふふ、見るからに気合十分じゃないか、よし!それではそろそろ行こうか!」
マルクと俺が席を立つとあったはずの丸机と椅子が綺麗に無くなった。
そして目の前に大きな扉が現れた。
「この扉を通ると異世界へ転生される、覚悟はいいかい?」
俺は迷わずに言った。
「もちろんだ」
目の前の扉が開き目の前に光が溢れる。
俺は迷わずにそこへ足を踏み入れた。
目の前が溢れんばかりの光に覆われてやがて意識が遠のいて行く。
遠くからマルクの声が聞こえる。
「それでは冒険者! 天野春よ!君が魔王を討ち取り最後の英雄になること期待するよ!君の冒険はここから始まる!」
そこで俺の意識は完全に消えた…