夢を見たんだ
ざまぁ書きたかったんですが、書けませんでした!
夢を見たんだ。
夢なのに、はっきり思い出せる。
夢の中で、僕は猫の姿ではなくて金髪碧眼の王子だった。
ラーグル国の第二王子ライアンの風に靡く金髪と空のように澄んだ瞳は、令嬢達の注目の的。
まるで、エヴァンみたいだなと僕は苦笑した。
僕は、ラーグルの貴族子息の通うミントス学院の生徒で、側には淡いピンクのドレスを着たレイアと僕と同年代に見えるエヴァンと、最近しつこくレイアを口説いているイアンまでいた。
エヴァンは、騎士団長の子息で、イアンは飛ぶ鳥を落とす勢いのカシス商会を設立したカシス伯爵の子息、レイアは僕の婚約者の異母妹の病弱な公爵令嬢。
どうしてカミーユはいないんだろう?
他にも、宰相の子息と宮廷魔導師長の子息、彼らは全員レイアの取り巻きだった。
ふわふわのピンクブロンドで紅紫色の瞳が愛らしいレイアに、高位貴族の子息達がこぞって夢中になる。
純情可憐で儚げなレイアは、魅了は使っていない。
そして、僕の婚約者の公爵令嬢は、アリシアだった。
レイアより二歳年上で、僕と同い年なのに大人っぽいアリシア。
黒髪に紫水晶の瞳のアリシアは、色香があり、同じ学院の生徒でも声を掛けづらい。
親同士が決めた婚約だったが、僕達はそれまで上手くいっていたはずなのに…?
アリシアが人を使ってレイアを虐めたって、そんなの嘘だ!
僕は信じない!
レイアとアリシアの仲は悪くなかったが、アリシアの母親である公爵夫人は、レイアを好ましく思っていない。
その為、学院内でも微妙な距離があった。
レイアも僕に虐めの話はしなかった。
最初は、些細な虐めだった。
ノートを破ったり、靴を隠したり、机に落書きしたり…。
階段から突き落とされた時も、走り去る黒髪の令嬢を僕も見掛けたけれど、証拠もないのに、アリシアを疑ったりしない。
レイアも悪意のある噂に困っていた。
確かに学院では、僕達は一緒にいたが、レイアと僕は恋仲ではなく、レイアの意中の男性はエヴァンだ。
エヴァンは僕の護衛だから僕の側を離れられない。
僕は、幼馴染と婚約者の異母妹の叶わぬ恋を見守っていた。
公爵令嬢レイアは病弱で母親は平民なので、代々騎士の家系のエヴァンの両親は頑なに婚姻を認めようとはしなかった。
エヴァンの父親は、若い頃に戦功をあげ、ラーグルの英雄であり、僕の剣術の師でもある。
第二王子の僕では、口添え出来ない。
泣いているレイアを慰めたこともあったけれど、翌日にはアリシアに虐められたレイアを僕が親身に慰めていたことになっていた。
僕は、アリシアに誤解だと、僕もレイアも君を裏切るようなことはしていないと説明したのに…。
僕達が真相を知ったのは、アリシアが亡くなってからだ。
男爵令嬢ミリアが、レイアを階段から突き落とすように命じられたという嘘を僕達は信じず、噂を再度調べ直すことにした。
焦った真犯人は、悪漢にレイアを襲わせた。
エヴァンと取り巻きが協力して助け出し、事なきをえたが、動揺したエヴァンはアリシアを責めてしまう。
ミリアの背後で、操っていたのは公爵令嬢マグノリアとその父のユーバ公爵。
エヴァンの父親にレイアの悪評を吹き込んでいたのもユーバ公爵の仕業だった。
エヴァン以外の取り巻きの好意を、レイアだって断わっていたのに、女の嫉妬は怖い。
アリシアとレイアの美人姉妹を妬み、僕にアリシアとの婚約を破棄させ、その後釜を狙っていたらしい?
平民の娘で病弱なレイアは、第二王子妃として相応しくないと横槍を入れる腹づもりだったようだが、公爵令嬢に冤罪をかけ、その尊い命を奪ってしまったのだ。
公爵令嬢マグノリアの不気味な笑いが耳に残っている。
公爵親子は斬首刑になり、僕は廃嫡され離宮に幽閉された。
レイアの取り巻きは全て廃嫡され、エヴァンは同盟国の援軍として派兵され、まもなく消息を絶った。
レイアは自ら望んで北の最果てにある修道院に向かったが、病弱なレイアが極寒の地で耐えられるのだろうか?
かねてから父親の商会の手伝いをしていたイアンは、国外追放された後、他国のカシス商会の拠点に身を潜め、ほとぼりが冷めてから、ラーグルに舞い戻る。
レイアに執着したイアンは、レイアを修道院から救い出そうとあがき…、それから…、そこで目が覚めた。
夢だったのか?
身体が鉛のように重い。
目の前で、アリシアがエルダーフラワーティーを飲んでいた。
アリシアの好きなお茶だ。
「ライアン、どうしたの?」
僕は、泣いていた。
夢の中でアリシアを助けられなかった愚かな僕。
ごめんね、アリシア。
僕はアリシアを抱き締めてあげられないけれど、ずっと側にいるよ。
アリシアが寂しくないように、ずっと側にいる。