EP.7
チュンチュン。
小鳥のさえずりを目覚ましがわりに意識が覚醒する。
『昨日は激しかったぜ…』
いろいろありすぎて一言ではとても説明できない新学期の1日目を終えた俺の2日目は朝チュンから始まる…
ごめん…違うね!!
激しかったのは学校での出来事だし、義妹と2人だけでちょっとドキドキしてたのは嘘じゃないけどベッドに着くなり寝落ちしちゃったし…何もなかったよ!!!ヒデヨシはエッチぃことが嫌いですっ!!!
誰かに必死に弁解していた俺はふと気づく。家が静かだ。いつも呼びにくるはずの妹が来ない。昨日怒らせてしまったからだろうか、いやアイスをあげたら許してくれたし違うだろう。
違和感に包まれながら、制服にも包まれた俺は足早に1階のリビングのドアを開ける。
あれ?誰もいない…
孤独な俺を出迎えるのはテーブルの上に置かれたトーストと1枚の紙。
紙に書かれた文字列を見てみる、、
“今日は用事があるので先にいきます。
可愛い美晴ちゃんより♡”
おやおやまぁまぁキュートな丸文字で可愛らしい、でも許さない。
『せめてひと声かけてくれよ…』
兄を置いてけぼりにした妹への怒りを食パンにぶつける。
ガリッ!!!
oh…歯が痛いYO!トースターではなく電子レンジで食パンを温めるのはやめた方がいいぞ!
あの子、やっぱりまだ怒ってたのね…
無慈悲にすぎていく時間は俺の罪悪感なんて考えてくれない。何が言いたいのかというと時間がやべぇ!
ガリガリの食パンをくわえて玄関のドアを開け走り出そうとすると、
『きゃっ!!』cv.富永秀吉
勢いよく開けたドアの前に立っていた誰かと思わずぶつかってしまった。
このシチュエーション…恋のよ・か・ん♡
おぇ…自分の考えに吐き気が。
そんな俺の青春の1ページ目はぶつかった相手を見た瞬間に白紙で終わる。
白紙だけに白か…ふむふむ、目の保養目の保養…
って言いたかったのに!
スカートが隠してる!
見えない!
ラッキースケベとかあれ詐欺だよ!
現実には無いよ!!!
最近、若者たちの間で流行っているラキスケ詐欺に引っかかってしまった。燈ちゃんはガードが固いご様子、俺の付け入る隙などないようだ。
『大丈夫か?っていうか何で燈がいるんだよ…』
『何でとは失礼だなー、せっかく待ってたのに!』
『俺と一緒に行く必要ないだろ…』
『秀くんは学校でいつも1人だから登校中くらいは1人にならないようにって思ったんだよ!』
優しさが棘として胸に刺さる。別に俺は1人でいたいと思っているから1人でいるだけだ。その気になれば…いや無理か。
人気者の幼馴染に気を使われてしまっていたという事実がさらに俺を追い詰める。ただひたすらに恥ずかしいという感情。顔が熱いのは怒りのせいか、羞恥のせいかは想像に任せたい。
人間は誰かと関わりを持たなければ生きていけないと誰かが言っていたがそれは周囲に人間が腐るほどいる奴の言葉だ。きっといろんな人を利用し、のし上がり、幸せな今を生きているのだろう。
俺だったら、人間は誰かと関わりを持たなければ“死んでしまう”とい言うだろうな。1人ぼっちという孤独な人間が生きるなんてポジティブな言葉は使わない。この言葉通りなら俺は既に死んでいることになる。しかし死ぬのは嫌だが現状を変えるすべを持たない俺は死ぬ運命かも。でも俺はそれなら死ぬ方を選ぶ。
傷つきたくないし、傷つけたくもない、だから人との交流を断つ。遠ざけて壁を築いて。
いや、こうして生きているのだからきっとどこかに人との関わりがあるのだろう。
その関わりの1つは黙ってしまった幼馴染の顔を心配そうに見つめる。
その表情が傷をまた深くえぐる。また黒々とした血が出てしまうのは避けたい。
『時間やばいな…走っていくぞ』
『う…うん!』
今日だけは遅刻しそうな時刻に感謝しなければならない。あれ以上あの場にいたらあの娘に醜い姿をさらけ出してしまっていたかもしれない。
高校デビューに失敗してクラスで孤立してしまった事実を好きな娘にぶつけるなんて、かっこ悪いどころか人として終了していた。
走っているせいか、2人の間に会話はない。背後にいる女の子は今どんな顔をしているのだろう、いや想像するのはやめよう。
普段ほとんど動かさず怠けきった脚に鞭を打つ。全力疾走はしていないのに胸が痛いのはきっと酸欠のせいだ。空気は酷く苦く感じる。
昨日の放課後から感じる違和感。何かが違うような違和感と冷たい汗を拭った俺はいつもと変わらないはずの学校生活を迎えるため、校門をくぐる。
俺は前からこんなに孤独だっただろうか?この孤独感を共有できた誰かが…
急いで靴を履き替え、勢いそのままに階段を駆けると教室がある3階へ。教室の賑わいが2人に時間に間に合ったことを教えてくれる。
幸い2人で来たとは思われていないようだ。みんな楽しいお話に夢中でそれどころではないのだろう。
それに該当しない方が1人だけ…その1人は俺が席に着くとおもむろに口を開け言葉を紡ぐ。
『朝から2人で仲良く登校なんて妬けるわ』
『たまたま朝会っただけだよ』
『そう、昨日はたまたま一緒にいたのに私とは帰ってくれなかったくせに…』
『それとこれとは話が別だろ…』
『そうかしら?それとこれって何かしら?詳しく知りたいものね』
言葉に棘はあるが、口調は冷静そのもの。しかし気になるのは彼女の手元のペン。さっきから、芯を出しては折る出しては折るの繰り返し。露骨に機嫌の悪さがうかがえる。
シャーペンの芯だって大切な資源だぞ、環境問題が課題になっている現代人のやることとは思えんな!
『私、人じゃないもの。』
ごもっともです…
彼女の人間じゃない発言を最後に朝の短い会話は終了。
シャーペンの芯を替えては折る繰り返しをやめたのは1時間目が終わった時だった。
退屈な授業を睡眠学習して乗り切ること約4時間。昼休みの訪れを知らせる鐘の音だ。
さてと、図書室行くか…
1年生の時からの習慣とも呼ぶべき図書室での食事をするために俺は音速を超える。ちなみに走りはしないあくまでも早足だ。
小学生の時に染み付いてしまった“廊下は走らない”は今でも健在だ。あれって中学生になると全く先生に注意されなくなったから不思議。
扉を開けて空いている席に着く。幸い人は図書室の司書さんだけ。ほとんど貸切状態といってもいい最高の環境で弁当箱のふたをあける。
全ての食材と調理してくれた妹に感謝を…いただきます!!!
しかし、俺の箸が食材と交わることはない。
『ちょっと!!図書室での飲食は禁止よ!』
司書が戦いを仕掛けて来た。俺は本にされて貯蔵されてしまうのか…いや、俺は死んだら天国に行くんだ!負けるわけには、、、
『ルールが守れないなら出ていきなさい!』
見事に敗北。
追い出されました。。。
あれー、おかしいなぁ昨日もここで食べたような気がするんだけど…
でも図書室内で飲食禁止なんて常識だよな…
プログラムされていたかのように図書室で飯を食べようとした自分がいるという事実と図書室で飯なんて食べられない常識を知っている事実。
やっぱり“何か”が、、、
『ぼっちを人のせいするのは良くないわよ』
俺の傷をえぐりさらに新しい傷を作るのは春日黒子。見た目に反して名前に反さない黒い言葉をどうもありがとう。
『なんでいるんだよ…』
追い出されることをわかっていたかのように図書室の前で出迎える黒子。
『さぁ、一緒に食べましょう』
『え…なんで?』
『なんでって、昨日約束したじゃない。1人ぼっち同士で仲良くご飯を食べましょうって』
そんな約束したかな…
『もう忘れたの?』
ビデオ判定だ、昨日の出来事をプレイバックで判定を仰ごう。
黒子が転校してくる→大胆発言→昼飯食ってたら燈が話しかけて来た→黒子に体育館裏へ呼び出される→告白される→断る
思い出した!断った時に黒子が転校して来たばかりで1人飯が寂しいって言うから一緒に食べる約束をしてたんだ!
『悪い、すっかり忘れてたわ』
『お茶目な秀吉君も好きだから許してあげるわ』
『告白の返事は変わらないからな。』
チッ!
小さく舌打ちをした音が聞こえたな。可愛い顔してどうしてそういうことするかなこの娘は…
わかってるわ、と返事をした彼女と共に人気のない校舎の裏手へ。
『お前も食事するんだな』
『そうね、燃料補給が必要なのは人と同じよ』
その後は目立った会話もなく2人とも咀嚼するだけ。ただひたすらに噛む!飲みこむ!噛む!飲み込む!
うーん…気まずい!!
ふった男と飯なんか食うか普通?
この状況に思わず心の中で叫んでしまう。
ダレカタスケテー!
あれ…?
チョットマッテテーが聞こえないぞぉ〜?
その代わりに聞こえて来たのは彼女の言葉だった。
『これは棚からぼた餅っていうのかしら?でも、棚を強引に開けたのは私だし、ぼた餅を普通に取り出したっていうことでいいわね…』
どうやら独り言のご様子。機械のバグか何か?
心配している俺を無視して彼女は独り言を続ける。
あいつの代わりに昼飯食えるようになってラッキー、とか
私の呼び方が若干変わってる、とか
事象に介入した時の記憶が、とかなんとか。
完全に取り残されている状況は1人飯と変わらないのでは?。その指摘はごもっとも、俺も早く教室に戻りたい。
『ごめんなさい、ついつい興奮して自分の世界に入ってしまったわ…』
『いいよ別に、俺食べ終わったから先に戻るわ』
返事を待たずに俺は腰を上げる。一刻も早くこの場から去りたい。
その理由は気まずいだけではなかった。
黒子が独り言を言っていた時、透き通るほど白い髪を手でいじりながら白髪と見事なコンビネーションを放つはずの青い眼を充血させながら爪を噛んでいたのだ。
普段の美麗な彼女からは想像できるはずのない姿。本人は興奮していたといっていたが俺には今にも人を殺そうとしている姿に見えた。
彼女が見せた刹那の瞬間は永遠に取れないしこりを俺の胸に強烈に焼き付ける。
ろくに食事が喉を通らなかった俺は、食べ終わらずいつもより残してしまった弁当箱の重さを感じながら教室に戻った。




