EP.5
授業の終了を告げる鐘の音が鳴る。待っていたかのように学校中で放課後特有の生徒たちのにぎわいが始まる。
部活動へと向かう者。
帰宅するために荷物を整理する者。
居残りを命じられて教師に束縛される者。
これからカラオケに行くのだろうか、ハミングを口ずさむ者。
サイゼと言う名の万年金欠高校生が第2の故郷と呼ぶに相応しい場所へと帰郷する者。
俺の気分が優れないのは視覚的な情報の多さにデータ通信量が制限されてしまったからだろう。
うん、全然違うね!関係なかったわ…
制限されていたのは俺のケータイでした。
原因は転校生さんからの呼び出し。昼休みの出来事の後から一言も話しかけてくることのなかった友人2人の顔を思い浮かべながら体育館の裏へ向かって歩く。
“自称”全国競歩大会高校生の部日本代表の俺は超速で目的地に到着する。
オリンピックの中継で競歩を見た後に早足で歩きたくなってしまう衝動はヤバイ。
そんな考えをかき消すように突然女子の怒りを帯びた声が聞こえてくる。
やばい!修羅場に遭遇か⁉︎
とっさに物陰に隠れて目を見開くとそこには見たことのある2人が。
短髪で白髪と長髪で黒髪、見事に対比の関係にある美少女2人が言い争い?をしていた。
『あなたが…………嘘………許せないわ……』
『黒……………関係ない!!そんな………私の………は変わらな……!!!』
少し距離があるせいで所々よく聞こえない…
黒が変わらない?オセロの話?
挟まれたらちゃんとひっくり返さないとダメだよ!!
それにしても燈と転校生が2人でお話とは…俺と転校生の待ち合わせ場所に燈がいるこの状況、魔訶不思議アドベンチャー。
まさか、、、
俺をめぐっての言い争い⁉︎
俺のために争わないで!!!!
俺の心の叫びが届いたのだろうか、争いは鎮まり黒い方が走り去る。残った白い方は短いため息をつくと、
『盗み聞きは感心しないわよ、秀吉君』
おぅ、バレてた☆
『あなたの熱い視線のせいで体が熱かったわ…視姦プレイは嫌いじゃないのだけれど、こんなところでなんて…恥ずかしいわ…』
もじもじしながら顔を赤らめるというなんとも可愛らしい仕草は最高だったが、言葉の内容は最悪だった。
『燈と何を話してたんだ?』
『あなたを呼び出した女の子の目の前で他の女の話をするなんてナンセンスにもほどがあるわよ』
どうやら話す気は無いご様子。最初から教えてくれるとは思っていなかったけどね、、
『それは悪かったな、それで用件は何なんだ?』
『単刀直入に言うわ…私と愛しあってほしいの』
普通ならドキドキしすぎて心臓が飛び出ているだろうこの状況。誰がどう見ても告白の1シーンだとわかるこの甘くロマンチックな状況に脇汗をかいて焦る俺はもういなかった。
“付き合う”じゃなくて“愛しあう”か…
どこかぎこちなさを感じる言葉遣い…
ばらばらだった不信感が次第に形をもっていく。
冴え渡る俺の輝く頭脳、、、
謎は全て解けた!!!!!
やっぱりこの娘は!
『改めまして、私の名前は春日黒子。春日とは呼ばないでほしいわね、あの男の苗字は嫌いなの
ネタバレには早すぎた…?』
俺の名推理シーンをガン無視して自首した少女は綺麗な一礼の後、顔を上げ考え込む。時の人改め時の機械人はなぜか俺の目の前に。
つーか、本当に何でここにいるのこの娘?
カメラにパシャパシャ撮られなくてもいいのん?
『あなたに会うために研究室から脱出して来たわ。』
『それと私を撮っていいのはあなただけ、他の誰の被写体になるつもりもないわ。』
俺に会うために逃亡とは、、、
愛も重けりゃジョークも重い…
『女の子に重さの話なんてデリカシーのかけらもないのね…そんなことよりも告白の返事をはやくして』
『知らない人や危ない人とは話すなって母親に教わったんでな、悪いが帰らせてもらう。』
『まだ親離れできてない秀吉君、可愛い…』
やめて!!
かっこよく決めたかったのに台無しじゃん!!!
『大丈夫よ、今でも十分にかっこいいから』
お世辞は効かない!効かないぞぉ!!
でもちょっと嬉しいかも。。。
そこでふと気づく俺氏。Youはさっきから俺の心のつぶやきにリプライしてない?
『機能の1つらしいわ。付けた人間の性格の悪さが伺えるわね、神霊種気取りかしら?』
ごめんね。その発言…イマニティは全然笑えない。
『ちなみに血壊的なものもできるわよ。
いや待って、
わたしは機械だからトランザムって言った方が似合ってるかしら?』
圧倒的な力で俺の心の中と言う名の戦場に介入してくるマイスター。人類の飽くなき探究心が生んだチートマシーンは俺の理解の外にいらっしゃるようだ。
『言っておくけど正確に心の中がわかる機能とは言えないわ。
だって、あなたがわたしのことをどれだけ愛してくれているのかはわからないもの…
わかる時とわからない時があるみたい…とんだ欠陥機能だわ…』
チート機能と恋心の解説を聞いているうちに気になることが1つ思い浮かぶ。
『おい、クロえもん。タイムスリップできるのは本当なのか?』
『当たり前だわ』
ドラーズの5番曰く、
素粒子ニュートリノを超える、速度を持った新粒子の発見。理論上不可能であったタキオン理論を用いて過去に情報を送れるようになったこと。対象の人間の五感・身体を構成する全ての細胞を情報化する技術の完成。この2つによって過去に人を情報として送り込むらしい。
長々とした謎理論だったけど…
ひでよしくんはねーむずかしいことがにがてなんだーだからよくわかんないんだよーテヘペロー☆
『もっと私のこと知りたい?』
体を近づけて至近距離で聞いてくる機械少女。香るのはオイルではなくフローラルのような香り。
ありえない状況を目の前に脳内は活動の限界を向かえ、思考が追いつかなくなっているにもかかわらず質問に対する答えはすぐに出てくる。
『答えはNOだ。知りたくはないし、君を好きにはならない。』
『どうすれば愛してくれるの?』
はっきりしないまま関係を続けたらこの娘はきっと嫌な思いをするだろう。ラノベ風2人の美少女とイチャイチャハーレムルートドリアに手をつけない俺ははっきりと本心を告げる。
『そういう問題じゃないんだ…好きな人がいるんだ。だから君の気持ちには答えられない。』
彼女は黙ってうつむく。表情は見えないが悲しみを浮かべているだろう予想はついてしまう。
どこで俺を知ったのかは知らないが、都会からこんな田舎まで俺に会うためだけに来てくれた機械少女を傷つけてしまったに違いない。
でもこの娘にはいるべき場所があるはず、バグというもの早く直さなければならないものだ。そろそろ良い子はお家に帰る時間だろう。
俺というウイルスのせいでバグが起きてしまった彼女はうつむきながら両手を強く握っていた。血が出るほどに…
『ごめん。』
罪悪感と少女の手から滴る血の恐怖に背中を押された俺は家へ帰るために少女に背を向けて歩き出した。
少女が自分のあるべき場所へ無事に帰ることを願いながら、、、




