EP.3
幼馴染との登校を終えた俺は1人で下駄箱に向かう。
時計を見ると8時20分を指している。HRまであと10分、意外と余裕がある。そのせいか下駄箱付近でも雑草たちの話し声が喧騒を生み出している。
べ、別にうるさい生徒を雑草扱いしてるわけじゃないんだからね!
東山高校の制服が緑色だから人が密集すると動く草に見えるだけなんだからね!
勘違いしないでよね!!
待てよ。。。
そうすると1人の俺はどうなるんだ……
1本の葦…?
いやだ!哲学的だわ!
1人になると哲学的になる高校2年生は俺です。
たしかデカルトかパスカルだったような、、、
1人でツンデレと哲学のコンボを繰り出しても脳内の寸劇であるがゆえに、誰かが口を挟んでくれることはありえない。
虚しくなることはないのかと質問するのはナンセンスだ。
上履きに履き替え歩き始めると、生徒達の様々な姿が目に入ってくる。
昨日のテレビ番組の話で盛り上がる女子数人のグループ。
登校中に拾ったのだろうか、大人の雑誌に鼻の下を伸ばしている男子2人。
朝からイチャイチャしているバカップル。
いつもと変わらない学生たちの風景の中、自分が平凡な日常を過ごしていることに満ち足りた気持ちを感じながら歩く。
教室のある3階に行こうと階段を登ろうとしたその時、
『え?』
思わず歩みを止めてしまっただけでなく、声が漏れてしまった状況には理由があった。
白く輝く白銀の髪。思わず触れてみたいと思ってしまう短くも美しい髪の下には青い瞳。 日本人離れしたパーツとは対照的に顔は外国人さんというわけでもなさそうで、、、
白髪で青い瞳なのに日本人の顔がマッチしているとはJPNはすごいぜ…さすが美女ランキングで6位に輝く女優がいる国だね!!
階段の上から見下ろす青い瞳は俺の濁った黒目を数秒見つめたかと思えば、一言も口を開けることなく階段を降りていった。
『あんな娘いたかな…?転校生か?』
階段で狐に化かされたかのような気分を味わい放心してしまった俺は教室に向かうために体を再起動する。
人間はやはり平等ではないことを謎の美少女に諭されたぜ…
俺はたどりついた2-Aのドアを開ける。
やはりここは黄金の国ジパングだった。
先程の妖狐を見たせいで、俺が不思議の国に迷い込んだヒデヨシになってしまったと勘違いしてしまったぜ。
教室の中には、石ころから黄金まで様々な姿が揃っていた。
ちなみに俺は石ころですね。
危険な比喩を用いた代償は俺がネンチャク草と混ぜると素材玉になるという事実だった。
黄金は燈だろう。異性問わず彼女の周りには自然と人が集まる。路傍の石とは大違いです。朝から天使の笑顔振りまきすぎじゃね?クラスの人気者は朝から大変だね…
教室に入ってきたことを気づかれないステルス性能を備えた秀吉くんは席に座ろうと…
『秀吉殿、昨日は楽しかったですな!』
すると丸坊主で眼鏡をかけた謎のロリコンが話しかけてくる。
『高松か、おはよう』
『吾輩の名前には“氏”をつけて欲しいといつもいってるでありますよ!!』
め、めんどくせぇ……
恥ずかしいから2人だけの時にしか呼びたくないといつも言っているだろ。
『吾輩は満足できないでありますよ!!秀吉殿とはソウルメイトでありますからな!!』
うざいと思いながらも結局は趣味が同じであるため今季の春アニメの話に花が咲いてしまう。
“高松清隆”
入学当初は出席番号の関係で前の席に座るただの中肉中背だと思っていたのだが、話してみると意気投合するのに時間はかからなかった。
アニメは人を繋ぐ……
下手な実写化は数を打っても当たらないんだからね!!!
俺の友達といえるのは高松くらい。クラスメイトとも話はするがそこまで深い付き合いではない。陰キャラ2名をグループに入れてくれるほどクラスの男子達は優しくない。
スクールカーストで言えば底辺。1度陰キャラの烙印を押されてしまえばその地位を動かすことは困難を極める。
学校のカースト制って本当におっくう。男子のトップと女子のトップが仲が良いのは高校生あるあるだと思う。
そんな捻くれた考えを共有できたのも高松と良い関係を築くことができた理由の1つだろう。
でも、燈が幼馴染だと知られた時はまじでやばかったな…シャーペンの芯を首筋に当てられたあの恐怖は忘れられない。
彼女とは異性の関係にはないと懸命に弁解したらいつもの高松に戻ったっけ…
非リアの執念は恐ろしいぞぃ。。。
そんな友人と喋りに耽っているといつの間にかチャイムが鳴っている。熱中している時ほど時間の流れは早く進んでしまうのは世の常だろう。
話を終え、高松も自席に戻り俺も1時間目の準備をしようとしていると、
『富永くんって本当に高松くんと仲良いよね!』
黄金から石ころへ突然の爆弾DMがきた。
返事を待たず彼女は前から2番目の自分の席へ向かう。
同じ列の1番後ろを陣取る我が領地を通ることは普通なのだが、話しかけるのは普通じゃないじゃろ。
稀に起きるこの事態、
本人は気にしていない様子だが周囲の人間は違う。1年生の頃から彼女のこの無意識のスキンシップはクラスに小さな波を生む。
簡単に言うと、クラスの連中が俺をめちゃくちゃ見てくる。
嫉妬・疑惑・好奇の眼差しには慣れたつもりでいたがやっぱりニガテだ。
ーーどうしてあんなやつと日向さんが?
そう言いたげな視線は俺の活動領域を極端に狭める。
小・中・高と続くこの悪しき伝統に終止符が打たれることはない。
幼馴染が可愛い女の子っていう現実はこんものだよ…
だってほら、
清隆くんがハンカチ咥えて怒りの眼差しを俺に向けているもの。。。
好きな子に気持ちを伝えられない勇気の無さをまわりのせいにしている自分の情けなさを嘆いていると担任が教室へ入ってくる。
『みんなおはよう、
今日からこのクラスに転校生が入ります。
入ってきて、挨拶をお願いね。』
安藤先生の言葉が終わると同時にドアが開いて1人の女の子が入ってくる。
白く輝く白銀の髪に澄んだ青い瞳。
俺は1度目にしているはずのその異様な少女の美貌に教室中がざわめく。
『春日 黒子です。』
『よろしくお願いします。』
丁寧なお辞儀は90度。
小さすぎて聞こえないこともなく、大きすぎて不快に思うことのない絶妙な声の大きさ。
なぜか聴覚なのに透明感を感じてしまう。
彼女の発した言葉のせいか
少し騒がしかった教室が静寂に包まれる。
『では、春日さんは1番後ろのあの空いている席に座って』
先生の言葉に無言で頷くと少女は歩き始める。1歩1歩の歩みすら綺麗だと感じてしまうのは不思議だ。
ーーその時俺はどこか"精巧”だと感じてしまった。
彼女の向かう先は窓側の1番後ろの席。
つまり俺の隣である。
なにこの謎の緊張感。。。
クラスの注目を集める美少女がゆっくりと俺の隣に向かって歩いている…だと…⁉︎
この状況……………
濡れるッッッッッ!!!!!!!
俺の特殊な性癖がバレてしまったことはどうでもいいのだが、いつの間にかクラスがまた少し騒がしくなっている。
まさか!?
さっきまでの声出てた!?
濡れるが聞こえちゃってた!?
違ったぁ☆
転校生が俺の席の前で立ち止まってだけだったぁ☆
良かったぁ☆
いや、良くない。
なにこの
『やっと会えたわ!私の王子様!!』
的な展開…
俺はこのままこの娘に結婚でも申し込まれるのだろうか?
しかしマンガやアニメやゲームにありそうなこの状況。
現実だとすごく怖い。
知らない女の子が俺の眼を見ながら何も言わずに立っているとかホラーすぎる。
ドキドキ♡というより動悸がヤバイ。汗がすごい出てきた。ヤバイヤバイヤバイヤバイ。
そんな俺を嘲笑うかのように笑みを浮かべると少女は数年にも感じた数秒ぶりに重い口を開ける。
『初めまして秀吉君。8時間と28分47秒ぶりね。会いたかったわ…』




