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2EP.7

あの後、特筆すべきことは起こらなかった。文化祭当日ならまだしも俺が参加したのは文化祭の準備だ。中学生のくせして行われる生意気な文化祭。羨ましいというのが一般論かもしれないけれど、俺はこの学校に入らなくて心底良かったと思っている。リア充によるリア充のためのリア充が作る祭典。リア充という言葉の定義が現実の充実だとするなら1人で楽しく生きている俺も十分リア充といえる。ただしここでは一般論、世間の概念でリア充を捉えよう。となると俺はリア充ではなくなる。彼女もいないし、友達もいない。そんな人間が文化祭を楽しめるわけないわけで。中学生からこの地獄の祭典があったら俺はきっと死んでいる。地獄に殺されている。生き返っては殺されるを繰り返す地獄の本質からしたら俺を殺すのは納得するしかないのがなんともいえないところだ。


夜遅くまで楽しく準備なんて展開を期待した皆様というか俺様には申し訳ない。2時間弱で終わってしまいました。大半が部活やら塾やらで抜けたための終了。仕切りたがりな女の子たちが帰ってしまったらそこで終わりなものは終わりなのだ。勝手に進めて後からぐちぐちと言われるのを残ったメンバーは理解しているようだった。さすが社会の縮図、学校である。


「こっちゃんが帰っちゃったからな〜。進めようにも進められないよ…」


「美晴の可愛さでなんとかならないのか?私よりブスな女は私に従え!みたいな…。そうすればおまえが学校のトップ、女帝になるぞ」


「なにそれ新手のナンパ?お兄ちゃん…本気でそれにときめく女子いると思ってんの?」


し、辛辣ぅ…。

俺と美晴が駄弁るのはガスト。学生の故郷といえばサイゼなのだが…俺は熱烈なガスト信者へと転生した。平均予算800円からの深夜2時までの営業。充実したジャンクなメニューとテイクアウトの利便性は最強。王道のチーズinハンバーグに続くグリル系がもたらす満腹感も良いが、俺がおすすめするのは299(税抜)に潜む猛者たちだ。値段の割にボリュームのあるメニューたちは、1品目から2品目、3品目とついつい頼みたくなる中毒性を持っている。フィッシュ&チップスの無限に食べれる感は異常。熱々の揚げ物たちを炭酸で流し込む爽快感、ついつい食べ過ぎてしまう罪悪感が食欲を刺激する。ガスト愛についてはまた別の機会に是非語りたいところだ。美晴に語ろうとしたら熱々ポテトを鼻に突っ込まれた。俺の鼻水はソースじゃないしガストの品格を下げる行為はやめてほしい。しかし話そうとする度に突っ込まれるのだから俺が話すのをやめるしかなかった。

ここでステーキガストで心がぴょんぴょんするようなコラボをするらしいからチェックが必要だというのを言いたいが今は置いておこう。


「女子間の身分差ってすごく面倒なんだよね〜。いいなあ男子は、そういうのなくて」


異議あり!!

俺は無言で人差し指を美晴に向ける。

美晴ちゃん?無言でケチャップを指につけるのやめてね?器をわざわざ持ってまでそこまでしないでね?残りのポテトは俺の指がつけられたケチャップつけて食べることになるの忘れてないよね?


「すいませーん、ケチャップ追加してもらえませんか?」


「そこまでするなら初めからするんじゃないよ!!!」


あははは、と笑う美晴。悪ふざけは信頼の証。ドッキリだって信頼があってこそ仕掛けることができるものだ。これくらいで本気で怒ることがないのをわかっているからこそ美晴は楽しそうにしている。少しでもストレスを俺で発散してくれるのならこんなに嬉しいことはない。兄貴とケチャップの存在理由は妹を喜ばせるためなのだ。


「男子にだってそういうのはあるぞ。まとまっているように見えて小さなグループに分かれていたり、1年に数回しか喋らない人だっているくらいだ。陰口だって言ってる奴らもいる…」


「ふーん、お兄ちゃんも大変なんだね」


「この世界で大変じゃない人なんていないだろ」


「それじゃあニートさんは?」


「彼らは戦士だ。本当なら働かなければいけない、学校に行かなければいけない…そんな罪悪感と昼夜を問わず戦っているんだ…彼らを社会不適合者という輩を俺は許さない。社会を不敵にしているのはパリピだ、パリピ。あいつらはしゃぎ過ぎなんだよ…騒ぐな道を塞ぐなエスカレーターを塞ぐな改札を塞ぐな俺を笑うな!」


「最後だけおもいっきり私情だったね…至上の私情だったね…」


美晴が俺の前だけで見せる表情があるように、俺も美晴にしか見せない顔がある。義妹ではあるが家族であることに変わりはない。血だって遡れば繋がっているわけだしな。


「おまえも大変そうだよな…小野寺さんと話してると心身が擦り減っていく気分だったよ」


「でしょ…。こっちゃん、仲良い子にはすごく優しいんだけどそれ以外の人には高圧的だからさ…難しいんだよね。幸い私は仲が良い方だけどさ、この前なんて…」


小野寺琴奈。

どうやら相当の曲者らしい。俺を太閤検地と呼んだだけのことはあった。

それは文化祭の前の出来事、体育祭のことらしい。体育祭の伝統行事全員リレー、足の速い奴と遅い奴の間で明確な格差のある不平等なその競技の走順を決めていた時。

体育委員が決めた順番に誰もが納得するはずだった。速く走れる人と走るのが遅い人を交互に組み、バランスの良い編成。速い人が遅い人をカバーし全員で戦う姿勢を感じるものだったらしいが…小野寺は感じなかったようだ。


『こいつからバトン貰うとかちょっときついかもー』


本当の馬鹿は何も生み出さない、生むのは嫌悪と混沌だけ。集団を好むくせに集団を乱す行為をするその馬鹿1人のせいで1人の男の子は体育祭を欠席してしまったらしい。周りの女子が諌めるも小野寺の発言は止まらず、結局は女王の1秒の気まぐれが体育委員の数時間の努力を踏みにじる結果となってしまった。

さらに運が悪かったのは、本番で1位になってしまったこと。天狗の鼻は折れることなく伸びることになり、非難しようにもできない状況になってしまった。努力した者が報われないというのは、心苦しいものだ。それは本人よりもその努力を知っている者の方がより大きい。それでも一揆が起こせない気持ちは誰しもが理解していることだろう。


「こっちゃんを嫌いな人が多いけど、反論できない人も多いからね〜。女子の中心はやっぱりこっちゃんだから、皆自分の身を守るので精一杯なんだよ…」


「革命家はいないのか?」


「起こしたとしても革命返しされるだけだよ。こっちゃんはあれだね、覇王色だね…」


「王の器とはとても思えないんですけど…」


彼女が統治する国なんかに絶対住みたくない。俺なんかは存在税とかかけられそう。天正長大判を売って払ってくださいよ〜と普通に言われそうだ。


「あのペースで完成できるとはとても思えないんだよね、お兄ちゃんはどう思う?」


話は文化祭の話へと移る。

美晴の真剣な様子は現状を危惧しているからだろう。


「準備はなんとか終わるかもしれない。俺が心配しているのはむしろ当日の方だ」


飲食店特有の問題、料理がある。

簡単に作れるメニューではあるが、当日の料理係は仕事に缶詰め状態になるに違いない。裏方の仕事だけあって他クラスの友達や先輩後輩との交流もとりづらいその役割をやりたがらない者は多いだろう。そしてやつらは必殺の武器を持っている。メニュー考えた人が係でよくなーい?、だ。このままだと準備を頑張った者だけが損をしかねない。せっかくの文化祭だ、俺のように灰色の祭典にはしてほしくない。当日まで手伝えたら話は変わってくるのだが…さすがに無理だ。


「できることはできる限りやってみるよ。なにしろ夏休み中の秀吉くんは超暇人だからな!大船、いや…巨大戦艦に乗ったつもりでいるがいい」


「はいはい…。ペーパークラフト製の戦艦くらいには期待しとくよ」







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