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2EP.6

俺は今、お花を作っています。もうしばらくしたらもっと忙しくなるらしいです。

無事に自己紹介を終えた俺は、ただひたすら無心で花を作る。なぜ無心なのか、その理由は隣に女の子がいるからだ。


文化祭の準備と言えど、そこにはたくさんの仕事が複雑に存在する。美晴のクラスは喫茶店。飲食関係の催し物だと、劇なんかよりやることが多かったりする。メニューを考えたり、教室の内装や外装を作ったり、チラシやポスターの作成、やることは多い。その中で俺が命じられた仕事は内装。あの薄いあぶらとり紙みたいなやつを重ねて作るお花だ。あれを作っている。


紙を重ねて折ってホチキスで止めて花のように開いていくだけ。特に女の子と世間話をするわけでもなくひたすら作る。教室の隅の俺たちのところだけホチキスを止める時に出る空虚な音が響いていた。


き、気まずい…!


モテる男は余裕があるというのは本当だと今気がついた。俺が長年モテてないのは、この状況下でも余裕で女の子に話しかけられるような余裕がないからだ。俺がモテてないのはどう考えても俺が悪かったのだ。喪男万歳。


「あの、美晴ちゃんの…お兄さん…」


「は、はいぃ⁉︎」


そんな時、突然その隣に座っていた子に話しかけられる。あまりにも急で声帯が追いついてこなかった。返事は超高音。ソプラノの音階を越え、もはやモスキート音の域に達しているかもしれなかった。いや、それは盛ったな。


「手先、とっても器用なんですね。お兄さんが作ったお花、すごく綺麗…」


「あ、ああありがとうございます…」


綺麗なのはあなたの心の方だと思います。こんな挙動不審者にそんな暖かい言葉をかけてくれる女子中学生がまだいたなんて…。とっくの昔に絶滅したものだとばかり思っていた。でもこの優しさ、俺心配!変な人に優しくしちゃってストーキングとかされないか心配だわ!よし、そうならないために俺が彼女を1日中見守り続けよう!


………。

はっ…!危ない危ない。いつの間にか俺がストーカー予備軍になっていた。


「高校では部活とかやっていらっしゃらないんですか?夏休みだって、本当なら忙しいでしょうに…」


「あははは、大丈夫ですよ。部活は特にやっていませんし、夏休み中は基本的に自宅を警備する仕事くらいしか予定がないので」


「すごいアルバイトをされているんですね…ご自宅を守る仕事をされているなんて…すごいなぁ」


※この声のトーンは決して棒読みではございません

この子、めっちゃいい子やん!

ただの暇人を本気ですごい人と勘違いしてしまう純粋っぷり…会話が途切れそうになったら自分から繋げてくれる親切心…女神は、妹の同級生だったようだ。


「前嶋さん…だっけ?部活とか大丈夫なの?」


「はい、私も吹奏楽部なので…」


おっとこれはミステイク。まさかの美晴と同じ部活だった。前嶋さんの脳内で『美晴ちゃんって私のこと家では話してくれないんだ…』なんて思ってたらどうしよう。こんな愚兄のせいで妹の交友関係に亀裂を生んでしまうなんて死んでも償いきれない。妹は敏感…じゃなくて妹には敏感なのだ。日本語って難しい。たった1文字抜けるだけで兄貴から変態に変わるなんて、こんなに奥深い言語を使いこなす日本人って実は最強なのかも知れない。


強者は多くを語らない。曰く部活動の情報を交換し終わった強者2人の会話はそこで終了した。これからあと数年間は女子中学生と話す機会はないだろう。楽しい時間はあっという間に過ぎるもの、例え社交辞令だって嬉しいものは素直に嬉しい。異性の同級生が言うところの"富永くんって良い匂いするね"は"富永くんってゴミ収集車の中だったら良い匂いかもね"の略だということを伝えたい。汗が香水の代わりを成している富永秀吉は、社交辞令のその先を読み取ることができる。普段話しかけてこない女子が不意に話しかけてきたときは、だいたいの場合が悪口だからな。女子同士のやりとりで疲れたビッチが、陰キャラに悪口言ってるだけだからな。全国の同志達…騙されるなよ!相手が前嶋さんという名の女神相手ならその心配はない。普通の社交辞令だ。嬉しい。っていうかそもそも、普通の社交辞令ってなんだ?


暇になった。喋るために使うはずだった燃料が手元に行き渡ったため作業は高速で終了。前嶋さんはポスターを作っている女子たちの方へ行ってしまった。この状況でやることがないという地獄。美晴は教室にいないし、ろくに話せる人がいない。何かやることある?って聞いた時に何もないですって言われた時の謎の絶望感ってやばいよね。おまえはいらないから帰れっていう直球が胸を射抜くよね。何かやれそうなことはないかとあたりを見回していると、誰が誰かを呼ぶ声が聞こえた。


「羽柴さーん、ちょっと手伝ってもらって良いっすか?」


羽柴?

そんな人いたか?

自己紹介をした時にはそんな名前の人はいなかったと思うが…。


「羽柴さーーん、聞いてますかー?」


「え?もしかして俺のこと?」


「そうっすよ!日本中にいる羽柴さんの中でここにいる羽柴さんはあなただけですよ」


あははは、と笑う少年。坊主頭だから野球部と断定するのは早計だし偏見だとしても、見るからに活発そうな少年の名前は確か…も、もうら、もーりー…?モーリーファンダジー…?


「毛利ですよ、毛利!さっき自己紹介したばっかじゃないっすか!」


毛のない利益、略して毛利という少年だった。頭は体を表すかの如く野球部に所属していて今日はたまたまオフだからという理由で参加していたんだっけ。自己紹介したばかりというなら俺も言いたい、今日ここにいる生徒の中に羽柴はいない。俺の名前は富永だ。何、なんなの、流行りなの…?秀吉弄りはこの中学で人気なの?今が戦国時代だったら君たち切腹だぞ?わかっているのだろうか。とりあえず俺に土下座してからついでに信長さまのお墓に行ってそこでも土下座してこい。そこまでしないと許してやらん。


「で、何を手伝えばいいのかな…?」


「外装の色塗りお願いします!」


現代の秀吉は武将の器ではなかった。きっと今頃戦国時代を生きた先輩が俺のことを見て涙を流しているだろう。同じ名を持つ者として恥ずかしいと。朝鮮出兵が失敗した時並みに泣いているに違いない。言われるままに教室の外へ出ると毛利くんを含めた3人の生徒が切られたダンボールに絵具を塗っていた。外装というのは飲食店での集客率に大きく関わってくる。見た目がおしゃれだったり、入ってみたくなる興味をひくものだったり、隠れ家的な雰囲気でリピーターを増やしたり、提供する食事よりも先に外装はお客さんに楽しまれる。それは文化祭でも然り。数多くの飲食店が出店する中で勝ち抜くには重要な要因になってくる。教科書を入れておくロッカーだけだとつまらないだろう。夢の国に1つだけ鉄筋コンクリート剥き出しのアトラクションがあるようなものだ。それはそれで面白そうだが…俺は提案できる立場にないため却下。


「で…手伝うのはいいんだけど、これはいったい…」


鉛筆で下書きされていたのは、筋肉が隆起した男性がはにかんでいる絵でその男性は女性用の水着を着ていた。美術部の人が書いたのだろうか、無駄に上手いためインパクトありすぎて絶句だった。そのインパクトといったら世界を滅ぼせるほど、脳内では翼をくださいが再生されていた。このクラスの催し物のテーマを如実に表しているから筋違いではない。男女逆転水着喫茶とかどんな物好きが考えたんだまったく…。近頃の若者の嗜好はよくわからないな。実はこのクラス、よく見ると美男美女が多い。全員の顔を確認していないため、断定できないがここにいる面子だけで言えばそのレベルは高いと言える。美女の筆頭は美晴ちゃんだ、店の看板娘として強く推薦する。さっき話しかけてくれた前嶋さん、彼女も逸材といえる。積極的に話すわけではないが時折見せる優しさは男子の好感を誘うに違いない。男子でいうと俺の前で絵具を塗る毛利くん、髪の毛に左右されない男前。これで野球部とかさぞモテるんでしょうね、ええ。羨ましくなんてないけどね僕は。こんな面子が接客するとなれば、お客の入りは良さそうだろう。なかなかの集客率が見込めると思う。脳内で売上高を計算していた俺に話しかけてくるのは毛のない利益くん。


「羽柴さん、羽柴さん、羽柴さんって彼女とかいないんっすか?」


「あーそれ私も気になりますー!お兄さんめっちゃ彼女とかいそーう」


毛利の爆弾に3人のうちの1人、小野寺さんが食いつく。先ほど俺を太閤検地と呼んだ子だ。喋り方がおバカを匂わす女の子。纏う雰囲気は女子内カースト上位のそれだった。


そして…この嫌味はなんだ。リア充が話しかけてきたことで始まる会話のつまらなさは異常。


「え…いや、今はいないけど…」


苦し紛れというか苦しすぎる返答。美晴がここにいたら笑われていたかもしれない。

過去を遡っても彼女なんていないくせに"今は"なんて言ってしまった。見栄っ張りな童貞ですいません…。


「そっかー、すげえ優しそうだしいると思ったんすけどねえ。自分もフリーなんで欲しいっすわー」


何がフリーだイケメン野郎。おまえの場合あれだろ。フリーはフリーでもフリーランスのフリーだろ。"僕、(彼女作るの)失敗しないので"だろ。キーーーッ、ムカつくぅ!!


「うちも彼氏ほしい〜」


おまえは黙れ太閤検地女。導火線に微弱な風を送り込むんじゃない、俺がイラつきで爆発してしまう。それにこの露骨なアピールときたらあざとすぎる。恋愛のれの字も経験したことがない俺がわかること。毛利くんに対してどうやら小野寺さんは気があるようだ。あまりのあざとい視線と言葉にさすがの俺でも気づいてしまう。俺のことなんかそっちのけで2人の世界へ突入。なんとか話を繋げる小野寺さんとそれに笑顔で付き合う毛利の姿はどこか微笑ましいものだった。が、そのままどこかに消えて欲しいとも思ってしまった。


話す手間が省けたので再び作業に戻る。塗り絵は結構好きだ。ていうか1人遊びは全部好き。四重人格対抗人生ゲームの面白さといったら最高、自分の感情を喜怒哀楽の4人に分割して行う1人人生ゲームだ。発狂したり泣いたりしてかなりのストレス解消になるからオススメ、防音の部屋でやることも勧めておく。


「あそこの2人。今にも付き合いそうだけど実はトライアングラーなんですよ」


正面から青い絵の具のついた筆を動かしながら目線をこちらに向けず話しかけてくる男子生徒。少し小太りのこの子の名前は…確か…


「高松です、高い松の木と書いて高松」


ああ、高松くん。


「これはこれはご丁寧にどうも、僕の名前は富が永く続くで富永だ」


思わず同じように返してしまったが、自己紹介はとうの昔に終わっていることだ。自己紹介が嫌いなはずの俺がこんなに自己紹介をすることになるなんて…。


ふむ…それは置いといて、先程の言葉選びのセンスから考えて彼はもしかしてこちら側の人間、なのか…?


「君は誰とキスをするんだい?」


「私…それともあなた、ですかね」


無言で拳をぶつけ合う高校生と中学生だった。発言だけ抜き取るとなんとも危ない男同士の会話だが、聞く人が聞けば一瞬で繋がる会話だ。海と言われたら山と答えるかのようなもの。これ以上の詮索は不要。こいつ…できる…!


「さて、高松くん。聞きたいのだがトライアングラーとはどうゆうことなんだい?」


「簡潔に言うと、富永さん←毛利←小野寺みたいな感じなんですよ」


まっまさか…毛利くんは俺のことを…、ダメよ!ダメダメ!俺にそっちの気は無いってさっき言ったばかりじゃないか!

なんてことはあり得ず。

どうやらあの小僧、美晴ちゃんに気があるらしい。さっき俺に話しかけてきたのは、そういうことか…兄から攻略していく作戦…俺に良い印象を与えて美晴に近づくというその策略は嫌いじゃないが、おまえ自身が嫌いだからアウト。残念だが美晴には『あの、野球部の子…名前なんていったっけ…?そう!毛利!その毛利くんってさ…実はホモみたいなんだ…』と伝えさせていただく。


「富永さん、男子の間だとかなり人気なんですよ。狙っているクラスメイトは多いです」


「ほう…、そうだったのか、いやそうだろうな。しかし、そういう君はどうなんだい、高松くん?君も少なからずうちの妹を想っているのではないかね?」


「ふふっご冗談を…。僕の嫁はすでに2次元世界の中にいます。3次元での浮気を許してくれるほど優しくありません」


その言葉の後、俺と高松くんは熱い握手を交わしていた。落としてしまった筆が塗る予定のなかった場所に色をつける。後で上塗りが必要になった。


そんな些細なことが気にならないくらい彼の心の内に秘める何かが俺と共鳴している。さっき少しでも見栄を張ろうとしていた自分が情けなく恥ずかしい。こういう子って今時少ないんだよなあ。現実を諦めている子。ここまで現実を捨てていると、逆に清々しく感じる。この子が同級生じゃなかったという天の巡り合わせを酷く憎んだ俺だった。


「小野寺さん、毛利の気持ちに気づいていないみたいで…そう考えるとあのやりとり、少し笑えますよね」


高松くんが目線で促す先には2人の姿。不謹慎ではあるが、確かに…。なんかリア充の一歩先をいっている気分だ。世界一の陸上選手の一生懸命走るその顔をバック走で追い越しながら眺めている気分。


「まあでもそれをバカにするのはよくないぜ。愛がなけりゃ人は生まれないからな。世界を作るのは人であり突き詰めれば人を生み出すのは愛なわけだから愛が世界を作っていると言える」


こんなに心にもないことを言ったのは初めてかもしれない。虚言壮語も甚だしかった。


「僕はあれに愛なんて見ませんよ。あれは偽物、ただのお飾り、アクセサリーに過ぎません」


「男も女の化粧の1つか…」


「世界の土台が愛だとすれば、お金なんてものは生まれていないのかもしれませんね」


「どういうことだい?」


「深い意味はありません、ただすべてが愛で解決できてしまうってことですよ。万人が万人に愛情を注げれば、7つの大罪は生まれません」


この子はどの域にいるんだ…?

何かに達観しているようで、何かに落胆しているように見える。彼がどうしてこうなったのか、それだけがただ気になった。

信じていないようで可能性を信じている風にも見える彼の過去に興味がある。それを安易に聞くほど無粋な人間ではないが。


それにしても愛で7つの大罪は消える…か。すんなりと飲み込むにはスケールがでか過ぎるところだ。それに是非とも言及してみたいこともある。


「嫉妬はどうなる?愛が深ければ深いほど醜く光る最後の罪は、果たして消えるのかな…」


「憎むべき対象すら愛しているのなら嫉妬なんて生まれないでしょう。私が好きなあの人を私が好きな彼女も好き、みたいな」


なるほど…中学生に納得させられたがそう解釈することになるのか。

争いが起こらない素晴らしいことなのではと思う反面、想像するだけで気持ちが悪くなることだった。ドロドロとした昼ドラの枠がなくなるのは嬉しいはずなのに、どこか引っかかりを覚えてしまう。物足りないと思ってしまう。もしかしたら人間が罪深いというのはそんなところなのかもしれない。平等を唄うのに、心のどこかで平等に満足せず不満を持ってしまう生物。だとしたら愛なんてものはどう定義すればいいのか…。


1人の高校生が考える範囲を超えたのでここらで幕引き。そもそもなんでこんなこと考えてたんだっけ…確か高松くんが愛があればお金なんていらないとかなんとか…、哲学過ぎる!こんな中学生なかなかいないどころか普通にいない、この子は社会人なのか?いや、社会人でも愛なんてことを考えはしないだろうから…宇宙人?わからん。目の前で筆を動かす1人の中学生に畏怖を抱いた瞬間だった。



「羽柴さーん!ぼーっとしてないで手を動かしてくださーい!終わらないっすよー」


「あ、ああ。ごめん」


毛利くんの声に呼び戻される。

どうやらしばらく手が動いていなかったようで注意を受けてしまった。お前だってさっきまで女子と話していて作業してなかったじゃないか、なんてことを言い返さないのが高校生の大人ぶり。高校生のくせして大人ぶるなんて、やっぱり見栄っ張りな俺だった。





お久しぶりです。蓮華。です。

まず最初にここまで読んでくださった皆様、ありがとうございました。何気ない青春の一コマ、彼の目にはどう映ったのでしょうか…。それは追々わかると思いますのでしばしお待ちを。


さて、投稿期間が開いたことには理由があります。釈明させてください。

twitterにヤンデレの過去編をあげてみようかと思いまして書いてました。以上です。出来そうならtwitter上にあげます、無理そうならお蔵入りかも知れません…。気になった方は少しばかり覗きにきていただけたら嬉しいです。


ではでは、このあたりで失礼させていただきます。後書きまで読んでくださった読者様に感謝を、ありがとうございました!





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