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2EP.4

「さすがの私でもドン引きなのだけど…」


バスに揺られる俺の隣に座る女の子は、ため息混じりにそんなことを言う。


今日の黒子襲来イベントも終わりが見え始めている。俺の膝の上に置かれた荷物の中には、水着以外の物も。


現在、荷物持ちの分際で女性が購入したものをじろじろ眺めていた行為について言及されているわけではない。彼女が言いたいのは俺のレジでの振る舞いのようだ。



「秀吉君、算数の問題を出すから考えてみて…」


何の脈絡もなく算数の話とは…ドン引きからの算数とか黒子さんは引き算が大好きなのだろうか?しゃーない…付き合ってやろう。



「あなたのお財布には5000円札1枚、500円玉1枚、100円玉4枚、10円玉10枚、1円玉5枚が入っています。あなたは愛する彼女のために水着を買ってあげることにしました。その水着の値段は2875円です。おつりで貰える小銭が5円になるにはどう払えばいいでしょうか?」


ふむふむ…何ともめんどうな問題だ。おつりをお札だけにするとかじゃなくて、何でわざわざ5円のおつりにするんだよ…。その払い方をする人間の気が知れない。でも聞かれた以上は答えねばなるまい、これくらい解けないと小学生からやり直しだ。



「えーっと、5000円札1枚、500円玉1枚、100円玉3枚、10円玉8枚かな…これでおつりは3005円で5円のおつりが出るな」


「正解ね」


ふっふっふ…。

自信がなかったからスマホの電卓機能を使ったことはバレていないようだ。



「最初に私は算数の問題としてあなたに問いかけた、でもこれを算数じゃない捉え方で考えて欲しいの」


「どうゆうことだ?」


「じゃあさっきの問いに条件を2つつけてみましょう。1つ、おつりを5円にしなくてよい。2つ、レジの店員さんがすごくカワイイ。これでどう?」


「これでどうも何も…5000円札1枚で払っていいなら俺はそうやって払うぜ。小銭出すのめんどいし…」


6円や7円だと1円玉を出したくなる俺だが、元の値段が5円なら躊躇なく5000円札のみで払うのが俺だ。


そもそもなんでこんな話になっているのか理解できない。算数じゃないどころかまだまだ算数なのもそうだ。黒子さんは何が言いたいのだろう…?


「考えるべきポイントはもう1つあるのよ。店員さんが可愛かったこと。大学生のバイトさんかしら、とても大人びて穏やかそうな方だったわね」


「そうだな…。あの長髪の黒髪が…って痛い痛い痛い痛い!!」


無言で耳を引っ張るのやめてね。



「私には疑問があるのよ…あの時、秀吉君は何で5円のおつりが出るように支払いをしたのかしら…?」


「え…?いや、まぁ、そういう気分だったんじゃないの?数時間前の秀吉君は」


「でも、今の秀吉君は5000円札を躊躇なく使うと言っていたわ…」


「あれーそんなことー言ったかナー」


「私は思うの。あなたがあの場で5円のおつりにこだわったのには、理由があると思うの」


「フーン」


「あれって…5円とご縁をかけていたのではないかしら…。店員さんとどこかでご縁がありますように、っていう数時間前の秀吉君の願望があったんじゃないかと思うの…」


お、おおお、面白い推理を聞かせてくれるじゃないか黒子さン。さ、さっきの算数の話とは思えない超絶興味深いお話だナァ。それが真実だとすると僕ってかなりイタイ子になるネー。


「お、面白いこというじゃないか黒子君。君にしては面白い話だったと思うよ、うん。ただもうちょっと小さい声で話してくれると助かるかなー、周りのね、目がね…」


「そうよね、童貞の少年が夢を見るのは面白い話よね。私も嫌いじゃないわ。宇宙からすごくちいさな穴に鼻くそを落とす努力をする…そんなあなたが私は好きよ」


5円玉に穴が空いていたのは、俺が宇宙から鼻くそを落とすための的だったからのようだ…。



くそぉ…。


いいじゃないか!!

ちょっとした願掛けみたいなものじゃないか!!

この人と街中で偶然再会してラブロマンスが始まるかもって思ってもいいじゃないか!!!何が悪いんだ!


思春期万歳!!!童貞万歳!!


………。


他の乗客の視線に耐えられなくなったので、とりあえず俺は寝ることにしました。



夕焼けが終わり暗くなったこの時間帯でも、蝉の鳴く声が聞こえる。この声だけで体感温度が上がっていると感じてしまう。


地獄の1日を終え、疲労しきった体をソファに預けている。母と妹が夕飯の準備をしているが、今の俺にそれを手伝う気力はない。俺に出来るのは、眠ることだけだ…今はとりあえず眠ろう、



「お兄ちゃんも手伝ってよ〜」


はい、起きます。


キッチンで与えられた役割は、食材を切ること。忙しそうに調理をする妹は、包丁と豚肉を俺に預けるとそのまま作業に戻ってしまった。


これだけなら、俺が手伝う必要なくね?


それを口にしたら夕飯抜きは確定なので言葉には出せないため、仕方なく与えられた役割を全うする。


えーっと…左手は猫の手で肉を食べやすい大きさに…


「お兄ちゃん⁉︎」


「秀⁉︎」


俺は、音を立て床に尻もちをついていた。


「何やってんの⁉︎大丈夫?」


「あ、あぁ…ごめん。ちょっと滑っちゃって…」


「包丁まで床に落として…危ないでしょ、寝ぼけてるならもういいから!秀は戻ってなさい」


「ごめんね、私が手伝ってって言ったばっかりに…」


「美晴が謝ることじゃないだろ。俺の不注意だよ。悪かった」


母親に叱られた俺は元いたソファに戻る。手の震えがまだ止まらない。包丁で肉を切ろうとしたあの時、なぜか…腰が抜けて後ろに倒れこんでしまった。理由は、わからない。


今まで学校の調理実習や家の手伝いをこなしてきたが、こんなことは始めてだった。刃物で肉を断つという行為に、無意識に反応してしまった自分。未だ止まらない震えと、体を支配する恐怖。


さっきまでの眠気は完全に覚めていた。

それから数分後、



「お兄ちゃん本当に大丈夫?」


「私も大声を出してしまってごめんなさい。2人に怪我がなくて良かったわ」


「大丈夫だって!俺の不注意が原因だったんだ、2人ともそんな顔しないで食べようぜ」


俺の不注意が原因で、楽しく過ぎるはずだった夕食の時間にどことなく気まずい雰囲気が流れる。

ここは責任者として、場の空気を変えるのは当然の役目だろう。


「そんなことより、美晴の文化祭の準備はどうなんだ?」


「順調!ってほど上手くいってないかな…。部活動で忙しい子も多いし、私のとこみたいに文化祭も考慮してくれる顧問の先生って以外と少ないんだよね…」


「時間がある子が準備をするのは当然だけど、その子たちばかりが準備するっていうのもちょっと不満が溜まるわよね…」


なるほどね…。勉強のできる学校でもそういうのは例外なく存在するわけだ。


高校でもいたなー、働かない奴。企画の時は手を挙げてめっちゃ立案するくせに、いざ準備が始まると「うちー、部活あるしー、当日の係りだからー、準備頼むわー」ときた。


あの時の教室は混沌だったな…。任せてー、って笑顔で言ってた女子数名があいつが教室を出た瞬間豹変して…罵詈雑言を。怖い。特に部活をしていなかったため男子で唯一、その場にいた俺の心中を察して欲しい。あの後、女子がストレスを俺に発散し始めたのは言うまでもない。


「女子が中心でやってるんだけどさ、男子はみーんな運動系の部活で暇がないんだよ。力仕事は男子に頼みたいのにねー」


「女子でも必ずいるだろ、クラスに1人ゴリラみたいなやつ。そいつに頼めよ」


「いやーその子手が器用だからさ、細かい装飾頼んでるから無理なんだよね」


いるのかよ⁉︎ゴリラみたいなやつ!

美晴が否定せずに話を続けるところに女性の内に潜む深淵を覗いた気がした。


「夏休みももうすぐ始まるけど、準備やばいなー」


箸を加えながら呑気に言っている美晴だったが、状況はあまりいいとは言えないようだ。


夏休みが始まってしまうとクラスで友人たちと顔を合わせることは極端に減る。同じ部活ならまだしも、接点がない者とは一度も目を合わせないほどだろう。携帯が普及した今の世の中では、全員と連絡を取り合い準備を促すことはできるだろうが…実際は上手くいかないことが多いだろう。


その理由はただ1つ。強制ではないから、に他ならないだろう。授業の時間を利用して作業を進める場合には、やらなければいけないと言う見えない義務感が各々の胸に生まれる。

しかし、夏休み中は作業を進めても良いというだけで必ずやらなければいけないという決まりはない。

そんな中、貴重な時間を割いてまで肉体労働にせいを出す勤勉な生徒は少ないだろう。だからといってやる気のない者を叱咤すると、自分が浮いてしまう。残酷な世界である。


「秀は文化祭の準備とかないの?」


「俺は、もう仕事をこなしたからな。後は当日働くだけだ」


ダンボール回収係。うちのクラスは演劇をすることになっていたため万能なダンボールが必要になってくる。小道具を使ったり、背景に立体感をもたせたり…。そんな万能物質をスーパーなどを回り回収するのが俺に課された役割だった。

他のクラスよりも早く回収しなければならないという使命を負わされ、街の中を自転車で駆け回ったことを覚えている。めんどくさいのは陰キャラに任せとけばいいとか…全部丸聞こえだったからな!チクショー!



「お兄ちゃーん、ちょっとお願いがあるんだけど…」


「もぐもぐ…何かね、美晴くん?」


「お兄ちゃんって、夏休み暇だよね?」


「特に予定はないな。もぐもぐ」


「じゃあさ!ちょっと手伝ってよ!!」


「もぐもぐ…え?何を?」


「うちのクラスの喫茶店の準備!!!」


「はぁ⁉︎ぐぇ!ゴホッゴホッゴホッ!!」


目をキラキラさせている美晴は可愛かったが、その可愛さに騙されて頷く俺ではない。お茶を飲んで詰まりかけた食べ物を胃袋に届けた後、静かに妹を諭すことにする。


「美晴…少し考えてみるんだ。俺は高校生、君たちは中学生、いうならば俺は完全な部外者だ。そんな得体の知れない俺なんかが手伝いをすることを学校側が許す訳ないだろう?俺だって手伝ってあげたいが…これはどうしようもなく不可能なことなんだ。兄を頼ってくれるのは嬉しいが、自分たちで頑張りなさい」


「担任の先生がOKしてくれれば大丈夫だと思うよー!」


「え?そうなの?」


「うん!先生的にも、自分のクラスが当日に出し物が出せないって結構ヤバいだろうし…何よりわたしの身内って言えば大丈夫でしょ!私って結構信頼あるからいけるいける!!」


「いいじゃない、秀、行ってきなさいよ。どうせ夏休みはバイトするだけでテキトーに過ごす予定だったんでしょ?美晴のために少し頑張ってきなさいよ」


「ま、待てって!!もし俺が中学生の女の子に如何わしいことしたらどうするんだ⁉︎富永家の名声は地に堕ちることになるぞ!!」


「「あなたにそんな度胸はない」」


おっふ…。

俺のHPはたった今ゼロになりました。セーブポイントはどこですか?今日の朝ですか?だとしたら黒子との時間をもう一度やり直さなきゃいけないんですか?それならもう死んでいいです。死に戻りません。ゼロから普通生活は始まりません。


「じゃあ、予定あけといてね!お兄ちゃん!あ…あけるほどの予定ないか、テヘペロ☆」


可愛くな……くはないな。ソースがほっぺに付いてるのがずるいですね、はい。


とりあえず、俺に拒否権はないらしい。拒否する理由もないし、できることなら手伝ってあげたかったのも偽りのない本心だ。ここは俺が一肌脱いでやるとするか。


「楽しみだなぁ…えへへ」


いつもよりなぜか高いテンションで笑顔を浮かべる妹を見て、微笑まない兄貴はいないと思うのだが異論はあるだろうか?










GWが全然ゴールデンじゃなかった蓮華。です。お久しぶりです。


投稿が遅くなってしまいすいませんでした。自分は連休を謳歌するはずだったのですが…現実は世知辛い!


金色ではなく灰色になっております。有言実行できなくてごめんなさい。他の作品の最新話も順次投稿する予定ですのでもう少しお待ちいただけると嬉しいです。


では、ここまで読んでくださった読者様の連休が華やかなものになることを祈っております。残り少ない休日、自分の代わりに楽しんでください!!休みでない皆様、一緒に頑張りましょう!!

ここまで読んでくださった皆様、ありがとうございました!


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