2EP.1
本日も快晴也。本日も快晴也。
開けたカーテンから差し込む光が眩しい。
今日は珍しく、妹の目覚ましもなく一人で起きられた秀吉君とは俺のこと。
ちなみに俺のベッドに身を潜ませる女の子はあの頃から確実に増えていた…そう!!堕天使の少女が!!!!ヨ●ネ降臨!!(ぬいぐるみ)
二千円使っても取れなくて半泣きだった俺のために、黒子が取ってくれたものだ。もつべきものは、可愛いぬいぐるみと幼馴染に限るな…うんうん堕天堕天。
上機嫌で部屋の時計を確認。時刻は六時半、学校に間に合わないはずがない時間だ。完璧!………じゃない!!!!
「嘘だろおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!!」
時計の針から覗く、曜日が表示される場所。そこにははっきりと土曜日の文字が…。 学生固有スキル発動、<平日起きられないくせになぜか休日の目覚めは早い>。また一つ、世界の理をその身に体現してしまった俺はさっきまで寝ていたベッドにたおれこむ。
「あれ…?」
起きたばかりで寝つけない俺は、スマホをポチポチいじること数十分。僅かな違和感に気づく。
なにかが…おかしい…。
胸の中で疼く違和感は、次第に全身にぞわぞわと広がっていく。俺は…何かを、忘れている…?。この、違和感、は…。そうだ…!
「美晴が起こしに来てくれていない!!!」
違和感の正体は、平日休日を問わずに必ず声をかけてくれるはずの妹が、今日は来ていないことだった。いつもならあの鈴のように凛とした美声を俺の耳に届けてくれるはずなのに…来ない!
その事実を確認してからの俺の足の速さは、音速を超える。自室を出て左に曲がり、"みはる"と可愛らしく平仮名で書かれたプレートが下げられた部屋の前で両膝をついて叫ぶ。
「ごめんよ美晴!!!昨日、最後のガリガリさん食べちゃったこと怒ってるんだろ⁉︎今からコンビニのアイス入ったボックスごと買ってくるから許してくれぇぇぇええ!!!」
魂の叫びとはまさにこのこと。今の俺は血の涙を流しているに違いない。妹の部屋の前で、土下座して叫ぶ男子高校生という地獄絵図がそこにはあった。
「ごめん!!ごめんなさい!!!妹にまで嫌われたら、俺の人生終わりだぁぁ!学校だけじゃなく、家でまで透明人間扱いは、嫌だぁぁぁああ!!!!」
……………。
そんな…。全く応答がない…。くそぉ…、こうなったら、俺は人間をやめるぞ!美晴!
部屋にある昔お祭りで買ってもらったお面を取りに腰をあげようとしたその時、
「秀、うるさい!何してるの⁉︎」
「か、母さん…美晴が、美晴が、俺の心臓を震わせるんだ!!弾けそうなんだ!!」
「はぁ……?何を言ってるんだか…。美晴なら学校よ、中学の文化祭の準備があるって。昨日夜ご飯の時、話してたでしょ?聞いてなかったの?」
そういえば、そんなことを言っていたような、言っていなくもなかったような。昨日の秀吉君は考え事をしていて聞いていなかったらしい。
美晴の中学校は、この街の公立学校ではない。朝の通勤ラッシュ電車を乗り継いでまで、彼女が通うその学校は少しばかり名の通った私立の中学校。
進学校として知られるその学校に、特待生として入学した美晴ちゃんの学力は、公立の無受験で動く床のごとく自動で義務教育の流れに乗った俺とは違う。
美晴の合格通知が届いたあの日、“身寄りのない自分を引き取ってくれたお母さんへのせめてもの恩返しだよ”、なんて言われたあの日は母親と兄貴は大号泣でした。
なんでお前が泣いてるんだよとか言わないでね☆
そんなこんなで、都市部方面の学校に入学した我が自慢の妹。彼女が入学した今どきのオシャンティな学校では中学でも文化祭があるらしい。俺の学校では、展覧会とか授業参観とかしかなかったのに…これが田舎と都市の差か……。
でも、中学の時から文化祭という名の、ぼっち公開処刑祭があるなんて大変だな。俺が高一の時は、あれ、何してたっけ…。誰かと屋台をまわっていたような…でも、ぼっちざそんな高難易度のミッションできたわけないし…あれー。あまりにも忌まわしい思い出だったのか、記憶が曖昧になっている。
「秀!秀吉!!聞いてるの⁉」
「え、あ、ああ…、聞いてます、、」
「ご近所迷惑だから、朝から大声はやめなさい」
「はい………すいませんでした」
またもや土下座、相手は妹の部屋の扉から母親へと移る。再び描かれる地獄絵図、こんなに地獄絵図が描かれるこの家は本当は地獄なのかもしれない。恐ろしい形相の母親を見て、八寒地獄だけに発汗中な俺。どうせ地獄ならファンシーなのがいいな…ここはじ~ご~く~じごじごじごくだよ~、的な感じが…。二期楽しみ…デュフフフフ。
「秀…」
「な、なんだよ…」
「あなたそういえば、黒子ちゃんと約束あるって言ってなかった?」
あ…………。
目の前が真っ暗になる錯覚に襲われる。伏線回収作業開始、なぜ今日は目覚まし無しで早く起きたのか、なぜ昨日美晴の話を聞き流すほど考え事をしていたのか。
すべては、一人の少女につながる。誰もが振りむくほど異彩を放つ白銀の髪。長いまつ毛の下には、この髪色あらばこの瞳ありとでもいいたげな澄みきった青眼。日本人離れしたそのパーツを持ちながらも、それをまとめあげ見事に美少女たらしめているのは日本人の顔立ちなわけで。
人類の奇跡と表現しても差し支えないその少女が、冴えないぼっちの幼馴染というのも奇跡と言えるだろう。そんな女の子との約束をすっかり忘れていた馬鹿な人間が存在しているのも奇跡と言える。
ピンポーン…
富永家に響き渡る死の宣告。
このままいくと、俺の生存確率も奇跡的なレベルで低いことは目に見えている。さっきから奇跡って言葉の使いすぎで、自分が奇跡の世代なのかと勘違いしてしまいそうだ。僕が影なら、黒子は光か…。名前的にはあいつが影だけどな、うん。
ピンポーン…
ピンポーンピンポーンピンポーンピンポーン
「あぁ…もう!!呼び鈴押しすぎだろ!今いくから!!」
母親との会話を強制終了させ、足早に玄関に向かう。扉の前に立っていた黒子は、白いワンピースを纏い麦わら帽子を被ったその姿は涼しげで、避暑地に訪ねてきたどこかの国のお嬢様のようだ。
「なんで、パジャマのままなのかしら?秀吉君?」
静かに発せられた言葉と笑みを浮かべるその表情は、冷気を放っている。
「い、いやー、今日も天気いいねぇー、もう薄着の季節かー(棒読み)」
「質問に答えなさい」
「約束忘れてましたすいません」
「はぁ…女の子とのデートを忘れてしまうなんて、秀吉君のその頭の中にある脳は機能しているのかしら?朝から私を褒めてくれた♡って上機嫌になっていたらこの始末…本当にあなたって人は…」
朝からいろんな人に怒られてますね俺。そもそも、デートじゃないんですけどね。一人で俺が映画を観に行こうと計画していたら、どこで知ったのか勝手に参加してきただけのくせに…。
「心外だわ…あなたのような冴えないオタクの寂しい映画鑑賞に、私という名の高級オプションをつけてあげたのだから感謝してほしいくらいなのだけど」
相変わらずこいつはエスパーか⁉︎
幼馴染の年期が可能にしているのかわからないが、よく黒子は俺の考えを見越して発言する。
「本当に一緒に行くのか…?」
「今更愚問ね…私があなたのために使った時間を、ちゃんと後で精算してくれるというのなら帰るわ」
訳:質問してる暇があるならとっとと着替えてこい、である。
っていうかなんでこの子はこんなに乗り気なんだよ…?冴えないオタクなんて育ててもどうしようもないだろうが。
「わかっているのなら、早くしてちょうだい」
「は、はいぃぃぃ!!!!少々お待ちくださいませぇぇぇえええ!!!」
今までよりも、さらにドスの効いた声に背中を押され自分の部屋まで駆け上がる。二階の自室へ向かうための階段から玄関の方をチラ見してみたが、笑顔によって細められていた瞼から覗かせる瞳はまるで笑っておらず俺は冷や汗が止まらなかった。
着替える時、パンツも…履き替えた方が、イイカモ!!




