2EP.0
異常な吐き気だ。流れる景色が現れては消え、現れては消えてを繰り返す。吐き気は酔ったせいか、またはこの通勤通学ラッシュの人混みのせいか…。
「ふふっ…」
答えなんて知ってるくせに。自分は自問自答なんてするキャラだっただろうか。
いや、あの日からずっと問い続けていたんだ。自分だけが助かり、あの日の神様の気まぐれで今を生きている自分に。自分を家族として愛してくれたあの人たちの優しさに甘えて考えないようにしていただけだったんだ。私はずっと一人だった。変わらないんだ。求めたが故の孤独と、求められたが故の孤独。
「行きたくないけど、帰りたくもないな…」
こんな独り言は電車の喧騒にかき消されるわけで…。
楽しそうに大きな声で会話してるJK二人。周りのサラリーマン、キャリアウーマン、私立の小学生たちの視線に気づかない二人に感謝しなくてはいけない。あなたたちのおかげで痛い人にならなくてすんだよ…。でも、やっぱちょっとうるさいな…。
(あいつらみたいだ…。全てが自分中心、世界が自分を軸に回ってると思っている人たち…群れなければ生きていけない弱者…)
「おぇ…」
この嫌悪は同じ人間とは思えない浅ましい獣に対してのものか、それともそんな獣と共にぬるま湯に浸かっていた自分に対して…か。
また、質問してるし。っていうか答え出てるし。
そんな時、一人の勇者が魔物の討伐に参加の名乗りを上げた。
「君たち!少し静かにしたらどうだ!!」
「なに、このおっさん…ウザッ」
「新手のナンパとかじゃないの?ププッ、ウケるんですけど」
結果は、見事に惨敗。
勇者の名声は地に落ち、魔物の恐怖に屈服した人間たちまでもが勇者を傷つける。
正義なんてこの世界にはない。正しいことをした人は異端者となり、世界から弾かれる。さっきまで女子高生を見ていた観衆の目は、今は注意をした男性に向けられている。そこには集団生活を強要され、植えつけられた忌まわしきこの世界の理不尽さの欠片が見えた。
自分と同じような被害を受けている男性に助けの手を差し伸べられないことが、恥ずかしい。秩序に反逆する意志を持ちながら、それに従うしかない愚かな自分。
(ごめんなさい…。)
こんな醜い自分を愛してくれたあの人たちに対して謝らずにはいられない。こんな愚か者が、愚者が、生きていてごめんなさい…と。あなたたちの愛に見合うような人間じゃなかったことが…恥ずかしい。
いつの間にか電車は駅についている。扉が開くのを待っている人たちの中には同じ制服を纏う少女たちの姿もちらほらと見えだした。
「すいませーん、降ります…」
小声で人混みを掻き分け電車を降りる。おぞましい空間から逃げたかったのは男性のはずなのに、なぜか自分が逃げてしまった。今の自分の現状を客観的に見せられているようで、我慢できなかった。
ふと、これまでのことを思い返す。
自分が何をしただろうか?
普通に生きていただけじゃないか?
頭に浮かぶのはそれだけ。普通の日常は、いつの間にか普通の異常になっていた。
聞いてみたい、皆に。何かしたの?、気にくわないことした?、そんなに嫌い?って。
でも、それすらも過去の話。今はどうでもいいんだ…。屈服して自分を失うより、例え静かでも抗って…自分を貫くって決めたから。それが、自分を愛してくれたあの人たちへの償いみたいなものだから。
「あれ、どうして…電車降りちゃっていいの?」
「あ、前嶋さん…」
これは、運が悪い。同じクラスの子と鉢合わせなんて最悪、会話するのめんどうだな…。
「ちょっと気分悪くなっちゃって…」
「そうなんだ…私も一緒に付き添おうか?」
この子は、偽善者。普段はこんな態度、学校ではとらないくせに。こんな時だけ優しくしても何も、感じない。
「だ、大丈夫?」
「大丈夫…ごめん、ごめんね…」
「あっ!待って!!」
目が熱い。いつからこんな風になっちゃったんだろう。いつからこんなに人を信じられなくなったんだろう。そんな自分が、やっぱり情けなくて愚かに思えて嫌いで、気づいたら涙が止まらなくなっていた。そんな顔を見せられるはずもなく彼女の前から走り去ることしかできなかった。
せっかく心配してくれたのに…。
やっぱり自分はどうしようもなく痛い子なのかもしれない。
背後から、私を呼ぶ声が…聞こえる…
「まって!まってよ!"美晴ちゃん"!!!」
その日を境に私は…完全に、どうしようもなく…壊れた。
どうも、お久しぶりです。蓮華。です。
久しぶりの投稿でちょっと緊張しながら書かせていただきました。
短い文章ですが彼女の悲痛な叫びが、せめて読者の皆様にだけでも届くことを願っています…
ここまで読んでくださってありがとうございました!近いうちにまた顔を出せたら、よろしくお願いします!




