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EP.10

結論から言ってしまうと、未来は変わっていなかったらしい。本当に一瞬の出来事だったかのような経験を終え、俺たち2人はまだ青空の残る校舎裏へ戻ってきていた。確認のためケータイで開いたネットには事件の記事が出ていた。


"日向燈さんが近所の公園で殺害されていたのが発見された。死因は大量出血、首元をナイフで切られたのが原因とみられている。犯人とみられている古里飛鳥は犯行後に自分で自殺を図ったのか、手首を切ったようで現在は重体で入院中。警察は意識が回復次第、事情聴取を開始する予定だ。"


燈が殺されていることに変わりはないし、犯人が種臣の彼女だったことも…

あれ?

犯人がわかっていたならなんでタイムスリップで種臣を拘束したんだっけ…?


『お疲れ様、秀吉君』


言葉とは裏腹に全く労を労っている様子のない真顔の機械ガール。思考と事実が噛み合わない謎の不信感に襲われている俺を見て彼女は再び口を開く。


『未来、いいえ…現在は変わったわ。あなたと私のおかげでね。』


『あなたと私が飛ぶ前は犯人がわかっていなかった状態だった。けど、今では犯人がわかっている。これが今回の成果よ』


そうなのか…?

自分では全く理解できない。俺が最初に燈の事件を知った朝の時点で犯人が古里飛鳥だということはテレビで流れていたという記憶がある。

でも、種臣を拘束することで事件を解決するためにタイムスリップをした記憶も存在している。


『タイムパラドックスというものかもね』


『変える前の記憶に変えた後の記憶が上書きされているのか?』


『珍しく頭が働くのね、その知略で天下統一目指してみたら?(笑)』


うざッ!!俺は冬の寒い日に上司の履物を温めたりしないぞ!当たってるなら普通に褒めてくれてもいいじゃないか…。


『拘束した記憶が残っていた理屈はなんだ?』


黒子は少し考えるそぶりを見せた後、丁寧に自分の仮説を披露してくれた。


曰く、事象に介入した時の記憶は残ってしまうらしい。つまり過去に対して行ったアプローチだけは記憶に残るらしい。


そう考えると…うーん…どうなるんだ?

今の俺は過去の俺とは違う俺っていうことになるのか?全校集会で黒子に話を持ちかけられたことは記憶にあるけど、それは記憶だけの可能性もあるのか…

上書きというよりはごちゃ混ぜにされた感じだ。


『これが代償なのかもね…』


『代償?』


『この世では何かを得るためには何かを犠牲にしなくてはいけない、時間移動という大事を何の代償もなしに使うなんて理に反するということなのかもね。』


へー、そういうものかね。


ネットの記事と黒子の話を聞いてわかったことは確実に燈を助けられる可能性に近づいていることだ。俺の脳内がごちゃ混ぜになるだけで燈が助かるなら安いものだ。


『次は、古里飛鳥を止めたい、協力してくれ黒子』


彼女は静かに頷くと、


『変わった後の現在の情報をもっと集めた方がいいと思うわ』


と言うがどうしたものか…事件の詳しい情報を警察が教えてくれるわけないしな…


『いるじゃない、知っている人』


『誰だよ?』


『行くわよ』


そう言って校門の方へと歩を進める。この娘、発狂したり意味わからないこと言い出したり話を無視したり…実は欠陥多いよね。。


Exactly(そのとおりでございます)


やめろよ!わかる人にしかわからないネタは!直立不動が共感を呼んじゃうだろ!

こいつと話してると緊張感が薄れる。


黒子・T・春日の後を俺も追うことにする。


この時、俺は気付いておくべきだったのかもしれない。燈を助けられる可能性に浮かれていたせいで大事なことを見逃していることに。




黒子の後ろを歩くこと数十分、到着したのは俺の家の隣だった。なるほどね、燈のお母さんに話を聞くわけか。名前は確か日向陽子さん、燈にそっくりで町内でも名を馳せるべっぴんさんだったはずだ。


ーーピンポーン


ここまで来てなんだが、かなり無作法だよな俺たち。娘さんが亡くなったのにそのことを聞くなんて…


『俺だけでいってもいいか…』


『…確かに…見ず知らずの私がいるより、あなただけの方が良いかもしれないわね』


『助かるよ』


開いたドアの先では少しやつれた顔の陽子さんがいた。俺の顔を見るなり、少し驚きの顔をした後すぐに笑顔を見せる。燈のことを知りたいと話すと家の中へと通してくれる。そのやり取りの間は終始笑顔、この人の優しさと強さに燈の面影を見てしまった。



『お疲れ様』


『あぁ』


話の大筋はネットの記事と変わらなかった。しかし、得た情報もあった。あの夜、燈は誰かに呼び出されていた様で、焦った様子で家を出ていったらしい。陽子さんは古里飛鳥に呼び出されたのではと言っていたが…


『どうするの、これから?』


『古里飛鳥を止めれば解決だろ…それで事件は未然に防がれて終わる…』


『あなたは憎くないの?燈さんを殺しておきながら自分は一命をとりとめている女が』


『…何がいいたいんだ』


『1度防いだだけで日向さんの命に絶対の安全なんて無いわよ、何度でも命を奪われるかもしれない。その度にあなたは彼女を救うの?』


俺は黒子の言葉を聞いて考えてしまう、燈が助かった後のことを。確かにそうだ、何度でも燈を殺しにくる可能性は絶対に無いとは言いきれない。燈が殺されることを繰り返すなんて…絶対に嫌だ。。。


『…じゃあどうすればいいっていうんだよ!!』


『あなたが古里飛鳥を殺せばいい』


俺が人を殺す?突如放たれる人を殺せという言葉はあまりにも重い一言だった。


『日向さんを殺した後に自殺を試みた女よ。日向さんと古里飛鳥が2人とも死ぬか、それとも古里飛鳥だけが死ぬか…そういうことじゃない?』


一理ある、そう思ってしまった自分がいたことに戦慄した。誰かを救うために人を殺す。

どんな理由でも人を殺めることは許されないと教育されてきたはずなのに心のどこかで同調してしまったのだ。で、でも…


『俺がやらなくてもいいじゃないか!!それこそ…黒子がやればいい!!黒子が1人で時間移動して殺してくれれば解決だ…そうだ解決じゃないか!!』


自分でも何を言っているんだお前は、と言いたくなってしまう発言だったのはわかってる。


『ふざけないで』


『あなたに求めてもらえたことはすごく嬉しいわ』


『でもね、勘違いしないで秀吉君』


『私にとっては日向さんがいない現在の方がメリットがあるの、あなたに協力していたのは日向さんのためじゃないわ。秀吉君のためよ。』


凛とした表情で珍しく声の様子を荒げてそう告げる。すっかり見落としていた事実に自分の先程の発言がいかに的外れだったが思い返される。


『でも…でも…俺、俺は…』


『さっきも言ったけど協力はするわ。あなたが少しでも罪の意識にとらわれないようにもね。』


頭が回転するとはよく言ったものだ。本当に脳を使って考えていると実感させるように視界が揺れる。顔を上げて前を見ると真っ直ぐな瞳が俺を逃がしてくれない。

覚悟を決めろと、おまえがやれと、助けたいんじゃないのかと…


大きく深呼吸…鳴り止まない心臓の鼓動を落ち着ける作業だ。このことを覚えていたら燈と上手く関係を築けないかもしれない、でも好きな人には元気で“生きていてほしい”から…


『黒子…』


『どうするの?』


『行くよ…』


人を助けるために人を殺す。誰かの未来のために誰かの未来を奪う行為。そんな等価交換に理解を示した時点で俺はもう戻れないほど狂っていたのかもしれない。






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