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EP.9

警察に事情聴取を受けた後、俺は死亡解剖を終えた変わり果てた姿の燈に再開した。

死因は腹部の損傷による大量出血。警察の話では鋭利な刃物で腹を何回も刺されていたそうだ。

再開した燈の顔は青白く目の前にいる人間に生命がないことを実感させる。

悲しいのに涙が流れない。朝テレビを見たときに全部出してしまったからだろう。


悲しみや怒りというよりは、自分が大切にしていたものを次々に奪われたような虚無感が俺の中にうずまいていた。


翌日の朝には学校で全校集会が行われ、燈の死が生徒達に伝えられた。クラスの女子にはその場で泣き崩れる者も見えた。


『日向さん、残念だったわね』


『あぁ…』


少女が隣から話しかけてくる。

悲しそうな表情で。

俺に話しかけてくる同級生なんてもう1人しか残っていない。

機械のこいつでも人間が死んだことに対して悲しいと感じられる心があったようだ。


短いながらも会話が終わったものと思った俺は校長の話を聞くことに再度集中しようとすると隣に立つ女子はそれを呼び止める。


『犯人に復讐しないの?』


ドクンッ…

心臓が強く鳴る。ずっと考えていたことだ。負の感情を暴力によって吐き出す行為。


燈をあんな目に合わせた人間を同じ目に合わせてやりたい。


大切なものを失ってしまった空き容量の多い心にドス黒いなにかを流し込んでくる黒子。


『犯人なんてわかるわけないだろ…警察でもまったく証拠がなくて、足取りがつかめないらしいからな』


『日向さんストーキングされてたわよ』


『………本当か…それ?』


『昨日あなたたちがイチャついている時、種なんちゃらがこそこそとあなたたちを見てたわ』


種臣さんか…なんであの人が?


っていうか黒子さん、昨日のこと知りすぎじゃありませんかね…


『私も一緒に帰っていたもの』


帰ってないし…

世間では君のこともストーカーと言うと思うぞ。

でも、ストーカーだからこそストーカーに気づいたと言うことなのか…


それでもそんな情報を得たところで俺にできることは何もない。高校生だが探偵をしているわけでもない。見た目は大人、頭脳も大人、その名は富永秀吉くんだ。


『私を使えばいい』


え、えーっと…

話が急にわけわからなくなったな。

君の何をどう使えと?

やっぱさっきの訂正だわ、俺の頭脳は子供でした。


『私の機能を使って犯人の犯行を防ぐというのは子供でもわかると思うわ』


『……なるほど』


そうなると僕の頭脳はどのレベルになるんだろう、、、ハトくらいかな!!


しかし、そう言われてみればそうだ。隣に立つ黒子ちゃんには時をかける少女の機能が備わっていたはずだ。やってみるだけの価値はあるかもしれない。もしこの話が本当なら燈が生きている時間をやり直すことができる。

ただ1つ気になることは、、、


『おまえ、どういう風の吹きまわしだよ』


『あんなに幸せそうな光景を見せられたら、さすがに諦めがつくわ』


自分の好きだった人の幸せを祈るのはいい女の条件よ、っと言うが…信頼していいものか…


でも動かないで絶望に浸るか、動いて希望を掴むか…

答えなんて考えるまでもないんだよな。



考えている間にいつの間にか校長の話は終わり、全校集会が終わりを迎える。体育館中に重い空気が流れる。

今、笑って話をするような不謹慎な生徒はいないが、それもきっと明日までだ。今を生きている人間は死んで置いていかれた人間を気にするほど余裕のある人生を送ってはいないだろう。みんな自分のことで精一杯。

次の日にはきっと昨晩のテレビ番組の話をしているのではなかろうか。


燈を置いていかせたりはしない。絶対忘れさせたりはしない。

流し込まれた黒々としたものに恐怖を感じながらも、俺はそれを受け入れ動くことを決めた。


時間は流れ昼休み。俺の予想は外れすでに学校は休みいつもの喧騒を取り戻していた。

人は忘れる生き物だが、もうちょっと重い空気タイムが長くてもいいじゃないか。もっと人の死を嘆きなさいよ!


『過去に縛られる男乙』


隣でエビフライをもしゃもしゃしながら毒を吐く。エビに毒はないから、毒をもっているのは黒子本人で間違いない。


『はやく朝の続きを…


俺の口をエビが塞ぐ。犯人はウインクをして小さく唇から舌をのぞかせる。


『甘い?』


『ソースの味が濃いな、しょっぱい。』


『そういう意味で聞いたわけじゃないのだけど』


顔をふいっとそらしてしまう。

だが、本当に甘く感じなかったのだからしょうがない。いつもの俺ならこんな状況は相手が黒子でもドキドキがとまらないだろう。可愛い女の子にごはん食べさせてもらって、校舎裏で2人だけでとか…


でもその理由は言う必要はないよね。ここで喜んでたら全国の秀吉ふぁんが嘆き悲しんでアンチが湧いた挙句、活動休止までありえる。クラブも折れれば心も折れるぜ。


『続きをいいかげん頼む』


わかったわ、っと返事をすると彼女は今回の計画を喋る。途中途中で俺をバカにしてきたのだがここでは割愛、話をまとめると…


まずはタイムスリップを行い、俺たち2人で昨日の放課後へ。容疑者候補の種臣を学校の体育倉庫に監禁。その後、戻ってくるだけ。

コンセプトは復讐というより犯行を未然に防ぐ形になったらしい。


……なにこれ。超簡単じゃん。

タイムスリップのタイプは同じ時間に2人の俺が存在するタイプ。過去の俺に今の記憶を焼き付けるタイプではないらしい。黒子は1度、1人で機能を実際にテストしたらしいので確かなのだろう。


気をつけるポイントは2つ。

過去の時間軸で死なないこと、過去の人間に顔を見られないこと。


『昨日のあなたと現在のあなたが顔を合わせるのはよくないわ』


らしい…詳しい理由はよくわからないがタイムパラドックス的なのがなんちゃらかんちゃらなのだ。ひでよしくんはむずかしいことよくわかんない☆


『なるほど、じゃあ善は急げだ!すぐ行こうぜ!』


『そのために今燃料を補給しているのだからちょっと待って…』


揚げ物ばっかり食べてたのは油が燃料ってことだから?よくわかんねぇ…


しかし、他にもわからないことは多い。

まず犯人が本当に種臣なのか。黒子の話を信用するなら犯人に1番近いのはあの男ということになる。けど、動機がわからない。

そして、黒子の協力度。こいつのことをまだよくわかっていないから言い切ることはできないが、燈がいなくなって1番喜びそうな顔を思い浮かべたら白髪の青眼が出てくる。

いい女の条件か…今は信用するしかないか…


『終ったわ、ごちそうさま』


食べ終わったかと思うと立ち上がり…なぜこの娘は目を瞑ってこちらの方を向いているのだ?ちょっと背伸びして顔を近づけているのも不可解。


『なにしてんの?』


『時をかける少女になるにはキスが必要だわ。これは必須よ。』


急に痴女のキャラを追加されても困る。っていうか1人でも時間移動したっていってたよね?


俺が口づけをためらっていると、、、


ズキュウウウン!!!!


視界が真っ白な光で包まれる。


彼女になった幼馴染が死んでるのに次の日には他の女の子とイチャついて、キスまでしてるとかおまえ頭おかしいんじゃねぇの⁉︎

っていう意見はごもっともです…

すいません、後でちゃんと唇を泥水で洗うので許してください…



目を開けると先程までとは明らかに違う景色が広がる。校舎裏に変わりはないが空の色は赤く染まる夕暮れ。


あっけない、こんな簡単に時間移動が成功してしまっていいのだろうか…


『別にこんなものでしょう。メールを送るだけでも移動していた人はいたし、22世紀ではネコでもタイムマシンをもっているのよ』


夢も浪漫も台無しだぜ…

とりあえず種臣を見つけて拘束だ。


『待って!』


黒いローブを投げ渡してくる白髪の青眼の女の子略して黒子さん。


『設定は"東山高校で暗躍する謎の秘密組織"よ!!!』


顔バレ防止用ってことね…それにしてもこの娘、もしかしなくても楽しんでやがるな。人差し指を俺に立ててドヤ顔で言葉を放つ彼女は満足気だ。


よし!種臣を探すぜ!

っと意気込んでいたのだが…黒子さんは優秀でした。俺がしらみつぶしに探そうと走り出すところを足を引っ掛け転ばせることで止めた彼女は、校門を出ようとしていた種臣をレーダーとやらですぐさま発見してしまった。


現在、物陰に潜伏中。黒子との一連のやりとりのせいでまるで緊迫感がない。


『ダンボールを買うのを忘れてしまったわ!!』


気分が紛れて非常にありがたいのだが、黒子さんハイテンションすぎてキャラがブレブレです。


『作戦開始!!』


黒子の号令で物陰から飛び出し、背後からターゲットの視界をタオルで奪う。その間にもう黒子が手と足を紐で縛り終えていた。


『作戦完了!!』


誰にも見られることなく素早く作業を終え、彼女の馬鹿力でターゲットを所定地へ運搬する。ガムテープで口を縛れば完璧だが…抵抗するのが当たり前、


体を必死に動かし口で反抗の意思を表す。


『僕を解放してくれ!行かなきゃいけないところがあるんだ!今日は飛鳥と一緒に帰る日なんだ!部活が休みの日なんで珍しいんだよ!!』


そんな言葉を無視して黒子が彼の口を塞ぐ。


あっけなさすぎてまるで実感のない、ことの終焉を迎えてしまった。もっと謎解きしたり闘ったりと少年マンガのような展開を予想していたのに拍子抜け。


しかし、考え方によってはいいことなのかもしれない。現時点で黒子の話を信じるならこれで燈は殺されず助かることになる。犯行の動機などわからない点は多いがこれで終わりなら燈が生きた明日を迎えることが出来るはずだ。


でも、気になることが多いのも事実。


飛鳥とはたぶん彼女さんのことだろう。一緒に帰るってことはストーキングなんてそもそもできないじゃないか…そうするとやっぱりこの人は関係ない…のか?

でも、解放されたいがための嘘っていうこともあり得る。

本人からもっと話を聞きたかったのに黒子のせいで口は密閉状態。


『おぃ、黒子…ここまでやったけどさ、この人はやっぱり関係ないんじゃ…』


黒子に尋ねようとすると、、、


『フフッフフフフフフ…』


この場で笑い声を僅かでもあげられる人間は2人だけ。俺でないとするともう1人は彼女しかいない。


『フハッ…フフ…ハハハハハ!!』


大声で笑い始める。


『お、おぃ…』


『私たちは1度、ここに来るだけでよかったのよ。』


『は?』


『ここに時間移動してきたと言う事実がこの時間の私のプログラムを起動するキーになるの』


俺の顔を見てはいるが、俺を見ているとはまるで思えない独白のような言葉の羅列。


『秀吉君が私を利用してくれたおかげ、私を頼ってくれたおかげ、私の言うことを信じてくれたおかげ。』


『これで時限爆弾は動き出す…』


全く話がつかめない。呆然としている俺の手を強く握ると、、、


『これで全部上手くいくわ。あなたのおかげ。戻りましょう…』


『それって、燈が生き返ることだよな⁉︎これでいいんだよな⁉︎』


『行くわよ』


眩い光が2人の体を包む。繋がれた右手に温もりはなく、人肌に触れている感触なのに温かさを感じないのは手を握っている相手が機械でできているからという理由ではない気がした。






お久しぶりです、蓮華。です。ここまで読んでくださった読者の皆様、ありがとうございます。


物語の第1部の完結が近づいておりますが、少しでも早く読者様にご覧になっていただけるように執筆を頑張りますのでよろしくお願いします。(1日1EPで投稿できなくてごめんなさい!!)


もうしばし秀吉くんが踊らされる姿を暖かく見守っていただけると幸いです。


次は第1部の最終回で顔を見せようと思います。この後書きまで目を通してくださった読者の皆様に感謝を。



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